表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
第一人者  作者: 近衛 キイチ
第三章
26/63

レムリアの残り火

 島の住民は皆が親切だった。

 彼らが人間ではなく魔獣の類である事を忘れてしまう程に親しくなれば、今も大陸では人間と魔王軍が戦っている事まで忘れそうになる。


 節々の痛みやひび割れていた皮膚は元に戻り体調も全快に近い状態になったので、この島がこの世界のどの位置に在るのか、その手がかりを得るべく、オリームの案内の許、島の中で最も高い山の山頂に行くことにした。

「その体で山に登れますか、まだ全快ではないでしょうから、無理な行動は控えた方がいいですよ」

「大丈夫さ」

 そう言い、心配そうにするオリームの目の前で、腕を回したり腰を捻ったり飛び跳ねたりした。

「それよりも、君はその尾で岩や木の枝が落ちている所に行けるのかい、擦れて痛くなりそうだけど」

「全く平気です、疲れたら言ってください、抱えますよ」


 朝から登り始め、陽が頭上に来る前に山頂に辿り着いた。

 そこは周囲が木々に覆われ、外界を見渡せる様にはなっていなかったが、木々が生い茂っていた山道とは違い平坦に整備されており、その中央には小さいが立派な神殿が建っていた。


 大陸と同じ様な神殿を想像していた自分にとって、実際に見てみるとそれはかなり小さく感じた。しかし、長年放置されていた山道とは違い、神殿は外から見る限りは手入れが良く行き届いており、青銅製の屋根は、今し方取り付けた様に黄金色の光を放ち、屋根を支える大理石の列柱には苔も歪みもひび割れもなく、規則正しく立ち並んでいる。

 オリームに参拝するには何か条件が必要なのかと思い聞くが、彼女はこの神殿には神像が祭られている訳ではないと言った。


 一応作法として、煙で身を清めてから神域に足を踏み入れる。神殿の中に入る前、周囲を囲む列柱と外壁に挟まれた狭い回廊を見て回る、梁を支える石柱の一本一本にはツタが絡んでいる様な彫刻されており、その下の基礎部分には、紋章の様な見た事のない印が刻まれている、裏手に回るとその外壁には、レムリア大陸と、その周囲に在る島嶼の地図がはめ込まれていた。

「おぉ」

 思わず声が漏れる。その地図には、レムリア時代の属州が色石で別けられている上に、小さな凹凸により名前も知らない河川や山々に加えて、ポートルコの商人も知らない様な島々まで彫り込まれていた。


 壁に埋め込まれた地図に目を奪われた後、外から屋根の上に上がる手掛かりを見つけられず、神殿の内部に足を向けその大広間に入る、そしてその中央に大人ほどの高さがある石柱が置かれていた、それは石材で造られた、腰ほどの高さがある台座の上に置かれおり、この石柱が大切な物である事を物語る。

 石柱はつい先ほど磨き終わったかの様に光沢を放ち、その表面にはやはり見慣れない文字が刻まれていた、それは現在では宮廷文字へと変化している、レムリアの神官文字の様にも見える。

 その文字を読もうして一歩踏み出すと、足の先が台座に当たる、石柱その物はこの神殿では、御神体のような役割を持つのだから、それが鎮座する台座であろうと触れて良い訳がない、しかし、これが涜神罪に値する様な行為であるとまでは考えず、足をそのままにして石柱を眺める。


『王の中の王である

 レムリア王フラックスは神霊に命じる

 エリンブロックス号によって発見された

 ローレン諸島で産まれる妖精を

 ミュンヘム族と命名する

 妖精共は島に寄港する船舶に

 二十日分の小麦と十四日分の真水を与えなければならない

 漂流している人間を発見した場合は

 保護しなければならない』


 レムリア王フラックスの名は聞いたことがある、何をした人物なのかは思い出せない、人類が等しく幸せと呼ばれた時代に存在した、本当に存在したか判らない、伝説か神話の中で存在するレムリア王の名。 

 彼女達に失礼かと思って種族名を聞かなかったが、ミュンヘム族とは彼女達のことだろう、そう思い、後ろにいるオリームに尋ねようと後ろを振り向く、だがそこにいた彼女は、顔面に汗をかきながら自身の肩を両腕で抱き抱え、床に倒れ込もうとしていた。


 何が起きたのか判らないが一旦神殿内の探索は中断し、顔面蒼白で今にも気を失いそうな彼女を連れて神殿から出ようとする、これがとても重労働であった、上半身は細身の女性であるのに腰から下は蛇の尾その物で、それが上半身と同じ太さで数倍の長さがあるものだから、負傷から回復したばかりの自分にはとても辛かった。

 最終的には、尾の先が神域を表す塀の内側に残っていたが、何とか上半身は、風通しの良い日陰まで運ぶ事ができた。

 その後、神殿の中に入ろうか迷ったが、彼女の急な体調不良が神殿にある可能性を考え、少し気分が良くなるのを待ち、彼女の尾を神域の外に出してから、神殿の中に入る事にした。


 神殿の内部は、中央の石柱が鎮座する部屋の他には、外壁と内壁の間に人一人が通れる位の狭い空間あるのみ、天井には四か所の明り取りがある、そのどれにも緑色の吹きガラスが嵌め込んであった。

 やはり人の形をした神像の類はなく、レムリア王フラックスの彫像もないのだが、壁には沢山の人物がいた。はっきりと顔の表情や目じりのシワ、感情が読み解ける判る程に精巧に彫り込まれいる壁の人物達、その中に、頭に冠を載せ長衣を着込んだ青年とミュンヘム族の青年が手を握り合う姿がある。

 浜に放置されている彫像と違い神殿には色彩がなく、それらは造られた時代が違うのか現在の主流に近い様式と思われる。


 しかし、いずれにしても屋根に上がる階段はない。

「こんなことなら、縄か梯子を持ってくればよかったかな」

 遥か遠くにある天井の梁を見て呟く。

 神殿というのに香を焚く祭壇が見当たらない、神像の様に存在する石柱を見て回るが、ただ綺麗に磨かれた巨大な大理石の石柱だった。


 あのルータニアンの港町で見た魔獣の死体、毎年やって来る海賊、それ疑問を持つ事も仲間の行方を気にする事もなく、日常を過ごしているミュンヘム族、オリーム達の種族名がミュンヘム族というのならば、この石柱に刻まれている事を無意識に行っているに過ぎないのではないのか、自分の思い込みなのかもしれないが、本当に彼女達の種族が持つ悪癖ではなく魔法に依るものだとしたら、ヴェツアークの貯水池に在った扉の時と同じ様なものだとしたら、ここに刻まれた文字が人々に影響を与えるものだとしたら、これは祝福ではなく呪いとか洗脳と呼ばれるものだ。


 運命に抵抗する意思を奪うなんて、こんな事が許される訳がない。


「何が人類史上最も偉大な王国だ」

 自分自身の考え出した勝手な答えに、勝手に苛立ち石柱を蹴る、押し倒す積りで思いっきり蹴るが倒れない、それどころか全く動きもせず振動も起きない。

 その代わり周囲の空気が変わった、やはりオリームの体調が急変したのはこの石によるものか、この石柱か台座に触れる事でなんらかの仕掛けが発せられるのだろう。しかし、今までものそうだった様に自分にその効果は表れない。


 いくら自分が隠された物を見る事が出来るからといっても、この呪いを解くにはどうすればいいのだろうか、石柱に刻まれた文字に人差し指を当て刻まれているレムリア語を唱える。しかし何も起きなかった。

「これが自分の力か」

 それはそうだ、唱えるだけで何かを起こせるならばそれは神の域だ、たかが人間風情が何を思い上がっている。


 この石柱を物理的に動かせないだけで、これを破壊すれば文字の効力は消えてしまい、彼女達を自由にする事ができるかも知れない。

「いや、倒す事ができなくてもいい、文字を削り取ればその効力もなくなるはず、そうだろう」

 林を切り倒すのに使っていた鉈を石柱に振りかざす、しかし火花が飛び散る事もなく、鉈ははじき返される、手頃な石で石柱の表面を擦っても、石柱の肌は濡れた様な輝きを放っていた、さらに壁と床及び列柱に鉈を振り下ろしてみたが、一欠けらも砂塵の粒ほどの傷も付けることはできなかったし、床に使われている白大理石の板を剥がすこともできなかった。


 この神殿全体に奇跡が施されているという訳か、でなければ何時建立されたかのかも判らないものがこんなにも光り輝く事はないということか。

 この奇跡の謎が解けない限りは、石柱を倒して割る事も不可能なのではないのだろうか。


 何故大陸ではなく、この場所に設置されているのか、効力が限られているから、この場所に置いているのではないのか、海に放り込んだら効果が消えるのだろうか、船でどこか遠くに運べばと考えるが、オリーム達はこの石柱に触れる事ができないのだから、動かすには独りで如何にかこうにかしなければならないのか、それにその様な事ができるならば、誰の力を借りる必要も無い上に、後の始末を考える必要はないか。

 色々考え込んだが何も思いつかなかったので、オリームの具合がよくなるのを待って、下山することにした。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ