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第一人者  作者: 近衛 キイチ
第二章
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信じていた嘘

 春になり戦争に適した季節になる。


 去年は様々な事があり、軍の許には夏以降は戻らなかった城主ジョルジュだが、本来は季節の変わり目になると一時的に帰還するだけで、冬を除いた季節の殆どをマニシッサ河で過ごす。

 四年前までは家族と家令及び給仕まで、宮廷を丸ごと率いて防衛線で過ごしていたのだが、移動だけで莫大な費用が掛かるために止めてしまったそうだ、それ以来だろう、奥方はマニシッサ河へ向かうこの時期になると夫の浮気を疑い、今年も遠征の支度を行うジョルジュと寝室で怒鳴り合う、その声は自分が眠る回廊まで響き、確実に娘の枕元まで聞こえているはずだ、しかし彼女の両親はそんな事は気にせず、お互いに幾人もの愛人がいる事を責める。


 城主が進発した日も変わらずにアンネリーゼの護衛で一日が終わる。

 最近ではユーリーから送られてくる手紙が楽しみになっている自分がいる、城門が開く度に手紙が届いたのではないかと浮足立ちそうになる、文字を追っている方が楽だからだ、返事を書いてお礼を伝えたいくらいなのだが、警備上の観点からこれを禁じられていたので、返事の来ない手紙を書く事にユーリーが厭きてしまうのでは、その様な恐怖すら覚えるまでになっていた。


 観劇の時に話し掛けて来た姫様であるが、以後は以前の様に自分を存在しない者として扱い、今日も彼女に就けられた家庭教師の授業を聞き流す事で朝が終わる、陽が高くなり暖かくなり始める位の時間、読書をしていたアンネリーゼが侍女達と共に庭園に向かう際、何時でも読む事が出来る様にと読んでいた本を手渡される。

 手渡されたその本は王都レミノスで開かれたレムリニアス同盟の会議に、ジョルジュの代わりとして出席した貴族による報告書の写しだった、写しだとしてもこんな重要な物を自分が持っていても良いものかと不安になる一方、庭で侍女と遊ぶ時や部屋から追い出されて回廊で待っている時などに渡された写本を眺める。

 子供や奴隷には理解できないとでも思っているのか、写本を読む自分に騎士達は侮辱の言葉を浴びせるが、機会が在る度に写本を読み進め文字を追ってゆく、その内容は巷で溢れている高貴な血統が集まった神聖な話し合いとは程遠い物であった。




 ウル王によってコーネスの王位就任に対する疑義、それを肯定するランツ王の代理による長々とした演説、一方のネルツヒトは、隣国のランツを貶めるために、本来最も仮想敵国として警戒するパルミュラを擁護し、両国に領土が挟まれているエッパー伯とキュキュンベル伯は、前者が直接パルミュラに国境を接する事から日和見な態度で意思を明確にせず、後者はランツに国境が近いためにパルミュラに媚を売る。

 開催から数日間の協議は怒号と侮辱で溢れる。金も人も出したくないが、少しでも出すからには自国の将軍を司令官に推薦し、魔獣との戦いにおいての名声を自身の手に掴みたいと望む王やその代理人は罵声を浴びせ合う、隣国のラドベル王の代理人はライオネルとコーネスの王位を否定し、自身の主にも王位を継ぐ資格があるとまで言い出す。


 報告書を記したヴェツアーク王の代理人は。

「キルキア王が最も早く同盟に賛同したのは、自国の領土を圧迫する北方の蛮族に対抗するために、ライオネルを斃した後に同盟軍を使いたいとの思惑が存在した」

 そう注釈を付け加えており、著者自身がウル王やキュキュンベル伯と密談を行い、同盟に参加しない場合の危険性を検討したと記しているが、結局は大国であるパルミュラの軍事費を肩代わりさせられる上に、全ての権威や勝利の賛美はコーネスへ向かうと警戒し、自分達で秘密裏に同盟を結び緊急時に備えるべきではないかとの結論に至る。


 生まれたばかりの予言の者が連れて来られると、レムリニアスの予言など信じない王達は、赤子の真偽を確かめるために、眠る赤子を火の中へ投げ込む事を提案するが、現場にいて奇跡を目撃した騎士達が涜神に値するとして拒絶すると、パルミュラの宮廷に子弟を送っていないランツとネルツヒト及びラドベル以外の出席者は自分の息子や弟の言いを聞いて、赤子が本物であると信じ始めると共に、彼らの関心は予言の者の所有権に移るが、最大の仮想敵国に予言の子が渡る事を嫌ったランツとネルツヒトの大使は、予言の子を否定して、再び火の中に投げ込む事を提案、ウルとラドベルがそれに同意した事で、キュキュンベル伯の息子が剣を抜き各国の出席者を前に威嚇し、各国の従士同士が剣を突き合わせる事態となり、出席者はドネティーク城内の客室に籠城しなければならなくなる。


 各国の出席者が籠城とも軟禁とも取れない状態に陥り、自国の情勢を掴めなくなっている間に、世界中で、レムリニアスの復活と忘れ去られていた彼の物語が噂される様になった。

 マニシッサ河に接することなく魔獣の圧力が掛かる事のなかった東方の国ではいざ知らず、西方の国々では、自国の支配者がレムリニアスの復活に意を唱えている事を知ると、権威に対する不信感が生じたために国内は不安定になり、パルミュラから離れていたランツとネルツヒト以外は同盟を受け入れざる得なくなる。


 コーネスは公の前で予言の子を養子にする事を宣言し、見守る民衆から拍手喝さいを浴び、同盟に参加する者達は赤子の手に忠誠の誓いを行った。

 本当の所は誰も予言の子に就いて大した関心がある訳ではなく、ウルやヴェツアーク及びキュキュンベルは隣国のランツやネルツヒトが保持するより、さらに愚かなラドベルが保持するより、パルミュラの王と王弟の方が被る不利益が少ないという理由で、生まれて間もない子供の手に忠誠の誓いを行うという屈辱に堪えた。



 読み終えて思うのは、ライオネルはそれ程に恐ろしい人物なのだろうか、ジョルジュの余裕、キルキアの崩壊、自分を塔に閉じ込めたコーネスの対応、魔獣の王に対する恐怖、予言の者への期待、防衛線のマニシッサ河では何が起きているのか、キルキアの崩壊は本当にライオネルによる物なのか、そもそも本当に人類は魔獣と戦っているのか。自分が何も知らない事を理解し、次々に疑問が湧いて出る。


 パルミュラの城や砦にあった書物には本当に真実が記されていたのだろうか、先生達は事実を知っていて隠したのか、そこまで疑えば、今度は自分自身の出生も怪しくなる、やはり自分はレムリニアスとは全く関係のない子供ではないか、コーネス自身が盟主としての地位を護るために、拾ってきた赤子を予言の子に仕立てたのではないのか、エリザの言う様にエリスでの悲劇はライオネルを人類の敵とするために仕組まれた策略であったのではないか、そう思ってしまう。


 考えている内に、自分は大局の外に居る人間となったのだから、関係のない世界の話を知っても仕方がないではないか、そんな風に思い始める。

 パルミュラ王の保護下に居るからこそ、自分は予言の子であったのだ、今となっては自らの存在すら証明する事ができない子供だ。


 どんなに自分の正体を叫ぼうが異常者にしかならない、本当に自分が予言された者ならば、自分がどの様な状態であっても捜し出すのではないか、そして今度こそ求めるに相応しい人物に自分を仕立てるのではないか、あのまま砦に留まっていれば、教育という名の矯正を施されていたのではないか、そうなった時にどの様な人生が待っているのか、それを想像すると全身が震え始め、これ以上は予言の者に関わりたくなりと心底思い考える事を止めた。

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