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第47話 猫を持ち上げる

石の床に置かれた大きな布がほどけ、

中から出てきた猫は...


普通の猫ではない。

デカい、そして、なんだかものすごく長い。


体をだらりと伸ばして横になっているだけなのに、背中がちょっとした丘みたいに盛り上がっている。

灰色の毛。

毛並みは意外ときれいだ。火の光を受けて、ところどころ銀色に光る。


尻尾が広間を横切っている。

尾は先っぽが、クニャリと曲がっていた。


「猫?」レスクヴァが目をまん丸くして見ている。

「そうらしいね」ロキが歯を見せて笑った。


猫は寝ている。

腹がゆっくり上下している。

息を吸うたび、背中の山がほんの少し膨らむ。

その動きに合わせて、床が微妙に震える。


俺はその音に気づいて、足元を見た。

石の床が、微かに沈んでいる。

猫の胴体の周り。


重い。見ただけで分かる。

ただ寝てるだけなのに、そこに山がひとつ置かれてるみたいな重々しさだ。


「トール」巨人の王が冷たい声で言った

トールが顔を上げる。

「持ち上げろ」表情も無く命じる王


「猫を?」レスクヴァが吹き出した

巨人たちの間からも、低い笑いが重なる。

ゴボ...ブボボ...ブボボボボ


トールは猫を見下ろした。

猫はまだ寝ている。

片方の耳だけ、ぴくりと動いた。


トールが近づ機、猫の横に立つと、トールでも小さく見えた。

トールがしゃがむ。

猫の腹の下に腕を入れる。


猫が目を開けた。ゆっくりと。

金色の目。

眠そうな顔でトールを見る。

猫はあくびをした。顔中が口みたいな大あくび。

口の中が見えた。牙が白い。

でも、怖いというより...

のんびりしている。


「行くぞ」トールが声を吐いた

腕の筋肉が膨らむ。

グッ。持ち上げる。

石の床が、ギシィと、うなった。


猫の体が、ほんの少し浮いた。

いや、違う。


浮いたのは...

足一本だけ。

猫は体をほとんど動かしていない。

ただ、片足が少し持ち上がっただけだ。


巨人たちの笑いが広がる。

ブボボボ♪ゴボ...ブホオ♪


「もうちょいだよ〜!」レスクヴァが腕をブンブン振って叫ぶ

トールが歯を食いしばる。

もう一度。ググッと。

腕の筋肉がはち切れそうに太くなる。

肩の筋肉が赤く盛り上がる。


猫の背中が、わずかに揺れる。

しかし...

それだけ。

猫は持ち上がらない。

猫はトールをボーッと見ている。

目が半分閉じている。

まるで、「なにしてるの?」と言っているみたいな顔。


トールが息を吐いた。

腕を離す。

猫はまた、だらりと横になった。

巨人たちの気持ちの悪い笑いがまた広間に渦巻く。


トールは腕を組んだ。

何も言わない。

ただ少し眉が寄っている。厳しい表情だ。


「次の試練だ」と、巨人の王


その時、雪乃が一歩前へ出た。

「雪乃!」


雪乃は猫を見て、そして、しゃがんだ。

猫の鼻先の近く。

猫が目をゆっくりと動かした。

そして、雪乃を見る。


雪乃が手を伸ばした。

そっと、猫ののどに触れ、腕と指を動かし、そっと撫ではじめた。

毛がフワリと動き、波打った。

猫が目を細める。

そして。

ゴロ...

低い音が出た。

ゴロロ..ブーゴォブーゴォ...

猫が喉を鳴らし始めた。


広間が静まる。

巨人たちがざわついた。

「おい」

「なにしてる」

「撫でてるぞ」


猫は動かない。

ただ、喉を鳴らしている。

ブーゴォブーゴォ...

「温かい」雪乃が微かな声でつぶやいた


俺は大根この背中を見た。

灰色の毛。

ゆっくり上下する背中。

確かに温かそうだ。


この広間は寒い。

石の床は冷たい。

でも猫のもふもふだけ、シャールヴィの家の囲炉裏みたいに温かい。


雪乃が振り向いた。

俺を見る。

俺も見る。


何となく感じた。

怖い。でも。

嫌じゃない。


「なるほど」ロキが小さく笑った。


巨人の王がゆっくり言った。

「トール」


トールが顔を上げる。


「お前が持ち上げようとしたものは」

少し間があった。

火の音がぱち、と弾ける。

「世界だ」巨人の王が厳かに語った


広間が静かになる。

レスクヴァは直ぐには訳もわからず口を開けている。


猫は寝てしまった。

尻尾がゆっくり揺れる。

やっぱり、長い。

俺はその尻尾を見ながら思った。


なんだろう、この感じ。

一杯一杯につまったようなこの重い感じ。

すごく重い。


でも...

嫌な重さじゃない。

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