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第53話 ヤギが避ける草

荷車は雪原をゆっくり進んでいた。

キュッ。キュッ。キュッ...

ヤギの蹄が雪を踏む音が続く。

道ではない地面は、平らなように見えても凹凸があって、車軸は軋み、荷台が揺れる。その振動が腰や背に響く。


空は淡い青。

朝の光が雪に反射して、辺り一面が明るい。


レスクヴァが荷台の横板から身を乗り出した。

「まだ、あのおじいちゃんちの煙が見えるよ〜」

振り返ると、さっきの老人の家の煙が細く漂っている。

だけど、もうずいぶん遠い。


「腹があったかいと寒さが違うな」シャールヴィが荷台で背伸びをした


そう、鹿のスープの余韻が体に残っている。

指先もまだ少し温かい。


トールは黙って手綱を握っている。

ヤギは一定の調子で歩いていた。


その時。

キュッ...ヤギの足音が止まった。

荷車がふっと揺れて静まる。


「ん?」シャールヴィが前をのぞく


ヤギが二頭とも立ち止まっていた。

鼻先を地面に向けて。


雪の隙間から草が出ている。

細い葉。

白い粉がうっすら付いている。


ヤギが近づく。

フン、フン......匂いを嗅ぐ。

でも、食べない。


「おい」シャールヴィが眉を上げた

「どうしたの〜?」レスクヴァも荷台から飛び降りた

そして、しゃがみ込んでヤギの鼻先の草を見る。

「いつもなら食べるのに」


俺と雪乃も降りた。

毛皮を押さえながら草のそばへと歩く。


雪乃が慎重な手つきで草を一本摘む。

指先で転がす。

それから鼻に近づけた。

静かに匂いを嗅ぐ。少しだけ目が細くなる。

「どう?」

雪乃はもう一度嗅いだ。

それから言った。

「この匂い...なんだか落ち着かない」眉根を寄せている。


風がさらっと吹いた。

雪の粒が流れる。


ヤギがまた一歩後ろに下がる。

「変なの!ヤギが草を避けるなんて」シャールヴィが笑った

「ねぇ、どうしたの?」レスクヴァがヤギの顔をのぞく


ヤギは草を見ている。

でも近づかない。


トールがしゃがんだ。

太い指で草を一本つまみ、匂いを嗅ぐ。

そして、ポイッと捨てた。

「食うな」厳しい声


ロキは荷車の横に寄りかかり、腕を組んで、その様子を見ている。

口元がわずかに動く。

「慎重だね」


雪乃は草を見つめている。

葉の裏を指で触る。

白い粉が指についた。

それを雪の上で払う。

何か考えている顔だ。


「よし」シャールヴィが手をパンと叩いた

「回り道しようよ」ヤギの向きを変える

トールがうなずいた。

シャールヴィはヤギを先導し、皆は荷車に乗った。

トールの手綱が動く。

荷車が軋み、ゆっくり進み出す。


俺は振り返った。

さっきの草が雪の中にぽつんと残っている。

その周りだけ、雪が少し溶けている気がした。

何か不自然な感じ...


荷車が揺れる。

雪乃が隣に座った。少し黙っている。

それから小さく言った。

「さっきの草...」

俺を見る。

「あの匂い...なんだか頭が痛くなったの」

ロキがそれを聞いて、静かに笑った。


ヤギの蹄がまた雪を踏む。

風が雪原を流れていった。

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