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第63話 逃げ去るヨルムンガンド

風と波の音。

雪乃は、停めた荷馬車で横になっている。

呼吸は落ち着いたが、まだ完全ではない。

俺はそばに座っていた。時間がどれくらい経ったのか分からない。


やがて雪乃が目を開ける。

「少し、楽に...なったよ...」掠れた声。微かに微笑む

「ほんと?」

「うん...」


起き上がろうとするのを止める。

「無理しないで」

「でも...行かないと」

「まだいいよ」

「だめ」

弱い声なのに、はっきりしている。

「わたしのせいで...」

「そんなの気にしなくていい」

雪乃は首を振る。「見失ったら...今しか、ない」


その目は弱っているのに逃げていない。俺は言葉が出なかった。

本当は休ませたい。でも雪乃はもう自分で決めている。


「うん...わかった」


トールを見る。トールもこちらを見ている。

そして雪乃に視線を移してから、ゆっくりとうなずいた。


ヤギたちが動き出す。荷車が再び走る。

雪乃は毛皮にくるまったまま座り、レスクヴァが横につく。

「また変になったらすぐ言うんだよ」

「うん」


トールが無言で手綱をさばく。シャールヴィはヤギを見つめている。

俺は雪乃の様子を見て、それから前を見る。

浜辺の先、地形が変わってきた。砂がえぐれ、黒く巨大な筋が走る。

何かが通った跡。

「近いな」とシャールヴィがつぶやいた


いた。遠いが、見えてきた。

黒い巨体が浜を削りながら前へ進んでいる。


「あれ...」レスクヴァが首を傾げる

まるで逃げているみたいだ。ヨルムンガンドが。


「届く!」トールが立ち上がり、ミョルニルの槌を構えた

そして振り下ろした。

白い閃光!雷光が虚空を走理、ヨルムンガンドの巨体に当たる。光が弾ける。

しかし...大蛇はほんの少し体が揺れただけで、そのまま進む。


「効いて...ない?」レスクヴァが驚いている。口をぽっかり開けて


トールはもう一度振るう。空気が震える。それでも鱗すら砕けない。

ヨルムンガンドはとどまらず、のたうちながら前へと激走する。

「効かぬか...」トールの声が低い


前方の地形が崩れている。黒い穴。地面が落ちている。

近づいて判ってきた。斜面になって地の中へ続いている。

ヨルムンガンドがそこに滑り込む。巨大な体が吸い込まれて行く。

砂が崩れ岩が転がる。そして最後の尾も闇に飲まれた。


雪乃が無言で見つめている。


「追う」トールが手綱を引く

まだ追える。荷車が動き加速する。そして斜面へと。


雪乃を俺を見てうなずいた。

顔色はまだまだ疲れているのに...



そして、荷車は黒い穴へと突っ込んだ。


砂が崩れる。車輪が滑る。ヤギたちが踏ん張る。斜面を一気に下る。

潮の匂いが消える。土の匂いが強くなる。空気が変わる。


暗い。すぐに目が慣れない。

上から落ちてきた砂がパラパラと背に当たる。

遥か前方でヨルムンガンドの体が先で動き、岩が砕ける音が響く。


荷車がガタガタと揺れる。雪乃を横板と俺の間に寝かせ、転がらないように守る


荷車は暗い斜面を落ちるように進む。まだ続く。底が見えない。

前方で黒い体が曲がる。進路を変える。さらに奥へ。

「まだ下るのか...」シャールヴィが低く言う

トールは答えず手綱を操る。ヤギたちはさらに走り続ける。


斜面がさらに急になる。車軸がうなり、荷車が傾ぐ。

前を見ると、黒い巨体が消えかけている。

見失う。そう思った瞬間、また動いた。まだいる。


雪乃がわずかに顔を上げて俺を見上げる。

「大丈夫」俺はうなずいた


さらに下る。闇が濃くなる。

その先に、わずかに光が見えた。

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