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第64話 境界の根

黒い穴に見えたそれは、地の中へ続く斜面だった。

左右に裂けた壁。むき出しの根が絡み合い、奥へ伸びている。


荷車がそのまま突っ込む。

斜面を転げるように降る。車輪がガタガタ暴れる。

ジェットコースターみたいだ。しかし安全ベルトは無い。


暗くて前がよく見えない。

上から砂や小石が落ちてきて背に当たる。

雪乃に覆い被さるようにしてかばう。

そんな俺と雪乃をレスクヴァが目を丸くして見る。

いや、そんな場合じゃないんだ!


前で何かが動いた。

ヨルムンガンドの巨体だ。

岩を押し潰しながら進んでいる。体が擦れる。低い嫌な音が続く。


雪乃が少しだけ顔を上げる。

まだまだ顔色は悪い。

「大丈夫だよ」

「うん」と、微かにうなずく。かすれた声。


斜面が続く。

まだ下る。底が見えない。

空気が重い。湿っている。土の匂いが強くて胸苦しい。


荷車がきしみ。横に振られる。

雪乃の体が転がらない寄り添いながら、片手と片足を横板に押し付け踏ん張る。


地面がますます荒れてきた。車輪が段差に荷車が立ち往生してしまった。

シャールヴィが飛び降りる。俺も。

土やねの細い切れ端で段差を埋めた。

トールが荷車を降りて後ろに回って押す。

シャールヴィがヤギたちを先導する。

車輪はなんとか段差を越えた。


また進む。

斜面はまだ続く。

何度も引っかかる。

止まる。押す。越える。

進む。


やがて、根の密度がまばらにな理、荷車は走りやすくなってきた。

そして、前方が開けてきた。

風が来る。乾いている。奥から吹いてくる。


その先に、白い光が見える。

ぼんやりと揺れている。


ヨルムンガンドがそこにいる。

巨大な根の束に巻きつき、体を押し当てている。


小さい。

さっきより、明らかに小さい。

それでも、その胴はまだクジラより太そうだ。


頭を持ち上げ、胴を根の束を強く巻き、上の方ににじり上がろうとしている。

逃げ場を探しているみたいだ。


荷車はヨルムンガンドのいる白い光の空間へと進む。

景色が開けた。

白い石の床。天井が高い。

中央に、根の塊。

太い束。何本も絡み、盛り上がっている。

表面が割れている。

内側が動く。脈打つ。

低い音が続く。


その周りにヨルムンガンドが巻きついている。

大蛇の目が動き、こちらを見る。

怖い!

でも、襲って来ない。


上を見る。

ヨルムンガンドの上。根の上の方。

根の隙間が縦に広がり、奥が白く光っている。

そこから風が降りてくる。


「あそこか...」トールの低い声。


床で何かがうごめいているのに気づいた。

黒くてドロドロしている。

ゆっくりと周りに集まって来る。


「囲まれるよ」シャールヴィが叫んだ。


根にはまだ黒が上がって来ていない。

「行くぞ」トールが手綱を操る

そして、黒いドロドロを避けながら荷車を根の横に寄せた。


体が浮く。

トールに抱えられ、俺と雪乃は荷車から根の上に移った。

足場が悪い。

根がわずかに脈打っている。


レスクヴァが続く。

足を滑らせる。すぐ立つ。

シャールヴィがヤギの縄を外した。

ヤギが根を登る。

足場を選びながら素早く登っていく。


下を見ると黒が寄せて来ている。

それらが根に触れるとジュッと音がして、煙が上がる。タイヤを燃やしたような嫌な臭いが沸き上がる。

荷車が黒いドロドロに呑まれていく。


上ではヨルムンガンドが根に巻いている。

その上には白い隙間...

そこしかない。


「ヨルムンガンドを乗り越える」トールの声。


ヨルムンガンドが体を震わせ、根に強く巻きつく。

裂け目がきしみ、さらに広がる。


黒いドロドロが、根を上がって来た。もうすぐそこまで来ている。


時間が無い。

俺は雪乃を見る。

雪乃もこっちを見る。

顔色が悪い。肩で息をしている。

それでも...

ふらつきながら立ち上がった。

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