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第一人者  作者: 近衛 キイチ
最終章
55/63

牢獄の二人

「私は娼館や地方の小領主が開く宴等で詩や簡単な音楽を披露しています、いわゆる語り部というやつです、かつては貴族の子飼いであった時期もあったのですが、今は街から街へ国から国へと旅をしております。

 先日、このパルミュラに着いた途端に捕らえられてしまいした、罪状は扇動罪らしいのです、詳しく話しを聞けば、エッパーから来る途中で先ほど謳っていた詩を呟いていたらしいのです、自分でも気が付かない内に声に出していた様で、それを勝手に聞いていた奴が、お節介にも市政長官に告げ口したおかげで捕まってしまいました、明日には舌を切り取った上で首を切断されてしまう身です、何と恐ろしいことではないですか、単に自分の希望を話していただけなのに、こんな目に合わされるなんて、全く狂った世の中とは思いませんか」

 アービエルの返事を待つが彼は沈黙を保つ、仕方ないので私は自分語りを続ける。

 

「でもどうせ捕まるなら広場で物語を披露したかったですね、絶望している事すら忘れてしまっている人々の目を覚ませる事ができるのか、自分の力を試して見たかったです。

 それにしても代官が管理する牢が満杯とは言っても、地下牢だとしても、自分が罪人としても、魔王の居城であるドネティーク城に入る事が出来るなんて思いもよらなかった事です。

 ところで私の様に偶然ここに入れられた下層の住民とは違い、この様な場所に入れられている貴方は一体何をしたのですか」

 これだけ話してもアービエルは沈黙している、辺りに静けさが漂う、天井に空いた僅かな隙間からこぼれる明かりから外はまだ昼、なのに衛兵が歩く音も侍女達の話声も聞こえない、聞こえるのは壁から染み出る水の流れる音のみ、世界が死んでしまった様な恐ろしささえ感じる程に静かであった。


「お前は物語の根幹を誤解している、奴等は…… レムリニアスと名前を消された男はお前達の事等考えていない、あいつ等はどちらかが第一人者に相応しいかを争っていただけだ、ただそれだけのことだ、どちらが勝利しようとお前達は支配されるだけの存在だ。

 本当に奴が神々の子かどうかも不明だろうに、天界から追放されたのはレムリニアスの方かもしれないぞ」

 最初は私に向けて語っているかと思ったが、彼が閉じ込められている牢の中にはもう一人いるのだろうか、まるで私以外の第三者に語り掛けている様な口調で話した。


「それに、いつの時代も人は絶望する、それはパルミュラ王が統治している事とは何も関係がないことだ。

 扇動すればそれが罪に問われるのはいつの時代も同じ、お喋りで嘘つきなお前はどの時代に生まれてもいずれは捕らえられたであろう。

 彼が支配する広大な領土はかつて王達のものであった、其々の王が殺していた数を考えれば、現在処刑されている罪人の数と差して変わらないであろう。

 それにパルミュラ王を斃してどうする、その後の混乱を想像してみろ、彼の亡き後には統制の執れなくなった魔獣が人間を襲い始めるだろう。

 また別の場所では、有力者が立ち上がり人民を支配しようとして争いが起きるだろう。

 考えてみろ、それまで間どれだけの血が流れるか、その後もどれだけの人間が幸せになれるという、自らを幸福であると自信を持って言える人間がどれだけいる、多くの人間は言うだろう。

――魔王の支配する時代と何ら変わらないではないか――

 必ずそう言っては絶望し、自分達の新たな支配者を怨み反抗を企てるだろう。

 ただ独りの王による支配は、王達の統治に失望した人々による後押しがあったからだ。

 期間にすれば、ほんの数十年でも彼は豊かな生活を人々に与えた、それは事実だ、誰にも否定する事のできない事実である」

 アービエルは力強い口調でそう言う、今度は確実に私に向けて言い放ったことが解った。


「それは詭弁だ、レムリニアス亡き後人間は生き延びて来たのだ、魔獣に人間が全滅させられる事などない、種族ごとに争う魔獣とは違い、団結する事ができる人間が最後には勝利するだろう。

 物語に在る過去に生きている人々の営みは、支配者との融通がそれなりに利き、人々は自分達の生活に満足していたではないか、やはり、支配者は顔が見える身近な存在であるべきではないか、分断された地域による文化の交流と貨幣の行き来があるだけで、被支配者だけではなく支配者も小さな土地を持つだけの存在であるべきではないのか。

 ウルの女王が目指していた小王国による統治こそが、人類に平和を齎すのではないだろうか」

 優しさの欠片もない彼の言葉に、先ほどまで持っていた彼自身への興味は怒りと苛立ちに変わり、私は声を荒げて反論した。


「愚かな、過去の憎しみや溢れ出る欲望と完全に離別することのできる人間は存在しない、過去の因縁と金を理由にその餌食となるのは貧弱な国。

 現状に満足して何もしなければ余計な混乱も起きないだろうに、人類は自給自足では満足しない、渇きを感じ現在の幸福を疎かにする、どうせその繰り返しだ。

 何よりもお前が好き勝手に旅が出来るのは、パルミュラ王の名の許に世界を統合したからだ、一昔前ならば、お前の様に無神経で配慮もできずに喋るしか才能の無い者は、生まれた土地から出る事もできずに、村の片隅で死んでいる様な人生を送るしか道はないのだよ、今の時代の方が人類の繁栄にとっては良いと思うがね」

 熱を帯びた口調になる私と違い、アービエルはただ冷静に話しを続ける。


「そもそもお前達が官僚機構を監視せずに、官僚の世襲と追放した貴族や豪商との癒着を止めなかったからだ、だから政治は乗っ取られて税制は崩壊し、お前達は貧しい生活を強いられるのだ。

 軍団に就いても同じだ、本来は市民による軍団も存在したが、お前達は豊かになると一転して、規律と粗食を求める軍団に入る事を拒絶した、だから傭兵を擁する支配者に対する抑止力を失うのだ。

 規律を守り従順な魔獣の軍団が警備をしなければ、森であろうと街道であろうと護衛なしでは旅もできない程に危険な事を理解しているのか、本当にパルミュラ王が魔王に心を奪われているのならば、既にお前達人間の村も都市も魔獣の軍団に蹂躙され、野山で惨めに暮らしているだろう、お前はそれを理解しているのか、していないだろうな、お前の様に批判的思考しか持ち合わせていない人間は、表面に出ている以上の事を想像する力もなければ、事実を見ても理解しない」

 そう言うと彼は鼻で笑い。

「歴史は繰り返す、見なくても解ることだ」

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