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第一人者  作者: 近衛 キイチ
第六章
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ルータニアンにて

 フーダンは呼び戻すと約束するが、総司令官に追放された自分に帰還する機会は存在するのか疑問に感じつつ、キュキュンベル伯領をフーダン直属の兵に護られながら馬で進んでいた。

 攻略も包囲もせずに敵が籠る砦が残されており、中に籠るキュキュンベルの兵士が自分の指揮により仲間が捕らわれた事を知ればどうなるのか、フーダン自身は信用することができたとして、護衛が総司令官に買収されている可能性が全く無い訳ではない、森の中で野宿する際も避難している住民に夜襲されないか、森を住処にする野盗が脱走兵ならばまだ話し合いの余地はあるが、愛郷の念に囚われたキュキュンベル伯領の者ならば酷い仕打ちを受けることになるだろう、様々な事を想像して眠ることができず、安心して眠る事ができたのはメッサリカに到着してからだった。


 久方ぶりに足を踏み入れたメッサリカはやはり豪華な都市だった、護衛達は初めて見る建物の彩や見た事のない食べ物や飲み物に目を奪われており、彼らに金を渡して自由を与える共に、自らも彼らに襲われるのではないかという恐怖から自由になる。

 数日後には護衛を残してメッサリカを離れる、暗殺される恐怖が再び湧き上がったからだ、都市の彼方此方で視線と追跡者の気配を感じたから、それは気のせいかも知れないが、この都市はレムリア半島の様に都市国家に囲まれた訳ではなく、大陸に寄生するためにランツやパルミュラを意識せずに運営はできないはず、媚を売るために殺される事はなくても投獄される可能性を考えたからだった。


 急いでいたために直接オスロへ向かう船ではなく、レムリア半島と隣り合うパラクタ半島の南に在るルータニアン行きの商船に乗り込む、運よくルータニアンの港町にオスロの商船が停泊しており、船乗りとして面接を受けて乗船するか金を払い乗客として船に乗るか迷う、これ以上金を使うのが急に惜しくなり船乗りとして面接を受けると、船長は自分の事を知っている様で、仲間の幾人かが自分の出した募兵に応じた事を理由に乗船を拒絶した。

 船長の対応を理不尽に感じると共に、レムリア半島に着いた時に徒歩でオスロを目指せばよかったと後悔し、取り敢えず寝床を探すために市内を探索することにした。


 ルータニアンは見習い時代によく来たが、辺りを歩く人々を見ているとどうも治安が良くない様に感じる、傭兵上がりなのか物騒な顔が多い事に気が付く、港には傷ついた帆船が幾つも打ち捨てられているのも見た、この国はどこかと戦争でもしていたのか、私掠船という名の海賊に狙われる可能性もあるかもしれない、気に掛けていなかった訳ではないが、自分の元には何の情報も入ってはいない、どこと戦争をしているのか自分は知らない、そして港を歩き進んでいると思い出した、不意に思い出した、何故忘れていたのか判らないが、この国は自分が船乗りとして最後に滞在したあの港ではないか、あのオリームと同じ種族のミュンヘム族の首級を掲げていた港ではないか。

 断片的な話が耳に入って来る、背筋が凍り顔面から血の気が引いてゆく、市門に近づく度に潮風に混じり血なまぐさい臭気が増す、そして自分は見た。


 市門を出た所に在る十字路の脇、そこには磔刑に処された無数の遺骸と首級が吊るされ、首のない胴体が無残に放置されていた。

「ささぁ見ておくれ、この醜き楽しい姿、贋物や作り物ではない、昔々の遥か昔の英雄時代から船乗りに恐れられるウリンダロス、その姿は大きなウツボとも蛇ともいわれている、そこの御婦人どんな姿を想像したかね、体長一プレトロン位かね、莫迦なこと言っちゃいけない、その姿は一パラサンゲスを超えると言われている、その大きさで船に絡みつき、その船体をへし折るというから恐ろしい事ではないか。

 そして、そして、その大蛇の子息様が今皆様のぉ目の前にいるこいつらさ、つい先日までこの長く太くたくましい尾を、くねくねとしなりしなりとくねらせながら地を這い、上半身はこの人間に似せて作られた姿で我等を欺き、何やら聞いた事もない恐ろしげな言葉を発していたこいつら、生きていたその姿を見る事のできなかったそこの御仁、残念だったね。

 さぁここからが本題でございます、聞いていきなさいルータニアンの王子カイザルの英雄奇譚を、輝かしいその活躍を」


 ミュンヘム族の遺骸の前で口上をする語部、その内容は聞くに堪えない物であった、市壁から外に出てきた人は目の前の光景見ると顔を背けて足早に立ち去り、その場に立ち止まる者は自分しかいない。

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