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163話 <ラクロアという男>

「面倒だ・・・実に面倒だ」


スピーリヒル騎士団長のラクロア・スラバントはそう言って溜息をついた。


もうすぐ勇者達の訓練の時間なのだ。


「どうして私が訓練なんて・・・」


ラクロアは勇者の訓練に乗り気では無かった。


何故なら彼の本来の仕事は王女の警護と騎士団の統括、そして、落勇者の管理だからだ。


特に、落勇者の管理は大変だ。


奴らは既に100年もの長きに渡ってこのスピーリヒル帝国の闇の仕事を請け負って来た、つまり一筋縄ではいかない百戦錬磨の強者達なのである。


しかも『落勇者』という、勇者には一段劣るものの、それでもこの世界では規格外の力を持った奴らなのだ。


いくら薬で黙らせているとは言っても、その扱いに骨が折れる事には変わりなかった。


・・・『落勇者』の管理など・・・この私にしか務まらない仕事だろうね。


自分にしか務まらない仕事。

つまりそれは、換えが効かないという事だ。

だからこそ余計に労力がかかる。


ラクロアとしては、正直なところ、勇者の訓練なんて見ている暇は無いのである。


しかし、本来それを担当する筈だった、ブルーネル・ブルトスカは訓練初日でSS勇者、六条優馬とぶつかってクビになってしまった。


・・・嘘だろ?そのくらいの事、勇者達に我慢させろよ?


そう思ったが、王女は既に、ブルトスカに通達してしまったらしい。


どうにも王女は、六条優馬を極端に恐れている節があった。

そりゃ、伝説でしか語られた事のないSS勇者なのだ。

六条に秘められたその膨大な力を考えると、ラクロア自身も身震いしてしまう。


だからこそ、気を使うに越した事は無いのは分かるのだが、それにしても、騎士団長を初日でクビにするなど前代未聞だ。


・・・尻拭いは誰がすると思ってるんだよ?


そう、それはラクロアなのだ。


だから、王女を説得するまでブルトスカを引き止めたかったのだが・・・


彼女は元々気軽な冒険者出身だ。

そうと決まれば、さっさと城から出て行ってしまったらしく、ラクロアが部屋へ行った時には既にその姿は見当たらなかった。


案の定、王女はラクロアに、騎士団長への昇格と、勇者達への訓練を命じて来た。


・・・まあ、こうなった以上、そうするしかないが。


騎士団長への昇格については、元々スラバント家が担って来た役割なので何の問題も無かった。


しかし、勇者への訓練となれば話は別だった。


只の騎士団員を訓練するのとは訳が違うのだ。


騎士団員なら、そもそも入団する段階で、それなりの教育や訓練を積んで来ているし、実際、それなりのエリートじゃないと入れない。


つまり、彼等は100の実力で訓練をスタートするのである。


しかし、勇者達は全く0からのスタートなのだ。


毎回、召喚される勇者は、才能だけは物凄いが、戦い方も勇者としての心構えも一切身につけていないズブの素人ばかりなのだ。


しかも、ああしろこうしろ、あれはイヤこれはイヤと文句ばかり垂れるクソガキ共なのである。


こんな奴らを一人前にしないといけない訳だから大変なのだ。


だからこそ、毎回、外部から信頼の置けるプロを招聘して、魔王討伐までの間だけ、騎士団長になって貰う。


騎士団長と言っても、実際に騎士団を統括する訳では無い。

やる事は、ただ一つ、勇者達の訓練なのだ。


それならなぜワザワザ騎士団長になる必要があるのかと言えば、それはもう、只の外聞的な理由でしかない。


『世界を救う勇者様を鍛えるのは、選ばれしエリート中のエリートである騎士団長が相応しい』


たったこれだけの理由なのだ。


しかし、今回ばかりは、その慣例を変えざるを得ない。


何故なら、ブルトスカに変わる騎士団長候補なんて、そう簡単に見つかる訳が無いからである。


ラクロアは仕方なく、今日も勇者達の訓練に向かったのであった。


・・・・・・・・・・


ある日、ラクロアは王女に呼ばれこう告げられた。


「冷膳菜綱を『落とす』準備が整いましたわ。明日、事は動きます。私が目で合図しますから、ラクロアは、冷膳菜綱が連れてくる拷問官のギボルグを殺しなさい。そしてもし、拷問されていた女も一緒に来たなら、ソイツはその場では保護して、裏で殺しなさい」


「かしこまりました」


ラクロアはその通りにした。


初瀬綾音もその場に来たのは想定外だったが、いくらS勇者と言っても、所詮まだ低レベの雑魚だ。

2人に増えた所で全く問題は無い。


結局、ラクロアが2人と戦闘になる事は無く、王女の作戦は成功、2人共にクエストが発動され、彼女達は『落勇者』への第一歩を歩き始めた。


その日の夕方、王女からラクロアへ、またしても急な呼び出しがあった。


今度は三太刀葵にクエストを出すのだという。

しかし、条件が整っていないらしく、強制ではなく、任意クエストを提案するらしい。


なんでも、

『剣聖』と勝負して負ければ『落勇者』になる。

そういう内容のクエストらしい。


そして、三太刀は王女の呼び出しに応じてやって来た。


ラクロアは王女の傍らで三太刀を観察した。


相変わらず、全く隙が無い。


S勇者とはいえ、先の初瀬と冷膳同様、まだ低レベルだし、ラクロアにとっては単なる雑魚の筈なのだが・・・しかし、この三太刀だけは他の勇者と全く役者が違う強さと存在感を持っていた。


それに、

あの『剣聖』と似たタイプの凄みを感じるのだ。

実際、訓練の時に彼女の動きを見ると、只者でないのが一目瞭然だった。


・・・三太刀だけは正真正銘、本物の化け物だと思うよ。


とはいえ、流石に『剣聖』には勝てないだろう。


・・・アイツも化け物だからね。


だからラクロアは、三太刀が王女からのクエストの提案を二つ返事で了承したのを見て、


・・・コイツ、終わったな。


そう確信した。


・・・・・・・・・・


お次は天堂陽鞠だった。


呼ばれたのは、いつも王女が食事を取る部屋ではなく300年前の落勇者、マチダショウコが作った『看破の部屋』だった。


・・・また罠を仕掛ける気だな?


ラクロアはそう直感した。


案の定、片山クリスティーナと天堂陽鞠が引っかかった。


片山クリスティーナについては、時が来るまで泳がせる方針と聞いているので、狙いは天堂陽鞠だろう。


そして、天堂はクエストの餌食となった。


途中、片山が『煙幕』スキルを使って抵抗したが、部下の騎士団員が取り押さえた。


これでS勇者を4人確保する目処がついた。

クエストさえ発動させてしまえば、『落勇者』に落とす事は容易だ。

その為に先代落勇者を1人ずつフォローに回しているのだ。

もしクエストが達成されそうなら、先代が妨害する手筈になっているし、逆に失敗して殺されるそうになっていれば、助けに入る予定なのだ。

先代は百戦錬磨の猛者だ、抜かりは無い。


つまり、順調に事は進んでいる。


・・・さて、次の獲物は誰になるのやら。


ラクロアは、その選定には関わっていない。

全て王女が仕組んでいるのだ。

要請があれば協力するつもりではあるが、今のところは頼まれていない。


ラクロアはただ、王女の警護と、クエストが発動された後、ターゲットを追いかける先代落勇者の派遣を担当しているに過ぎないのだ。


なぜワザワザ王女自らが考え、仕組んでいるのか?

それは王女がこの陰謀を楽しんでいるからだ。


王女は人をいたぶるのが趣味だった。


ギボルグなどという薄汚い拷問官を飼って拷問させ、それを眺めて喜んでいるド変態なのだ。


そんな王女だからこそ、自分で罠を考え、自分で勇者を罠に嵌め、絶望した顔をする勇者を見て楽しんでいるのだった。


・・・本当に趣味の悪い事で。


・・・・・・・・・・


ある日、ピンラルという街のギルドマスターが王女への面会を求めて来た。


「ピンラルと言えば・・・ドバシェックの隣だな」


ラクロアは気になったので、王女には伝えず、話を聞く事にした。


そして聞かされた話は想像を超える内容だった。


龍王が持つSSS勇者の称号が魔族に奪われた事、魔族のボスであるコンコルディアスと名乗る男がSSSの力を取り込む事で、眷属の魔族の力が途轍もなくアップした事。


もたらされた事実は、スピーリヒル帝国どころか人類滅亡の可能性が一気に現実味を帯びる程の一大事だった。


だって、そんな魔族が誕生したのなら、勇者だって勝てる訳が無いのだから。


しかし、ラクロアの驚きはそこでは無かった。


・・・まさか、ガージャックにヒットハイドにネフェクティプラゾーマまでがやられるとはな。それにコンコルディアスという名前までが表に出るとは・・・


この事であった。


ラクロアは・・・魔族側のスパイだったのだ。


SSS勇者の称号の情報をコンコルディアス陣営に伝えたのは、他ならぬ、ラクロアだったのだ。


だからこそ、SSSの力を得る作戦の成功について驚きは無かった。

しかし、3人の魔将軍の敗北はラクロアを驚かせるには充分だった。


・・・それにしても、3人の魔将軍を葬った旅の魔法使いとは何者なんだ?


名前は聞かなかったそうだが、当然嘘だろう。

テッサリとかいうギルドマスターは、おそらくその魔法使いに口止めされているのだろう。


・・・しかし、そこまでの猛者がこの世界に存在するとはね。


まさか平家翼か?


テッサリを拷問して吐かせる事も考えたが、やめた。


・・・ギボルグは死んだしな。


ラクロアは、ギボルグの事を虫唾が走る程嫌っていたが、奴の拷問官としての技術だけは天才的だと認めていた。


そのギボルグは他ならぬラクロア自身が殺してもう居ない。


ラクロア自身は拷問などという趣味の悪い事は嫌いだった。


だから諦めたのだ。


『SSS魔族の誕生』


ラクロアは、この情報を自分の胸の内に収める事にした。


・・・王女に教えてやる義理は無いしね。


ラクロアは、テッサリと話した後、魔族の連絡員に報告する為、城から出た。


すると、何やら揉めている一団がいて・・・中には冷膳菜綱が居たのだ。


ラクロアは冷膳から事情を聞いた。


彼女は王女の作戦通り、クエストに失敗して『落勇者』に落ちていた。


そして王女にそれを撤回してもらう為にここまで戻って来ていたのだ。


驚いたのは、ラクロアが派遣した先代勇者が、魔族に殺された事だ。


・・・あれだけの猛者が殺されただって?


ラクロアは驚きを隠せなかった。


あの街に居たのは、雑魚魔族が1人だけだと聞いていたからだ。


まさか雑魚魔族ですら先代落勇者を倒せるようになるとは・・・SSSのパワーアップ力を舐めていたようだ。


先代落勇者の遺体は、冷膳が何処かに埋めたそうだ。


ラクロアは予定を変更し、冷膳にその場所まで案内させる事にした。


元々、ちょっと城を出るだけですぐに戻ると部下に伝えておいたのだが、どうやら数日はかかりそうだ。


・・・別に無断で数日くらい消えても問題あるまい。


以前にも急な魔族サイドの仕事で何度かやった事があったのだ。

その時には特に問題にもならなかった。


道中、冷膳には『落勇者』の秘密とか、スピーリヒル帝国の陰謀などを伝えた。

なぜなら、現段階で冷膳は既に憔悴していたからだ。

このまま手駒になる事を了承して貰える可能性があると踏んだからだ。


ラクロアは魔族のスパイではあるが、王女側の仕事もちゃんと果たしているのだ。


しかし、意外に彼女の意思は固く、拒否されてしまった。


まあ良いだろう。

遅かれ早かれ、冷膳は泣きついてくるはずだ。


ラクロアは埋葬場所についた途端、冷膳を解放した。


そして、死体を掘り起こすと、収納袋に詰めたのだった。


ある人物にこの死体を渡す為に・・・

Twitter(物語の更新情報などを主に呟きます)

https://mobile.twitter.com/Kano_Shimari

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