表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
50/76

第50話 焚き火

ウトガルドの城を後にした。


雪は深くない。

けれどかなり冷える。

ヨッツンの爺さんからもらった毛皮の肩掛けがありがたい。

寒さをしのぐためか、雪乃が横に肩を並べて座っている。

今はヤギたちが牽く荷車の上だ。ゴツい荷台だから広さはそこそこある。

それなのに、あんなに苦しんだトールのマント袋の中と大差無い距離感。

人間って不思議なものだ。


風は弱い。

空は暗く、星がたくさん輝いている。

「ほんとに城無くなっちゃったねー」レスクヴァが何度も振り返る


岩山しかない。

さっきまで巨人たちがいた場所が、

ただの黒い岩山の連なりになっている。


「まあ、巨人だしなぁ。あいつら、だいたい訳がわからない」シャールヴィが鼻を鳴らした

「それで済むの?」俺が聞くと

「だいたいのことはそれで済むぞ」ロキがニヤッと歯を剥いた。

トールはさっきからずっと黙ったまま御者席でヤギたちの手綱を取っている。


やがて小さな岩場に出た。

風が少し弱まった。


「ここで休もうよ」シャールヴィがトールに声をかける

トールがうなずいた。

「火を」


シャールヴィが荷車から飛び降りて、すぐに動き始めた。

手頃な石を集め、乾いた枝を拾う。

火打ち石で、すぐに小さな火がついた。

薄い煙が上がる。

そして火が育っていく。


「あったか〜い!生き返る〜」レスクヴァが手をかざす

雪乃も火の近くに座った。優しい炎のオレンジ色に頬が染まり輝く。

俺も両手を出す。指先がじんわり温かくなる。


シャールヴィが袋を開けた。

肉の塊。

巨人の城で、持って行けと渡されたものだ。

肉を串に刺す。

「焼くぞ〜♪」

火の上にかざす。

ジュッジョジョワー...

脂が落ちて火が揺れる。

いい匂いが漂い始めた。


レスクヴァの腹が盛んに鳴っている。

「正直な腹だ」ロキが笑う

「だってお腹空いたんだもん!」レスクヴァの耳が赤くなった

ウトガルドの城での巨人たちの宴で、そこそこ食べたのに不思議なものだ。

俺もお腹が空いた。


シャールヴィが肉をひっくり返す。

「よし」

トールに渡す。

トールがかじる。

しかし、相変わらず無言。

ウトガルド城での試練以来、ずっと機嫌が悪い。

勝てるわけのないものに挑んだんだからしょうがないし、

巨人族の王だって、大したもんだって褒めてた感じだったし...

あ、肉を食べ始めたら、ちょっとトールの顔が緩んだ♪


レスクヴァも自分の肉を持つ。

「あちち」ふうふう吹く。

「うま!」

シャールヴィが笑う。


雪乃はポケットを探っている。

小さな葉っぱを取り出した。

「あ、それさっきの草?」俺が聞くと

雪乃がうなずき、火のそばで葉をちぎる。

指で少し潰す。

柑橘みたいな匂いが出た。

それを肉の上に乗せる。

「こうすると爽やかな味になって、もっと美味しくなると思う」

ハーブだな...

レスクヴァが真似してかじる。

「すっぱ〜い!」でもすぐ笑う。

「でも、これ美味しい!」


ロキが葉をひとつ受け取り匂いを嗅ぐ。

「ほお...」

「肉に合うし、こういう草は元気が出るのよ」雪乃が言った。

「ふむ、人間は面白い」ロキが雪乃の顔を見ながら笑った。

「そう?」雪乃が首をかしげる。

ロキは両手を掲げ、顔を歪ませて微笑み、

「神は世界に勝とうとする」

火がパチリと弾けた。

「でも人間は」ロキは葉を指で回す。

「世界と仲良くなる」


雪乃は少し考えて、それから視線を落として笑った。

「そうかもしれない」少し嬉しそうだ


トールは満足するまで肉を食べたようだ。

「行くぞ」そう言って立ち上がった。


荷車の荷台に上って、慣れた場所に座る。

遠くで波の音が聞こえた。

彼方に海が見える。この世界に来て初めて海を見た。

ここは低地だと思っていたが、高台の平原のようだ。


遠い暗い水平線。

あっ......

水平線の向こうで、長い影がゆっくり沈んだ気がした。


でも......錯覚だったのかもしれない。


雪乃が隣に座っている。

火と食事で気持ちまで温まった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ