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第一人者  作者: 近衛 キイチ
第八章
53/63

語り部

魔獣が入り込んだことのない森

沼と痩せ細った土しかない森

その奥深くに自由を求めた者達は逃げ込んだ


獣の皮を着込み川から採れた鉄で狩りを行う生活

その中で赤子が生まれた

とても大きな赤子だった

赤子は生まれたときから大人の様に話し

揺り籠に入り込んだ蛇を握り潰しその皮で帯を編む


彼は己が何者なのかを理解していた


四つになる頃には剣術で彼に勝る者は消え

狼の皮を被り獣の肉で作られたその肉体

どんな者も彼との力比べに敵わず

剣を振れば岩を割き大地を割る

その雄叫びを聞けばどんな猛獣も恐怖して走り去る

その歩はどんな獣よりも早く一蹴りで山をも越え

その眼と耳は世界のあらゆる場所を見通し

その知識は古代のどんな賢人にも勝った


十年と三年後に彼は故郷を旅立つ

単騎で魔獣の軍勢を相手に優勢に立つ少年

彼は魔王に一騎打ちを挑む

恐れおののいた魔王は魔の森の奥に在る居城に逃げ込んだ


魔の森は薄暗く凍り付くように寒く

漂う瘴気が人の侵入を拒む

凍り付いた湖に浮かぶ城は名を消された男の城


氷上には矢により射ぬかれた無数の骸

彼は氷を割るとまだ凍り付いていない湖の中に入る

極寒と暗闇の湖を泳ぎ

地下の水汲み場から彼は侵入した


立ち塞がる魔獣を次々と斃し魔王を大広間の隅に追い詰めた

何と哀れであろうか命乞いをする魔獣の王

多くの者を死に追いやりその報いを潔く受ける事のできない弱き者

ライオネルの言葉を無視した少年はその首を斬る

二回三回と床を転がるその頭を掴み掲げた――



「――ようやく予言が実現された、この時まで人々は苦しみに耐えたのだ、これから人類は幸せになるのだ、軍団を食わせるために稼ぎの七割を搾取される事なく、自分達の好きに出来るのだ、あぁなんと素晴らしい事だろうか、頭を垂れた稲穂を採る事を愉しみ、余った作物を売り払い、好きな物を買う事ができるのだ、何と健全な事であろうか、都市は再び文明を築き、全人類に黄金の時代が舞い戻るだろう」

 私ことダン・レントスは独り薄暗い地下牢の中にて、観覧席を埋め尽くす人々を想像し謳い上げる。

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