160話 冷膳さんを感激させるぞ、オイ!
「そうだったのか・・・まさか海月がイジメられたなんて・・・ウチのクラスは何時も楽しくてさ、イジメなんて無いと思ってた」
冷膳さんはそう言って表情を暗くした。
・・・そりゃ多分、冷膳さんが元いたクラスの事だと思うよ?
「イジメも無くて何時も楽しいクラスか・・・そんなクラスがあるなら最高だな」
「そうだよ、最高だよ・・・でも、そんなの只の幻想だったんだな・・・悔しいよ・・・」
ダメだ、冷膳さんがまた泣きそうになってるよ。
・・・冷膳さん、かなり精神的に脆い子なのかもしれないな。アール、どうだ?
≪カガリの言う通りね。精神的なバランスがかなり不安定になってるわ。もうこれ以上はマイナスの刺激を与えない方が良いと思う。壊れちゃうわよ?≫
・・・マジ?そこまでかよ!・・・じゃあプラスの刺激ならどうだ?
≪そっちなら大丈夫よ。さっきこの部屋のトイレやお風呂とか、日本の料理を見た時なんて、プラスの刺激で精神的なダメージがかなり改善されてたから≫
・・・じゃあどうすりゃ良い?
≪今は、最高だと思ってた自分のクラスが実はイジメをやってるクズクラスだったって思い込んでショックを受けてる状態だから、まずはその誤解を解いた方が良いわね≫
・・・誤解を解くって、本当の事を話すしか無いんじゃないか?・・・実は俺と冷膳さんは違うクラスで日本じゃ俺たちに接点は無かったって・・・だから君のいたクラスはこんなロクでも無いクズクラスとは違うんだって・・・でもそうすると、元のクラスのみんながどうなったのかも話さなきゃならなくなるぞ?全員死んだんだよな?
≪死んだというか、存在ごと消滅したのよ≫
・・・そんな話ししたら余計にショックじゃないか?今度こそ完全に壊れちゃうかも・・・
≪じゃあスッとぼけときなさいよ。『元のクラスの事は分からない』ってね。それならショックも無いし、みんなは元の世界で楽しくやってるって勝手に解釈するでしょ?とにかく今は『君は本当はこんなクズクラスの一員なんかじゃ無いんだよ』って言ってあげるのが最優先よ?≫
・・・分かったよ。
俺は冷膳さんに、アールの助言通りの説明をした。
勇者召喚された40人の中のごく一部は違うクラスから召喚されていて、冷膳さんはその1人だと。
そして召喚時の副作用で本当のクラスメイトの記憶は無くなって、偽物達をクラスメイトだと思い込んでいると。
だから冷膳さんの元いたクラスは彼女の記憶通り『イジメの無い楽しくて最高のクラスだったんだよ!』と。
『なんでそんな事が分かるのか?』
そう聞かれたが、『スキル』のせいにした。
俺はそういう『スキル』を持ってるんだよって。
そして『これからゆっくり本当のクラスメイトの事を思い出して行こうな!』とも言った。
アール曰く、俺の周辺情報として全校生徒のデータは消滅前に調べたデータがあるから、クラスメイトの顔と名前、家族構成くらいは彼女の記憶に戻してあげる事が出来るらしい。
意外な事に、冷膳さんはこの『荒唐無稽な真実』をあっさりと信じた。
人間、自分に都合の良い事実ならあっさり信じちゃうのかもしれないな。
「じゃあ・・・やっぱり私のクラスは最高だったんだ!」
「だな。因みに本当のクラスメイトが1人だけこっちに召喚されてるぞ?」
「それって三太刀の事?」
「正解!」
「やっぱり・・・三太刀だけは親しみのレベルが違うんだよな・・・なんだか色々とスッキリしたよ。教えてくれてありがとう!」
そう言った冷膳さんの顔は少しだけ晴れやかだった様に見えた。
・・・取り敢えずはこれで良かったんだよな?
<ええ。彼女の精神的なダメージは少し改善されたわ。でも受けた傷が癒える訳じゃ無いから、今後もショックを与えない方が良いって事には変わりないけどね≫
・・・じゃあこの後はどうすりゃ良いんだ?冷膳さんから色々聞き出そうと思ってたんだけど?
≪彼女が自発的に喋る話以外はこっちから根掘り葉掘り聞かない事ね。地雷に触れる可能性があるから。あと、彼女の心の負担が和らぐ様な事は積極的にやってあげる事。あとは・・・カガリの女にする事かな?≫
・・・へえ、そうなんだ。っておい!・・・この子の負担を和らげるってのは分かるけどさ、俺の女にするってのはどういう事だよ?
≪知らないの?恋愛は有効な治療薬になるのよ?特にこの子は今、無意識に心から頼れる存在を欲してるわ。なら、この子にとって一番の薬は、そっちの世界で一番頼りになる存在であるカガリが、この子の恋人になってあげる事なのよ。分かる?≫
・・・まあ、言いたい事は分かったけどさ、アールってば結局、俺をハーレム帝国皇帝って立ち位置に誘導してないか?
≪勿論、誘導してるわよ?でも、そこに至る過程は間違ってないでしょ?つまり、カガリがハーレムを築くのは必然って事なのよ!≫
・・・とんでもない理屈だけど・・・まあ、心に留めとくよ。でもこんな超美人がそんな簡単に俺を好きになるなんてあり得ないし、俺から口説くってのも身の程知らず過ぎると思うんだけどな?
≪なーに的外れなこと言っちゃってるのよ?この子ってば既にカガリの事、好きになってるわよ?≫
・・・はああぁぁ?!あり得ないだろ?俺達さっき会ったばっかだぞ?
≪前にも似たような事言ったと思うけど、そっちは日本じゃないのよ?つまりそっちの世界じゃ顔の良し悪しなんかより、いかに頼りになる存在かどうかが求められるのよ!その点、カガリは既にこの子の中で1億点くらいは稼いでるわよ?それに、カガリに酷い事をしたって負い目もあるみたいだしね。多分、お詫びにカガリが望むなら何でもしてあげたいって思ってるわよ?言っとくけど彼女の贖罪を晴らさせてあげるのだって、プラスの刺激になるんだからね?・・・だから堂々と自分の女にしちゃいなさい!≫
・・・そんな無茶苦茶な!・・・でも、分かったよ。まあ、滝座瀬も三津島も受け入れてるんだしな。だから、もしこの子がそれを求めてくるんなら受け入れるよ。
≪カガリからは口説かないの?≫
・・・口説かねえよ!それより別の方法でこの子の負担を軽くしていくぞ!
俺は早速、彼女が抱えている最大の負担を取り除く事にした。
「冷膳さん、『落勇者』から解放してあげようか?」
「え?・・・今なんて?」
「『落勇者』から解放してあげるよ」
「嘘・・・本当に出来るのか?」
「ああ。称号を封印するってやり方を使う。その代わり称号に紐付いてる『スキル』とか『魔法』とかは一緒に使えなくなるけどさ。あと、ステータスもガクッと落ちると思う。でも、『落勇者の呪い』だっけ?それは無くなると思うよ?」
「やってくれ!頼むよ!」
冷膳さんは、一切迷う事なくそう答えた。
「分かった。じゃあすぐやっちゃって良いかな?」
「勿論!今すぐやって欲しい!」
俺は、治療の為に既に冷膳さんの体内に潜り込ませているナノマシンを使って、彼女の称号を封印した。
なぜ封印なのか?
実は、超科学を以ってしても、体内の称号を消したり書き換えたりする事は出来なかったのだ。
しかしその代わりに、称号に蓋をして機能させなくする事はできた。
アール曰く、
≪まあ、本国の技術をフルに使えば、称号を完璧に制御する技術も確立出来ると思うけどね。そうすれば、カガリのバグだって治せるし、SSSどころか、SSSSにランクアップだって出来ると思うわよ?≫
って事らしい。
・・・流石にSSSSなんてインフレ過ぎて要らないけどさ。
冷膳さんは自分の体を不思議そうに見回していた。
「・・・もう『落勇者』じゃ無くなったのか?」
「ああ。もう呪いは解けてる筈だよ?」
「ステータスオープン」
冷膳さんはステータスを開いた。
そして、
「消えてる・・・『落勇者』の称号が・・・消えてるよ!・・・海月、ありがとう!もう何度目のありがとうだろうな?・・・でも、何度でも言うよ。ホントにありがとう!」
結局、俺は冷膳さんを泣かせてしまった。
でもこの涙は嬉し泣き、マイナスじゃなくてプラスの涙なのだ。
・・・つまり、この涙を沢山流させてあげれば良いって事だよな?
≪その通りよ!あとね・・・≫
アールが言うには『落勇者』の称号を封印したと同時に、俺とブルーネルを侵食しようとしていた謎の力もパタリと消えたらしい。
そして冷膳さんの細胞の異常な老化も止まった。
俺は冷膳さんにその事を告げた。
「老化まで止まったのか?!・・・ラクロアに聞かされてたんだ。『落勇者の呪い』には急激な老化も含まれるって・・・でも、止まったのか・・・良かった!」
・・・老化ね。『落勇者』って、本当に凶悪な称号だよな。
確かに、冷膳さんの老化は止まったけど、明らかに彼女の見た目は18歳じゃなくなっていた。
完全に大人の女って感じなのだ。
アール曰く、細胞年齢は既に24歳に達しているらしい。
冷膳さんもその事には気付いているようだった。
「さっき風呂場で鏡を見たんだけど・・・正直だいぶ老化してたよ。大人の女って感じになってた・・・肌もカサカサだし・・・まさかたった半月で私の青春が終わっちまうなんてな」
そう言って寂しく笑った。
・・・なあ、また18歳に戻してあげられないか?
≪その程度なら余裕よ≫
・・・じゃあ頼む。
「あれ?なんだか体が熱くなって来たんだけど?」
戸惑う冷膳さんに俺は告げた。
「大丈夫。今、冷膳さんの細胞を18歳に戻してるからさ、その影響で熱いんだと思うよ?」
冷膳さんは、もう完全に俺を信頼しきっているみたいで、疑いの言葉は発しなかった。
ただ、驚いた顔と無言の涙が全てを物語っていたよ。
・・・よし、またプラスの涙ゲット!
数分後、完全に元の姿に戻った冷膳さんは、10代のあどけなさが復活して、さっきまでの大人の女とはまた違った魅力を迸らせていた。
肌の張りもさっきとは段違いだ。
・・・やっぱり超美人だな。てか、さっきまでのくたびれた雰囲気が抜けて、マジでめちゃくちゃ魅力が増したぞ!
鏡を見た冷膳さんは遂に、元気な笑顔をとり戻したのだった。
「何度でも言うぞ、本当にありがとう!海月のお陰で生きる気力が湧いてきたよ!冷膳菜綱、完全復活だ!にしし!」
そう言って俺に笑いかける冷膳さんの笑顔に、俺の心臓はドキッと大きく脈打った。
そんな気がしたのだった。
Twitter(物語の更新情報などを主に呟きます)
https://mobile.twitter.com/Kano_Shimari




