159話 冷膳さん驚き過ぎだよ。オイ
今、俺たちがいるセーフハウス。
それは、冷膳さんが倒れていた砂漠の真っ只中に建っていた。
このセーフハウスは簡単に設置と撤収ができて持ち運ぶ事も可能な言わば近未来版テントの様なものだった。
外見は小型コンテナくらい、持ち運ぶ時は、手のひらサイズにまで小さく出来る。
そして内装はその時々の用途によって自由に設定出来る。
部屋を増やしたり、レイアウトを変えたり、面積を弄ったり自由自在だ。
なんでも、馬車や他の乗り物の時も使っていた『空間比率』という超科学の技術を使って広大なスペースを作り出しているらしい。
そして今、砂漠のど真ん中に建っているセーフハウス、その外見は地味だったが、内装は俺とブルーネルが新婚旅行で使っていたそのままの仕様になっていた。
特に豪華にしている訳では無いのだが、2人きりでイチャイチャラブラブ出来るよう、リビングは広すぎず狭すぎず、ソファーは2人密着できるように2人掛けのものが1つ。
壁には新婚旅行で各地を巡った際に撮った記念写真が沢山飾られ、プールには2人で密着して寝転がりながらプカプカ浮かべるイカダ型の浮輪が。
お風呂も2人きりでゆったり入れる程良い大きさだ。
そして寝室は1つ、広めのダブルベッドがドカンと置いてあった。
今、冷膳さんが使っている客室なんて当然無かった。
彼女を保護した時に急遽追加した部屋なのだ。
急いでいたので取り敢えずゆっくり眠れるよう、ベッドをフカフカにしたくらいで、他はテンプレの仕様から弄らなかった。
なので、あるのはベッドと小さな机、そして俺とブルーネルが座っている椅子が2つ、一応、トイレと風呂も付いているが、まるでビジネスホテルの1人部屋のような、狭くてシンプルな一室になっていた。
そこに冷膳さんと俺とブルーネルの3人がいた。
長々と何が言いたいかと言うと・・・
・・・狭い!!
この事であった。
もっと広い部屋にレイアウトを変えれば解決するのだが、今は冷膳さんに余計な刺激を与えたく無かったので、やめておいた。
タダでさえ、俺と出会った事で彼女には驚きの連続が待ち受けていたのだ。
この上、『突然部屋が広くなる』みたいなホラー現象を見せて刺激するのはよろしく無い。
何がそんなに驚きの連続なのかというと・・・
まずは部屋のトイレ。
「ひゃあ!これって日本の洋式トイレじゃん?水洗だし臭く無いし・・・しかもウォシュレットまで付いてるし!・・何で!?」
「それは、まあ、俺と一緒に居る特典だと思ってくれりゃ良い」
この世界のトイレは、日本に生まれ育った俺たちからすれば、正直、とても使えたものじゃないくらい汚らしいのだ。
比較的マシだった城のトイレでもそうなのだ。
ギルドのトイレなんて、見た瞬間、出る物も出なくなったよ。
次に、風呂。
1人用のごく一般的なバスタブなので、正直、普通だ。
それでも、冷膳さんにとっては充分驚愕なのだ。
「ええ?!これって日本のお風呂?!しかも自動でお湯がはれるヤツじゃん!それにシャワーもある!!あと、シャンプーとリンスにボディーソープまで・・・何で!?」
「まあ、それも俺と一緒に居る特典だと思ってくれりゃ良いよ」
狭い部屋なので、風呂から冷膳さんの声が余裕できこえてくるのだ。
風呂から出た冷膳さんはとてもサッパリしていた。
ボサボサだった髪は綺麗なっていたし、毛も染め直されて綺麗な金髪になっていた。
染める道具一式も置いといてあげたのだ。
そして着替えも渡しておいた。
「あー、こんなに気持ち良かったのはホント、久し振りだよ!まるで天国だな!」
しかし驚くのはまだ早い。
極め付けはやはり、食事だった。
狭い部屋の小さな机にギッシリと並べられた地球の料理。
それを見た冷膳さんは目が点になっていた。
「え?なんで??・・・これってまさか・・・虫じゃないの?!」
「ああ。正真正銘、地球の、日本の料理だよ。コロガシフン虫じゃない。牛肉に豚肉に鶏肉だ。魚もあるぞ?味付けも醤油ベースの和風にしてある。思う存分味わうと良い」
ゴクリ。
冷膳さんが唾を飲み込む音が聞こえた。
そして・・・
ガバッ!
冷膳さんはマナーなんて何処かに置き忘れた様な勢いで料理にガッツいた。
「美味い!美味いよ!間違い無い!・・・虫じゃ無いよこれ!・・・本当に日本の料理だ!」
ここで遂に冷膳さんは再び泣き出してしまった。
大泣きしながら・・・食いまくっていたよ。
まあ、この感動は俺も分かるよ。
鉱山から助けられて、初めてマトモな飯を食べたときの感動は今でも忘れられないしな。
驚きと感動の食事タイムが終わり、ひと心地ついたところで、改めて冷膳さんが質問してきた。
「海月、この部屋って日本のホテルそっくりだよな?それにウォシュレット付きトイレにお風呂とシャワー、シャンプーにリンスにボディーソープ。おまけに日本の料理まで!・・・一体、ここはどこなんだ?・・・もしかして、日本に帰って来たのか?」
「残念だけど、ここは日本じゃない。異世界だよ。しかも、冷膳さんが倒れていた場所の上だ。そこに俺のスキルで仮設の家を建てたんだ。ここはその部屋の中なんだよ。俺のスキルだから、当然、俺のイメージ通りの物が揃ってるんだよ。料理だってそうだ。全部俺が出したんだ」
スキルってのは嘘だけど。
まあ、俺が出したってのは事実だし、広い意味じゃスキルって言えなくもないけどさ。
冷膳さんはめちゃくちゃ目をキラキラさせて感動していたよ。
俺たちが住んでいた現代日本がいかに素晴らしい環境だったのかを思い知ってるんだと思う。
「海月って凄い奴なんだな!そりゃそうか、SSS勇者だもんな」
「はは、それは剥奪されたんだけど・・・」
「そ、そうだったな、ゴメン・・・」
「まあ、勇者じゃ無くなったけど、その代わり別の力に目覚めてさ、今はその力を使ってこうして楽しくやってるよ!」
「そうか、楽しくか・・・あれだけの事があって、その後突然居なくなって・・・私ってばずっと海月のこと心配してたけど・・・実は海月はこんな快適な暮らしをしていて、何の心配もいらなかったなんてな・・・それよりむしろ私達の方が、虫を食べたり、トイレやお風呂とか他にも色々不便な生活を強いられて、おまけに王女の陰謀にも巻き込まれて・・・よっぽど悲惨な目に遭ってるなんて、皮肉だよな」
「まあ確かに、今は確実に俺の方が良い生活してると思うよ。正直、それについては『ざまぁ見ろ』って思うよ。でも、誤解しないで欲しいのは、この生活になるまでに俺がどれだけ酷い仕打ちを受けて来たかって事だ。みんなから理不尽に悪意を向けられ、称号を剥奪され、そして見捨てられて、拷問も受けた。そして日本に帰る権利も奪われ鉱山送りにされた。鉱山じゃ劣悪な環境で強制労働だ。死ぬ程ムチで打たれたっけ?その挙句、本当に死ぬ一歩手前まで行ったしな。それだけの目にあった事実を乗り越えて今の俺があるんだよ。そりゃ冷膳さんだって大変な目に遭ったんだと思うけどさ、安易に『お前は恵まれてる』みたいな風には言われたくないな」
「ゴメン・・・私達が海月にした仕打ちは言い訳出来ないし、城で拷問を受けたってのは、犯人を捕まえて直接聞いたんだ。鉱山の環境も何となく想像できるよ・・・『ざまぁ見ろ』か。確かに、海月にはそれを言う権利があるよ」
「いや、冷膳さんを責めてる訳じゃないよ?俺は君に恨みは無いしさ!でも、俺だってただノホホンと異世界生活を楽しんでたって訳じゃないって知って欲しかったんだよ・・・それに、俺が『ざまぁ見ろ』って言ったのは、日本で俺を虐めてた奴とか、俺の称号剥奪に賛成した奴とか、剥奪された後の惨めな俺を嘲笑ってた奴ら、それに見て見ぬ振りをしてた奴らに対してだからさ。冷膳さんの事じゃないよ。冷膳さんにはむしろ俺を心配してくれた事に感謝してるんだよ」
「そう言ってくれて良かったよ。勿論、私個人的には、海月に対して罪はあると思ってる。でも、私が心配してた事をそんな風に思ってくれて・・・なんだか報われた気持ちになったよ」
「それなら俺も良かったよ」
「ところでさ、さっき海月が言ってた日本で虐められてたって、本当なのか?」
冷膳さんはクラスメイトのつもりだろうけど、実際には1学年上で何の接点も無かった訳だし、知らなくて当然だ。
「本当だよ。だから、これから冷膳さんに城の状況を聞く前に、事前に知っておいて欲しいんだけどさ・・・いくらそっちが大変な状況だったとしても、俺を虐めてた奴等と、それを見て見ぬ振りしてた奴等だけは、絶対に助けてやる気は無いから。勿論、それ以外の人は別だけどさ」




