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第44話 宴のあと

巨人たちの宴は、思っていたより静かだった。

静かと言っても、人間の感覚での話だけど。

巨人たちが肉を裂き、骨を割り、酒をあおるたびに

ゴゴン。ゴボォ。ドゥンと低い音が広間に響き空気を震わせる。

そのたびにテーブルがビリビリ響き、足の裏にじわりと伝わってくる。


俺は肉の塊を両手で持ってかじった。

味付けは塩だけみたいだけど、脂が甘くて美味い。


レスクヴァはと言えば、巨大な骨のくぼみに溜まった汁をすくって飲んでいる。

「これ、スープみたい!」

「骨髄は元気が出るぞ」ロキが笑った

レスクヴァは「へえ」と言いながら、またすくって飲んだ。


シャールヴィは巨大なパンのようなものをちぎっている。

石みたいに固いが、スープに浸して食べると柔らかくなって美味いぞと言ってモリモリ食べている。


雪乃は皿の端に広がっている緑を集めていた。

「これ、たぶんノビルの仲間ね」

「ノビル?」

「ネギみたいな野草」

少しかじってみる... お、本当にネギみたいな味がした。

巨人の料理の中で、これは妙に馴染みのある味。


広間の奥では巨人たちが酒を回している。

巨大な樽を傾け、壺に注ぎ、それを一息に飲み干す。

ゴボォォォ

喉を鳴らす音が地鳴りのようだ。

「すごい量だねぇ」レスクヴァが大きな口を開けて感心している

「神でもあれは無理だな」ロキが片目を細めた


横でトールが肉をむしって食べながら言う。

「酒なら負けん」

「言ったな」ロキが眉を上げてニヤリと笑った



広間の奥で椅子が鳴った。

ギギィ...

巨人の王がゆっくり立ち上がった。

それだけで空気が変わる。

さっきまでの宴のざわめきが、すっと静まった。


巨人たちが顔を上げる。

王は広間を見回し、ゆっくり口を開いた。

「小さい者たち」

低い声が天井に当たり、部屋に広がる。

「よく食べるな」


「ありがとうございます!」レスクヴァがぴしっと背筋を伸ばした

王の目がわずかに細くなる。


「ロキは言った」王は続けた。

「お前たちには力があると」


広間の巨人たちが低く笑った。

ゴボォ...ゴボボ...重い笑い声。空気が嫌な振動を繰り返す。

背中がむずむずすしてきた。悪寒がする。

あの笑い方、どこかで聞いたことがある。


教室の後ろの方の席。

誰かが小さく笑う。

その笑いが広がる。


――いや...

違う。

ここは巨人の城だ。

俺は肉を握る手に力を込めた。



王がトールを見る。

「雷の神」

トールは顔を上げた。

「お前の力は聞いている」王が静かに言った

巨人たちがうなずく。


「そうか」トールは骨を置き、腕を組んだ

「ならば見たい」王はゆっくり言った


広間の空気が少し動いた。


「なんか始まるね」レスクヴァが上目がちに王を見て小声で呟いた

ロキは笑っている。


王は広間の中央を指した。

「この城では、客に遊びを用意する」


遊び......

その言葉に、巨人たちがざわめいた。

「やるのか」

「久しぶりだな」

「神でも無理だったがな」

そんな声が混ざる。


雪乃が俺の袖をそっと引いた。

「...何か変」

「え?」

「楽しんでる感じじゃない」雪乃は目を細め眉をひそめて巨人たちを見ている

「期待してる」

「何を?」

雪乃は少し考えて、小さく言った。

「失敗」


その時、ロキが前に出た。

「遊びか?」王を見上げて言った

「面白そうだ」王の口元がわずかに歪んだ


「ならば」広間の奥で巨人たちが席を引く

ゴゴン。ドゥン。ギィィ

椅子が動き、テーブルは広間の傍に移され、石の床が広がった。


「まずは、酒だ」王が宣言した

巨人たちが低く笑う。

広間の奥から何かが運ばれてくる。

長い。細い。何の動物のツノなのか巨大なツノ。角杯。

その中で酒がゆらゆら揺れている。


王はそれをトールの前に置いた。

ドン!

床が震えた。


「これを飲め」王が厳かに言った

「神ならば...」

広間が静まり返る。


トールは角杯を見つめている。

ロキが口元を押さえて笑う。

レスクヴァが目を輝かせている。


嫌な予感しかしない。

雪乃が俺の横でそっとささやいた。

「きっと...何かが起きる」

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