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第48話 老女

猫はまだ広間の中央にいる。

だらりと横になっている。

雪乃に撫でられたあと、すっかり満足したみたいだ。

ブ〜ゴ〜ブ〜ゴ〜...

喉の奥で低く鳴る音が、石の床を通して足に伝わってくる。

時々、尻尾がゆっくり動く。


「でっかいなぁ...」レスクヴァがしゃがみこんで猫を見て、そっと手を伸ばす

猫が目を開けた。金色の目。

レスクヴァと目が合う。

レスクヴァが「ひっ!」と言って、なでる手が止まる。

猫は少しだけ首を動かした。

そして、ブフン、と鼻を鳴らした。

レスクヴァが慌てて手を引っ込めた。

「怒った!?」

「ただのあくびだろう」ロキがくくっと笑う


猫はまた目を閉じた。

ブ〜ゴ〜ブ〜ゴ〜...

「眠いのね」雪乃が笑った


トールは腕を組んでいる。

さっきから一言も喋っていない。


巨人の王がゆっくり立ち上がった。

長い影が石壁に伸びる。

「最後の試練だ」


広間が静まる。

火皿の油がパチと弾ける音ばかりが響く。


王が言う。

「トール」

トールが顔を上げる。


「相手をするがよい」王が右腕を掲げた

奥の扉が開く。

ギィィ......

冷たい風が流れ込む。


そこから出てきたのは...

老女だった。

背中がひどく曲がっている。

灰色の髪、落ちくぼんだ目、深いしわ、垂れた皮膚。

細い腕。ガニ股に膝が曲がった細い脚...

そして、他の巨人に比べると、かなり小さい。

2メートル半ほどの身長のトールよりも小さい。

しかも腰が曲がっているから顔の位置は半分の高さだ。


杖をついてひょこひょこ歩いてくる。

コツ、コツ、コツ...

石の床に杖の音が響く。


「え〜!?おばあちゃんと?」レスクヴァが首をかしげた


老女はゆっくり歩いてきて、広間の中央で止まった。

トールの前に。

トールは見下ろしている。


老女はトールを見上げた。

目は濁っていない。そして鋭い眼差し。


王が言った。

「相撲だ」


「ええっ!?」レスクヴァが叫ぶ

「なるほど」ロキが肩をすくめた。


トールが一歩前に出る。

石の床がゴシっと鳴る。

老女は動かない。

ただ杖を脇に置いた。

背中は曲がったまま。


トールが少し困った顔をした。


「こんなの勝負にならないでしょ」レスクヴァが小声でささやいた

「そう思うかい?」ロキが目を細めて苦笑いをした。


トールが腕を伸ばす。

老女の肩をつかむ。

その瞬間、老女の体が動いた。

グイッとトールの腕が引かれる。

「!」トールが踏ん張る。

石の床がギシィと唸る。

老女は小さい。しかし恐るべき力のようだ。

トールの足がわずかに滑り、体が傾く。


「ウソぉ!?」レスクヴァが変な声で叫んだ

老女の体は細い。でも、びくともしない。

そして、少しずつ、少しずつ、トールが押されていく。

トールの足が石の床で踏ん張っている。

その状態が続く。

トールの顔が赤くなる。

腕の筋肉が盛り上がる。わなわなと震えている。

老女はガニ股の足でフワリと立ち、

じわじわ、じわじわとトールを押していく。


「違う...何かが変...」何かが引っかかったような声で雪乃がささやいた

うん...変だ。俺も思う。

この老女は軽そうだ。

なのに、この確実な押す力...

トールの方が押されていくなんて。


次の瞬間、

ドスッ!

何と、トールの膝が床についてしまった。


広間が静まり返る。

トールはすぐに立ち上がり、激しく息を吐いた。


老女は無表情で杖を拾っている。

そして、ゆっくり歩いて戻って行った。


巨人の王が言った。

「あれは、......老いだ」


「え?」レスクヴァが何のことか分からず口を尖らせている。


さらに王は低い声で言った。

「時の流れには......誰も勝てない」


広間が静かになる。

猫が寝返りを打った。

尻尾がゆっくり揺れる。


巨人の城の試練は、呑んでも、速さでも、力でも、勝てないものばかりだ。

海の匂いの尽きぬ液体。思考。世界。時間......全部。

でも...


俺は雪乃を見る。

雪乃も俺を見る。

不思議だ。怖い。

でも...


なぜか、怖いだけじゃない感じがする。

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