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第60話 潮の匂い

荷車は岩場を谷を抜けた。

風が変わった。

冷たい風じゃない。


「あ!」隣で雪乃が顔を上げた。

「どうしたの?」

雪乃は風の方を見る。

「匂い」そして、スーッと息を吸い込む

「潮の匂い」

俺も空気を吸う。

うん、今までの冷たい山の空気じゃない。

湿った、なんとなく濃密な空気。

海の匂いだ。

「大きな水が見えてきた。海だぞきっと」シャールヴィが立ち上がり、荷車の横板に手をかけて言った。

ヤギが首を振り振り、坂をゆるやかに下っていく。

岩が減り、地面が少し柔らかくなる。

雪も薄くなっていた。


レスクヴァが荷台の端から身を乗り出しながら言った。

「あれが海?どのくらい大きいのかな?」

「めちゃくちゃ大きいらしいぞ。父さんが言ってた」シャールヴィが答える

「どれくらい?」

シャールヴィは少し考えた。

「ずーっと水」

「ずーっと?」レスクヴァの目が丸くなる。

「そうだ。歩いても、歩いても波打ち際、泳いでも泳いでも水だ」ロキはそう言ってクスッと笑った

レスクヴァはしばらく考えてからつぶやいた。

「それ、ちょっと嫌だ」

「近寄らなければ良い」あっさりとトールが言った

「でも行くんでしょ」レスクヴァが口を尖らせた


荷車がゆっくり進む。


地面の草が増えてきた。

雪の間から茶色い草が顔を出している。


強い風が吹いて来た。

今度ははっきりと潮の匂い。


雪乃が立ち上がり、荷台の上でバランスを取って前を見る。

「見える!」

俺も立つ。

谷の先。地面が急に開けたその向こう、灰色の空の下に、広い水。

海だ。


風が強そうだ。波が遠くで白く砕けている。

ゴォォ...

低い音が聞こえてきた。あれは波の音。


トールがヤギの進みを停め、荷車が止まった。

俺たちは降りた。

風が強い。ミトンの手袋をしていても指が冷える。


大きな海。

雪乃が静かに言う。

「鳥がいない...」眉を寄せて海の上を見ている

空を見る。

確かに。海の上なのに鳥がいない。

普通ならいそうな気がする。

カモとか...


「なるほど」ロキが腕を組みつぶやいた

「どうしたの?」シャールヴィが聞いた

ロキは答えず、海の方を見る。


ザッボーーーン

沖で水が大きく暴れ、白波が湧いた。


普通の波じゃない。何かが動いた。水の中に黒い影。

長い......

ゆっくり沈んでいった。


レスクヴァが俺の袖を掴む。

「ねぇねぇ、今の見た!?」

「うん」

雪乃も海を見ている。


「海も具合が悪いらしい」ロキが片目を細めた


トールがミョルニルの槌を握って立ち上がる。


波の音。

ゴォォ、ゴォォ......


また海の水が大きくうねった

長い影がゆっくり動く。


まるで、海が悶えているみたいに。

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