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第一人者  作者: 近衛 キイチ
第五章
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援軍

 

 レッタと言う名の都市は丘の上にある、取り囲む市壁の長さは約二パラサンゲス(約十キロ)あり、その市壁の高さは平均して二十ペキュス(約九メートル)、西側のそれは一部が崖の上に造られている事から他よりも倍は在ろうかという高さだった、さらに深さと幅共に八ペキュスから二十ペキュスの濠が市壁の周りを取り囲んでいるので、壁に取り付くことすら困難な状態となっている。


 この都市を陥落させる事ができれば、キュキュンベル伯領の領民に与える影響は大きい、しかし、ここまでの防御を持つ都市をどうやって落とすというのか、時間を掛ければ如何にかなるのかも知れない、だがつい先日の雨で市内の貯水槽は十分に潤い、市内には逃げ込んだ周辺住民や食糧が運ばれている上に、普段から十分な食糧を備蓄している事を考えれば、疫病なり暴動が起きなければ短期での攻略は難しいかもしれない、むしろ疫病を警戒しなければならないのは、長期間同じ場所に留まり、十分な食糧が確保できない我々の方だろう、さらに酒も底を着こうとしている事を考えれば、兵卒達の暴動も警戒しなければならない。


 レッタの住民がこの防壁に絶対の自信を持っているのも当然で、到着したばかりの我々を見た彼ら都市の住民は、壁の上から罵声を浴びせたり尻を出したりしては挑発し。

「もしも、この市壁が三十日の間に陥落するような事があれば、自分の首を一番に差し出そう」

 そんな事まで言う者もいた。

 憤怒したアービエルは、野営の準備も終わっていない我々に戦闘を命じるが、さすがに皆がこれには反対し、傭兵隊長と経験の豊富な貴族が総司令官を説得する事で兵卒達は休憩と攻城戦の準備を行う時間を得る。

 一箇所に集まり攻撃を開始しても十分に兵の数を生かせないので、全軍は三つに分かれて設営する事になる。

 一番数が多く総司令官が指揮するのは、貴族とその郎党及びパルミュラの周辺から集めた農兵を中心とする部隊で、貴族毎に自分達で好き勝手に行う事から、彼らは北から東にかけて陣営を築く。

 傭兵隊長ギノウス麾下の傭兵一万七千余が南部の防壁に就き、西側の市壁は壁も高く森も接していたので設営は困難と判断し、フーダン配下の傭兵二万余は総司令官から遠く離れた南西の壁に就く、フーダンもギノウスも総司令官の命令は戦闘の邪魔にしかならないと感じている様で、少しでも彼の目が届きにくい離れた場所を選んだ。



 攻撃を始める前に濠に流れ込む水路を塞ぐ事が命じられ、市壁を囲む濠を埋めるために土嚢や木々が投げ込まれる。

 この作業の間に自分は中隊を率いて食糧の調達に出る事を願い出る、フーダンは驚きながらも規定に満たない一個中隊だけでは心許ないとして、脱走の心配がない子飼いの騎兵を五十騎ばかり就けてくれた。

 しかし傭兵と言っても貴族の次男である彼らは自分の命令に従う事はないだろう、斥候としても使えないから何の役にも立たないかも知れない、それでも彼らに付き従う従者は、騎兵よりも役に立つかも知れないと思い、無いよりはましという感じで受け取った。


 二日の行軍の後に、先行する斥候から無人の村を発見したと報告が入る、奇襲を警戒して斥候に村の周囲を見回らせて安全を確認した後、二個小隊を村の外で戦闘態勢を命じつつ、残りの小隊を引き連れて村の探索を行う、食糧も見た限りは無い様に見えるが、自分は全ての蔵や家屋内の地面を掘り返す様に命じる、この辺りの習慣で土の中に酒樽を入れて置く事を思い出したからだ、そして、それは実際間違っていなかった、兵卒達は興奮しながら土瓶や樽に入れられた酒を掘り出した。

 その後、逃げ出す際に刈り取ったのだろうが、時間が経って再び成長していた野菜を全て引き抜き酒樽と共に荷馬車に詰め、一応自分は略奪者ではないという様に、無人の家屋に半一ギーずつ置き、その日は近くの丘の上に野営地を設け、一個小隊毎に酒樽を三つずつ開ける事を許した。


 次の日さらに遠くまで行く、途中で自生している麦を発見するも、粒が三つしか付いていない種類のもので刈り取るべきか迷うが、それでもやはり刈り取ることにする。

 それから数日の間に、キビ等が自生する場所発見しては刈り取りを行い、村を発見しては家屋から酒を掘り出し、荷馬車も荷車にも空きが無くなった所で本隊の許に戻る。

 配下の兵卒分を残して残りの酒瓶は一つに付き百ギーでフーダンに売り、彼は配下の中隊長達に六十ギーの値段で売り、残りをギノウスに二百ギーで売り払った。


 レッタを包囲する同盟軍は濠に向かい流れる水路を埋めているが、都市から出撃してくる敵の兵士と背後に潜むキュキュンベル伯の奇襲により作業は難航していたために、全軍の士気はとても下がっていたが、生のままの酒を久々に飲んだことで傭兵は活気を取り取り戻すと、アービエルも貴族達が隠している酒を接収すると農兵に振舞う。

 レッタを包囲してから二十日後、ようやく市壁に手が着くまでになると、アービエルはレッタに向けて演説する。


「壁に鎚が打ち付けられた時より、我々は長きに亘る則に従い行動する。

 都市への侵攻が成功した暁には、三日間の略奪により、諸君らの誇りである都市を破壊し、諸君が長年掛けて築き上げた財産の全てを没収する、男は命を奪われ女は侮辱されるだろ、残された子供は奴隷として売り払われる、全てが惜しいと言うのならば、今すぐに降伏しなければならない。

 戦いが始まった時より、一切の交渉は行わない、しかし温厚な我々は明日まで君たちに猶予を与えよう。

 キュキュンベル伯に逆らう事か、神々の祝福を受ける我が輩に逆らう事か、このどちらが恐ろしい事か考えたまえ、レムリニアスに逆らった初めての都市として歴史に汚名を残し、その魂は神々の許に行く事もできず、世界が終わるその時までこの世をさ迷う悪霊として忌み嫌われる事になるだろう」

 アービエルの演説を聞いた防壁の上に立つ住民の間に動揺が広がるのが見えたが、次の日になると彼らは自信を取り戻して防戦の構えを見せる。

 敵が降伏すれば略奪の機会が減る兵卒は喜び、フーダンやギノウスは都市の攻略に頭を悩ませる。


 そして攻城戦が始まった。

 兵卒は市壁の各場所に取り付く、しかし縄梯子が市壁の上に届く事はなく、逆に市壁の上から石や槍を始めとして、熱した油や糞尿まで投げ付けられた、自分の部隊には弩兵を援護に就けていたので被害は出なかったが、他の部隊では熱せられた油に火が放たれ死者まで出る始末。

 住民の数は五万前後という話、成人男性の数は一万から二万程で、戦える者は老人や子供を除けば四万になるだろう、一人頭三ペキュス(約一と三分の一メートル)の間隔があれば、隣り合う者と肩が当たることはなく腕を振れるだろうから、防壁の長さと高さを考えれば一万もいれば隙間なく護る事ができる。

 代わって寄せ手である遠征軍は十万前後、実数はこの三分の二程度だろうが、寄せ手の数は護り手の三倍から十倍の数が必要と云われている事を考えれば、この都市を攻め落とす事が可能な人数であるとは思う、しかし、技術が足りない、食糧が足りない、意志が足りない、それだけではない、背後の安全が全く確認できていない、このままでは不意に背後を襲われる可能性も大きいだろう。


 梯子も櫓も届かないのならば、坑道を掘り防壁の基礎を破壊するか、接城土手を築くべきではないか、できるならば投石機と弩を援護に就けるべきだ。

 勿論これは無理な話だ、傭兵達はそういった連携を執る様な作業は苦手だし、農兵も敵が攻撃する中で土嚢を運ぶ様な度胸はない、物資も技術も不足しているから投石機等を造る事もできない、勿論自分にもその様な物を作る技術はなく、先生達から教えてもらった昔話の中の知識しかない。


 休息と戦闘を一日おきに繰り返してから十日目の事、中隊長達の中には、この市壁を破るには相当の犠牲を出さなければならない事に気付き始めるとともに、兵卒達に焦燥感が漂い始める。

 全軍の中に広がる苛立ちと不満、このままでは暴動が起きるのではないかとの恐れが出始める、そんな時、裏切ったエッパー伯領に向けてコーネスが三万余の遠征軍を編制したとの報が来る。


 援軍の編成に対して、フーダンは驚きを言葉に出し、自分もまさかという思いだった。僅かな期間で三万にもなる軍勢の遠征を計画できるなど想像ができなかったからだ、そして、何とその遠征軍を率いるのは、現在最も傭兵隊長として名高いパルミュラの副王ゲルマネスだという。

 ゲルマネスが率いる軍勢と云う事は、北方の蛮族により滅亡させられたキルキアの住民を核とし、蛮族と魔獣を相手に戦い鍛え抜かれた軍勢の可能性があった。

 援軍の到来に期待したレッタを包囲する遠征軍の兵卒は、これで戦役の遂行が楽になる希望を持ち始める、しかし再び肝心の食糧が足りなくなり始めていたので、フーダンは自分に食糧の調達を命じた。

 長さまで独自の単位にしてしまうと、ますます読みにくくなるので、パラサンゲスとかペキュスなんて古代史に出て来る単位で誤魔化してます。

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