157話 冷膳さん深刻そうだなオイ!
俺とブルーネルは、ベッドに苦しげな表情で眠る冷膳さんを見守っていた。
・・・悪い夢でも見てるのかな?
≪気になるなら夢の内容を解析して見せてあげるわよ?≫
・・・いらんわ!そんな趣味ないし。
≪ええ?別に夢を覗いちゃダメって法律はないでしょ?≫
・・・そりゃ無いけど、明らかに盗撮っぽいじゃん。
≪まあ、我々の国じゃ犯罪だけど≫
・・・やっぱりねー!よくもまあ犯罪をオススメしてくれちゃったよな、アールさんってば全くもう!
アールとそんな下らないやり取りをしていると・・・
「なあ旦那様、コイツの事、どうするつもりだ?」
「事情を聞いてみないと分からないけど、まあ、冷膳さんが望むなら保護するのもアリかな?」
それを聞いたブルーネルが、ほっとした表情を見せた。
・・・1日訓練してやっただけなのにそこまで心配できるなんて、ネルは本当に良い奴だよな。
俺的には冷膳さんに対しては、別に恨みがある訳でも無かった。
実は、セーフハウスを作っている時に、俺はアールに頼んで、俺が称号を剥奪された時、冷膳さんがどんな様子だったか、記憶されている映像を見せてもらったのだ。
その結果、ある事が分かった。
どうやら彼女はあの時、勇者召喚に対するショックから、呆然自失状態になっていたみたいなのだ。
彼女の顔は終始、いかにもパニックでフリーズしてしまったかの様な強張った表情だった。
そして自分の称号の確認なども、三太刀さんに手伝って貰っていた様子だった。
俺が六条から難癖をつけられている時も、俺の視界にチラチラと映る冷膳さんは、ずっとそんな様子だったのだ。
称号剥奪の多数決の時も、介抱している三太刀さん共々、それどころじゃ無さそうだったしな。
勿論、賛成に挙手もしていなかった。
考えて見れば、日本にいた時から俺ってば冷膳さんとは殆ど面識無いんだよな。
俺が彼女について知っている事は・・・
名前。金髪でギャルっぽい見た目。『二大エロス』って呼ばれていて、実際めちゃくちゃ色っぽい上に、超美人って事。そしてクラスメイト。
その程度だ。
特に絡んだ事も喋った事も無い。
≪そりゃそうよ。冷膳菜綱は元々同じクラスじゃないからね。学年も違うわ。彼女は3年生、つまりカガリの1つ上よ≫
・・・マジ?・・・例の『理の修正力』ってやつか?(92話参照)
≪ええ。この世界に召喚された際に、『理の修正力』によって無理やりクラスメイトって記憶に書き換えられてるだけで、実際には接点なんて一切無かったのよ≫
そりゃ絡んだ覚えも無い訳だな・・・
て事はやっぱり、俺が彼女に対して恨みを向ける筋合いは全く無いって事だよな?
まあ絡みが無い分、親しみも感じない訳だが。
でも、冷膳さんはブルーネルの教え子でもあるんだよな。
そしてブルーネルは冷膳さんの事を心配している。
・・・なら俺も、冷膳さんについては、ちゃんとクラスメイトとして大切に扱おう。
そう決めた。
・・・まあ起きた時の態度にもよるけどさ。
いくら恨みは無いと言っても、俺を見た瞬間、馬鹿にしてくる様な奴ならこっちから願い下げだ。
思わず砂漠に放り出すかもしれない。
まあブルーネルが認めている奴だから、そんなクズじゃ無いだろうけどさ。
・・・いやいや本当にそう言い切れるか?だってこんな美人なんだぞ?日本じゃめちゃくちゃモテただろうし、それにギャルっぽいし。
ギャルと俺じゃあ、住む世界が全く違うからな。
同じ超美人のブルーネルには良い顔をして、俺にはゴミを見る目を向けてくる可能性だってあるんじゃないか?
・・・まあ、うだうだ考えても仕方ないか。
俺はとにかく彼女が目覚めるのを待つ事にした。
それにしても、冷膳さんの顔をこんなにしっかり見るのは初めてだけど、物凄い美人だったんだな。
けど・・・
・・・とても1個上には見えないんだよな。
なんかこう、もっと年上の様な・・・大学生か、むしろ社会人なりたてみたいな、とにかく大人のお姉さんって雰囲気がするんだよ。
≪それなんだけど、ナノマシンが異常を検知したわ≫
・・・異常?どういう事?
≪彼女の細胞がね、とんでもない早さで老化してるのよ≫
・・・なにそれ、病気か?
≪多分、この世界の何かに原因があるわ。老化を止める処置を施してるんだけど、少ししたらまた元に戻るのよ。地球の病気じゃあり得ないわ・・・それにもう1つ・・・この子を助けたときからずっと、カガリとブルーネルのバリアがアラート状態になってるのよね。彼女が発している何かが、あなた達の体を侵食しようとしているのよ・・・当然バリアで完璧に防いではいるんだけどね≫
・・・なにそれ怖っ!ネルにもバリアを張っといて良かったよ!
≪多分だけど、コレって例の『落勇者の匂い』ってやつじゃないかと思うのよね≫
・・・あの、自然と『落勇者』だって周りにバレるやつか?
≪ええ。そもそも自然に身バレするなんておかしいでしょ?『落勇者』ってくらいだから、何かマイナスのスキルでも持っているんじゃないかしら?≫
・・・なんか、思ったより『落勇者』って深刻そうだな。俺も一応『落勇者』なんだが・・・
≪カガリは、単に条件が当てはまるってだけでしょ?この子は称号から変わってる筈だから、カガリとは根本的に違うわよ≫
それからも冷膳さんは全く起きる様子が無かった。
翌朝、俺とブルーネルは再び冷膳さんの部屋へ入った。
相変わらず彼女の意識は無かったが・・・暫く見守っていると、変化が起きた。
「うぅん・・・」
酷くうなされ始めたのだ。
顔は恐怖に歪み、額からは大粒の汗が噴き出して来た。
どうやら相当な悪夢を見ているようだった。
ブルーネルがタオルで彼女の汗を拭ってやっていた。
すると・・・
「がはっ!!」
不意に冷膳さんは目覚めた。
「はぁ、はぁ・・・ここは・・・?」
冷膳さんは何が起こったのか分かっていないようだった。
俺は彼女に声をかけた。
「冷膳さん。お、俺の事、覚えてるかな?海月って言うんだけど・・・取り敢えず・・・大丈夫?」
・・・うわー、俺ってば声かけるの下手クソ過ぎかよ!喋りもたどたどしいし。
けれど、冷膳さんは俺の顔を見ると、意外な表情をした。
「海月・・・か?・・・何で?・・・そうか、ここが・・・て事は私も捕まったのか・・・でも、海月が元気そうで、本当に良かったよ!」
そう言うと、悪夢から目覚めたばかりの険しい表情から、何かを悟って諦めた表情に、最後は一転して慈愛に満ちた優しげな表情へと変化し、俺に微笑みかけたのだ。
・・・え?ここはゴミを見る目じゃ無いの?
≪カガリあんた、クラスの女子にビビり過ぎよ!≫
・・・だってそりゃ、クラスじゃそういう立場だったんだから!いくらこっちの世界で最強になったからって、そうそう負け犬根性は変わらないんだよ!
戸惑う俺を見て、冷膳さんは目に見えて悲しげな顔になった。
「ごめん、いきなり・・・そうだよな、あれだけの仕打ちをしたんだ。許せる訳無いよな・・・」
そう言うと冷膳さんは、ガバッ!とベッドから降りて、床に頭を擦り付けて土下座し始めた。
「あの時は、助けてあげられなくて本当にゴメン!・・・言い訳になるけど、いきなりこの世界に無理やり呼ばれて、頭がパニックになってさ、海月が大変な目に遭ってる事に全然気づいて無かったんだ。後で知って死ぬ程後悔した・・・でもその時にはもう『海月は城を出た』ってあのクソ王女に言われて・・・その時から、絶対に海月を探して謝るんだって思ってたんだ・・・許してくれないかもだけど、本当にゴメン!・・・私に出来る事ならどんな償いだってするよ!・・・海月が望むんなら彼女にだってゴニョゴニョ・・・でも、元気そうで本当に良かったよ。てっきり、鉱山で奴隷みたく働かされてると思ってたから。まさか海月もラクロアの野郎に捕まってたとは思わなかったよ。てか、ここってもしかして鉱山なのか?」
冷膳さんは土下座の姿勢で一気に喋りきった。
ゴニョゴニョして聞き取れない所とか、言ってる意味が分からない所もあったけど、とにかく彼女の気持ちはストレートに伝わって来たよ。
「・・・なんか、いきなり過ぎて正直、かなり面食らってるんだけど・・・取り敢えず頭を上げてよ。それに、謝ってくれてありがとう!・・・でもまさか、そう来るとは思わなかったから・・・不意打ちでさ、なんか俺ってばちょっと感激しちゃってるんだけど・・・あ、ヤバイ・・・」
自然と涙が出てきた。
こっちの世界でそれなりに強くなったつもりだったけどさ・・・あー、やっぱヘタレだわ俺。
それにしても、まさか冷膳さんが、俺の事をそんな風に思っていたなんて、夢にも思わなかった。
・・・ゴミを見るような目をして来るかも?とか思ってた自分が恥ずかしいよ。
俺は涙を拭きつつ、冷膳さんを起こしてベッドへ座らせてあげた。
そして、優しく話しかけたのだった。
「まずは1つ1つ話して行こうか。なんか誤解もあるみたいだしさ。それに俺も聞きたい事は色々とあるし」
Twitter(物語の更新情報などを主に呟きます)
https://mobile.twitter.com/Kano_Shimari




