156話 捜索するぞ、オイ!
『落勇者』が現れた。
街の噂は俺の興味を引くには充分過ぎるインパクトを持っていた。
「落勇者って事は、旦那様と同じく勇者召喚された仲間って事だよな?」
ブルーネルにそう聞かれて俺は即答した。
「仲間なんていないよ。むしろ奴等の殆どは仇みたいなもんだ。そうじゃない奴等だって、単に俺と接点が無かったってだけだし・・・」
「そうだったな・・・ごめん・・・」
「別に気にしてないよ・・・けど、流石に『落勇者』ってのは気になるな。ちょっと探してみるか」
「ああ。恨みのない奴なら助けてやらないとな!」
「ん?まあ、助けるかどうかは状況によるかな」
「そうなのか?」
「うん。こればっかりは俺自身でも会ってみないと、自分がどんな気持ちになるのか想像つかないんだ」
まあ、それだけ俺にとってデリケートな問題って事だ。
「って事で、俺は寄り道するぞ?ネルも付き合ってくれるか?」
「当然だろ?もしソイツが仇だったら、私も一太刀浴びせてやりたいからな!」
「そりゃ頼もしいな!」
以前の俺なら大真面目に『流石に殺すまではしないから!』って言ってるだろうな。
それだけ、俺はこの世界で確かに変わったんだ。
そう実感した瞬間だった。
昨日だって普通に魔獣を数え切れないくらいと、魔族を6人殺した。
内1人は生きたまま金属化したので、厳密には死んでないんだけど、ぶっちゃけ殺すより酷いと思うし。
日本にいた時は、生き物すら殺せなかったヘタレの俺がよくもまあ・・・
環境が人を変えるって意味がよく分かったよ。
「そう言えばネルは1日だけアイツらに訓練してやったんだよな?」(12話参照)
「ああ。と言っても、殆どの奴は六条と一緒に訓練をボイコットしやがったから、ほんの数名だけどな」
そうなのだ。
ブルーネルは俺達が勇者召喚された時、スピーリヒルの騎士団長としてあの城にいたのだ。
その時は俺と一度も会わなかったのだが、もし俺が普通に勇者をやってたらただの師匠と弟子の関係だけで終わっていたかもしれない。
・・・それが今や俺のお嫁さんだぞ?運命って分からないものだな。
結局、六条達とのトラブルが原因でブルーネルは騎士団長をクビになったのだ。
・・・て事は、もし『落勇者』が俺達2人にとっての敵だったなら、喜んで復讐してやれるな!
そんな事を考えていると、
「この調査、私にやらせてくれないか?」
ブルーネルがそう頼んで来た。
なんでも冒険者は捜索や調査の依頼も結構あって、ブルーネルは手慣れているらしいのだ。
どうやら彼女は俺の役に立ちたいらしい。
・・・そんな事気にしなくて良いのに。
結局、彼女の気持ちを汲んで、捜索は任せる事にした。
実際、ブルーネルなら問題なくこなせるだろうしな。
まずは近隣の街で改めて聞き込み調査を始めた。
やはり思った通り、ブルーネルは手慣れた感じで、聞き込みは順調に進んだ。
・・・やっぱりネルは百戦錬磨だな。頼もしいよ!
正直、俺1人じゃこんなスムーズに情報は集められなかっただろう。
彼女が近隣の街や村を聞き回って得た情報を纏めるとこんな感じだ。
『落勇者』は1人、そして女らしい事。
ソイツは宿や食料を求めて街に来たが、すべての街や村で門前払いをくらって、何も得られずに逃げていった事。
情報は10日前の目撃に始まり、直近は3日前。
そこからパタリと足取りが途絶えた事。
そんな感じだった。
・・・女って事は、多多の可能性もあるよな?
多多は俺をいじめていた女子グループの中心人物だ。
もしアイツなら問答無用で復讐するんだけどな・・・
捜索は至って順調で、ブルーネルは聞き込みの結果から『落勇者』のおおよその移動ルートを割り出した。
「目撃された日にちと街の場所から予想すると・・・多分、こっちに向かったと思うよ」
ブルーネルが指した場所を地図で見ると、なんとそこは大きな砂漠が広がっていて、街も無かった。
「3日前だとすると、結構進んでるよな?・・・なんでまた砂漠なんかに・・・?」
「分からないけど、街の聞き込みを聞く限りじゃ、身も心も相当参ってると思うぞ?私も少し前に似たような絶望を味わったからな。正常な判断が出来なくなってるのかもな?」
確かに、ブルーネルは木像化していた間、誰も助けに来ない真っ暗闇の世界で心から絶望を味わった訳だからな。
絶望って事じゃ、俺だって充分味わって来たし、気持ちは分からなくもない。
『落勇者』が誰かは分からないが、街や村の人から拒絶され、一人ぼっちで見知らぬ世界を彷徨う事になるなんて、その絶望は計り知れないだろう。
・・・多多だったら嘲笑ってやるんだけどな。
≪どうする?ナノマシンに砂漠を探させる?≫
・・・いや、今はネルがちゃんと追跡してくれてるからな。プロの冒険者に任せる事にするよ。
ここで俺がササッと解決するのは簡単だけど、それじゃせっかく俺の役に立とうと張り切っているブルーネルに水を差す事になる。
それに、
・・・別に焦って見つけ出す必要も無いしな。
正直、クラスメイトの危機より、ブルーネルの気持ちを汲んでやる方が俺には重要なのだ。
実際ブルーネルは優秀だしさ。
砂漠に入ってからは特に。
彼女は僅かな足跡を手がかりに、的確に敵を追い詰めて行ったのだ・・・まだ敵と決まった訳じゃないけど・・・とにかく、流石はS級冒険者だ。
そして街での聞き込みを皮切りに足取りを追うこと、何と1日で重要な手がかりを発見した。
まあ、移動手段として二人乗りのエアバイクを使ってるからな。
足は速いのだ。
エアバイクに乗る俺たちは目立ちまくっていたけど、最早、そんな事は一切気にしなくなった。
・・・にしても1日でここまで捜索が進むってのは早すぎるだろ!
俺は改めてブルーネルの冒険者としての優秀さを実感したのだった。
そして発見した重要な手がかりとは・・・食べ散らかされた虫の残骸だった。
「これは、コロガシフン虫だな」
「・・・フ、フンコロガシか??」
「いや、フンコロガシじゃなくて、コロガシフン虫だ。魔獣のフンを転がして巣に持ち帰って食べるんだよ」
・・・だから、フンコロガシだよねそれ。
「コロガシフン虫は砂漠の食料の定番だよ。とてつもなく不味いんだけど、水分も摂取できるし何よりお手軽に捕まえられるから、別名『砂漠のジャンクフード』って呼ばれているんだ」
・・・呼ばれたくねー。
「この虫は食べられてまだあまり時間が経ってないな・・・旦那様、近いぞ!」
「そ、そうか!」
どうやらかなり近くまで迫っているらしい。
そして暫く進むと・・・見えた!
地平線の向こうに、ポツンと黒い点が見えたのだ。
少し近づくと、それはやはり人影だった。
「いた!」
俺たちは急いだ。
何故なら、人影は既に地面に倒れ、ピクリともしていなかったからだ。
倒れていたのは、確かに女子の様に見えた。
うつ伏せだったのでハッキリとは分からないが、どうやら金髪らしい。
・・・あれ?クラスメイトじゃなかったか?
そういえば片山は金髪だったな。
でも倒れている子は見た感じ片山では無さそうだ。
・・・他に金髪なんていたっけ?・・・あぁ、もしかしてあのギャルっぽい・・・冷膳さんだっけ?
あの子が確か金髪に染めてたような・・・
側に着いてすぐに抱き起こすと・・・やはり冷膳さんだった。
完全に意識を失っている。
・・・この子は復讐対象じゃないんだよな・・・アール、どうだ?
≪命に別状は無いわね・・・この子、冷膳さんでしょ?確かS勇者だった筈だし、そう簡単には死なないわよ≫
・・・まあそうかもだけどさ。ひとまず生きててホッとしたよ。
それにしても、彼女は気の毒なくらいに悲惨な姿だった。
髪はバサバサ、服はボロボロ、顔や体は洗って無いのだろう、かなり薄汚れていた。
そりゃ街や村からは『落勇者』として追い立てられてた訳だからな。
ずっと野宿だっただろうし、そりゃこんな見た目になっても仕方ないか。
冷膳さんの姿を見て、ブルーネルの雰囲気が変わった。
「その子!確か、冷膳菜綱だよな?私が訓練した中の1人だよ!」
「え?マジか?!」
「間違いない!『私に惚れた』とか言ってたから印象に残ってるんだよ」
「惚れたって・・・まさかそっち系?」
「それは・・・違うと思うぞ・・・」
「そ、そうか・・・」
・・・良かった。ネルはもう俺のお嫁さんだし・・・それにしてもまさかネルが訓練したほんの数人に当たるとは結構な偶然だよな。
「旦那様、その子は大丈夫なのか?」
「命に別状は無いよ。それと、この子は俺の仇じゃないよ」
「そうか!そりゃ良かった!1日だけとはいえ、教え子を殺すのは忍びないからな!」
「とにかく手当てしないとな」
俺は早速、この場にセーフハウスを作った。
ブルーネルが木像化された時に作ったのと同じやつだ。
もっと言えば、鉱山で俺がぶっ倒れた時もこのセーフハウスで過ごしたんだよな。
使い勝手が良くて意外と重宝するよこれ。
早速、冷膳さんをベッドに寝かせて、万が一にも死なない様に、取り敢えずナノマシンを使って応急処置だけはしておいた。
・・・あとは目を覚ますまで様子見だな。
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