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第49話 ウトガルドの巨人の王

広間は静かだった。

試練が終わっても、巨人たちが騒がない。

低い声で話しながら、肉をかじっている。

骨が石の皿に転がる音が、カランと鳴る。

火皿の油が、ぱち、と弾けた。


猫はまだ床に寝ている。

ブ〜ゴ〜...ブ〜ゴ〜...

喉の音が、床を通して足の裏に伝わってきて、少しこそばゆい。

尻尾が時々ゆっくりと動く。

そのたび、床の皿が小さく揺れた。

「また寝てる」レスクヴァが猫を見て言う。微笑むレスクヴァの顔もなんか猫っぽい


トールは腕を組んでいる。

さっきからずっと黙ったまま。不機嫌そうだ。


巨人の王が立ち上がった。

石の床が低く鳴る。

広間の空気が変わる。

巨人たちが王に注目する。


王が言った。

「トール」


トールが顔を上げる。


「お前は強い」王の声は低く鋭い

トールは何も言わない。

王は続けた。

「だが、お前たちは、勝てない相手と戦った」


「え?」レスクヴァとシャールヴィが驚いて身を乗り出して巨人王を見た


そして王はトールを見る。

「お前が飲んだ酒...あれは海だ」

広間が静かになる。


雪乃が俺を見て、

「やっぱり」と、小声で言った。


王が続ける。

「角の先は海につながっていた」


トールが眉を寄せた。

「よく飲んだよな」ロキがくくっと笑う


王は今度はシャールヴィを見る。

「お前の相手、フギは、」

「速かったな」シャールヴィが両手を広げ、まいったという顔をして笑った


王が言った。

「あれは思考だ」

レスクヴァがぽかんと口を開ける。

「思考?そうか、考える方が早いもんな。足より」シャールヴィが大笑いした


王が猫を見て指差す。

猫は寝ている。

「それは猫ではない」


トールが顔を上げた。


王の声が低くなる。

「世界を囲む大蛇、ヨルムンガンドだ」


トールの目が少し開いた。

「ほらほら、大変なものだ」ロキが笑う


王は最後に言った。

「雷の神よ、お前が相撲を取った老いた女は、老い....つまり時間だ」


トールは無言で腕を組んで立っている。


「神は強い」王が重々しく言った。

「だが...世界はもっと強い」


猫が寝返りを打った。

ゴロ...

フッサフッサと尻尾が床をなでる。

「すっごい猫だったんだ!」レスクヴァの目が驚きに光った

「そういうことだな」ロキが、また顎に手をやりながら笑った


巨人の王がほんの一瞬、こちらを見た。

雪乃を見て、そして俺を見て、目が細めた。


「人間は、面白い」低い声。

「そうだろう?」ロキがニヤリと笑った。



宴はそれで終わった。

外に出ると、冷たい風が吹いていた。

雪原が広がっている。


巨人の城、ウトガルド城の門を出て振り返ると...


城が......無い。

ただの岩山になっていた。

「あれぇっ!?」レスクヴァが叫ぶ

「幻だよ」ロキが淡々と答えた


トールは黙って歩いている。

遠くに海が見えた。

暗い海。波がうねっている。


その水平線に、何かが動いた気がした。

巨大な輪のような影。

「さっきの猫...」雪乃がつぶやいた。

「気づかなくて良いこともある」ロキが優しく笑った


風が吹いた。雪が少し舞う。


「でも...猫、あったかかった」雪乃が笑った

俺も笑った。



少しだけ、怖い。

この世界は、

まだ分からないことばかりだ。

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