第3章 第51話 朝の光
ウトガルド城を後にした俺たちは、手頃な丘の窪みを見つけて野営した。
焚き火はもう小さくなっていた。
灰の下で、赤い炭が弱々しく光っている。
夜の冷え込みは強かったが、
火の近くは有り難かった。
レスクヴァが丸くなって寝ている。
毛皮にくるまって、顔だけ出している。
寝息が小さく聞こえる。
ヤギの方からも音がした。
荷車の横で二頭のヤギが寝そべっている。
顎をゆっくり動かし、寝転びながら草を食んでいる。
ロキが火をつついた。
「朝だね」
灰がふわっと舞う。
空は少し明るくなっていた。
東の空が薄い青色に変わっている。
雪がその色を受けて、
青白く静かに光っている。
シャールヴィが伸びをした。
骨がコキコキと鳴っている。
「さむっ」白い息がモクモク。
トールはもう起きていて、ヤギの様子を見ている。
背中に霜が少しついている。
トールがそれを手で払った。
寝てないのか?
この世界は何が起こるか分からないからなぁ...
「出るぞ」トールが言った。
「う〜ん...」レスクヴァが起きる。
目をこする。シャールヴィと同じ淡い色の髪の毛がバサバサだ。
雪乃は毛皮を整えて肩に羽織った。
その手が赤い。
この世界に来る前、そんなに寒くはなかったから、手袋は無しで学校に行ったんだよなぁ...
俺も起き上がる。
「いて...つぅ」足が少ししびれている
シャールヴィが袋を開けた。
昨日の肉の残りを取り出す。
「朝飯にしよう」
昨夜焼いた肉の残りだ。火の上で少し温めるだけで食べられる。
肉の脂がまた溶ける。相変わらずいい匂い。
レスクヴァが鼻をひくひくさせる。
シャールヴィが笑いながら肉を小さく切る。
ヤギにも一切れ投げる。
ヤギがパクッと食べた。
レスクヴァがそれを見て笑う。
「ヤギが肉を食べるの!?」雪乃が驚いている
俺も驚いた。
「こいつら何でも食うぞ」ロキがヒヒヒと笑った。
「颯太と雪乃のとこのヤギは肉を食べないの?」レスクヴァが不思議そうな顔をしている。
「よくわからないけど、たぶん草ばっかり食べてる」と、俺は答えた
雪乃が地面を見ている。
雪の間から小さな葉が出ている。
それを指で摘み、
「これ」雪乃が目を細めて匂いを嗅ぐ。
「食えるの?」シャールヴィがのぞき込む
雪乃がうなずく。
葉をちぎって肉に乗せる。
昨日の草と似た匂いがした。
少し甘い。
レスクヴァがかじる。
「お!おぉ〜!うまい」
トールも食べる。
小さくうなずいた。
ロキが片目を閉じて雪乃をうかがう。
「君はすぐ見つけるね」
雪乃が少し困った顔をする。
「匂いがするの...いい匂い」
「それは便利だ」シャールヴィが目を輝かせて笑った
朝日が山の端から出た。
雪が金色に輝く。
皆で荷車に荷を戻し、
トールがヤギの手綱を取る。
レスクヴァが荷台に飛び乗る。
「出発!」
ヤギが歩き出す。
雪をキュッキュッと踏み分ける。
空気が冷たい。
でも朝の景色は綺麗だ。
俺は少し後ろを見た。
遠くの海。
静かな水平線。
空には、もう何も動いていない。
あれは気のせいだったのかもしれない。
荷車が揺れる。
雪乃が隣に座っている。
「ねえ」俺の方に顔を向ける雪乃。朝の光に輝く顔...
「うん?」
「この世界の朝、綺麗だね」
俺は空を見る。
うん、綺麗だ。
寒いけど。
でも、嫌じゃない。
荷車は雪の大地をゆっくり進んで行く。




