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今回で一応完結ですが、番外で補完していきます。
一足飛びの流れとなってしまいましたので、もしかしたら書き足すかもしれませんが、今の私には気力がありませんのでお許しください。
お義姉様との会話をし、自分が二人をどう思っているのか、それを考えた。
ジェラルドは頼れる存在。
では王太子殿下はどうだろうか?
二人との婚約を中心に考えていて、二人をどう思っているのか、二人がどんな人物かをあまりしっかりとは考えてこなかった。
いや、こられなかったというべきか。
それからは今までダンスを踊るだけで精一杯だったのが嘘かのように、ダンスやお茶会中に積極的に会話をするようになった。
好きなもの嫌いなもの。
得意なことそうでないこと。
ジェラルド様は武術一本の方かと思っていたが、意外とのんびりするのも嫌いではないらしい。
休日には遠乗りをよくしていると仰っていた。
また、領地貴族であるから当然ではあるものの、領地経営も勉強しているらしい。
今まで勉強してこなかったツケだとお兄様は笑っていたが、頭より体を動かすことが好きそうなジェラルド様がしっかりと当主として領主になるつもりだったことに、失礼ではあるが驚いた。
わたくしも勉強はしたので、こっそりと家庭教師からの宿題に示唆を差し上げると存外喜ばれた。
将来隣に立つ者には領地経営ができる方がいいかもしれないな、とふと思い、わたくしだったら手伝って差し上げることもできるかもしれないとも思う。
頼りがいのある方だと思っていたが、こういうところは随分とかわいらしく感じる。
王太子殿下は他国を訪問するのがお好きらしい。
その国々の本ではわからない、肌で感じる空気を知り、良いところを学べるいい機会であるから、と積極的に名代として赴いているそうだ。
いつかはこれらの知識を自国のために役立てたいと仰った殿下は、王族としての覚悟があった。
お兄様との稽古に耐えられた王太子殿下のこと、体を動かすことは好きらしい。
しかし、それは本で勉強するというのがお嫌いだからというのもあるらしい。
これはお兄様が仰っていたことで、それをわたくしに話した時の殿下は随分と慌てていらっしゃった。
完璧だとお噂の殿下が慌てている様子はを見て、申し訳ないと思いつつも少しだけ笑ってしまった。
こんなわたくしの変化を周囲はやっと結婚する気になったかと喜んだ。
しかし、すべての人がそうであるとは限らないもので。
歓迎していない筆頭が侯爵令嬢ナターシャ・ハートフィールド侯爵令嬢。
年は一つ下であるものの、立場上はわたくしと同じであり、王太子求婚事件が起こるまで王太子妃候補筆頭だった。
そんな立場であれば、当然のことだろう。
とは思うものの、その瞳には怒りや嫉妬だけではなく、悲しみがあるような気がしてならない。
それがどうにも気になる。
会うたびに
「貴族令嬢であるならば当主が婚約者を決めるのが当然ですのに、ご自分で決められるだなんて羨ましいですわ」
「ゆっくりと選んでいられるだなんて、選ばれる女性というのはいいですわね」
などと言葉をかけられるものの、常に一人でであり、徒党を組んで囲まれたこともなく、わたくしとしては潔くも感じるため、むしろこんなことがなければお友達になれたかもしれないのにとさえ思う。
もちろん、他にも彼女に便乗する令嬢方もおり、とはいえ、主人公が侯爵令嬢である以上、あまり表立っては言われず時が過ぎていく。
アイリーン自身、そう見られても仕方がないと割り切っているが、あまりの言われ様にお兄様やジェラルド様、王太子殿下は眉をしかめている。
そうした日々を過ごしていくうちにその時が訪れる。
「そうしているとまるでお姫様のようですわ」
不意に浴びせられた言葉にどきりとする。
そこまで言われてしまうように見えるのか、と。
反省しているわたくしとは別の声が口をはさんだ。
「ターシャ、言い過ぎだ」
ジェラルド様がわたくしを庇うように間に入ってくださったのだ。
わたくしは大丈夫ですので、と言おうとするものの、二人の間に入れない。
「ジェリーは黙っていてくださいませ」
「ターシャ、最近のお前の言葉には気遣いというものが感じられない。どうしたっていうんだ、お前らしくもなく直接的に言葉にするなんて」
「ジェリーには関係ありませんわ」
「ターシャ!」
ナターシャはキッとわたくしを睨むと、ジェラルド様を一瞥し、ホールから出て行った。
「悪いな、アイリーン」
「いいえ、お知り合いなのですか?」
「あぁ。昔から家同士、仲が良くてな」
「そうなんですの」
わたくしは先ほどのナターシャさんの言葉について考える。
確かに今の状況は二人を手放さずに遊んでいる悪女のようだ、とそう感じてしまった。
とっくに答えは出ていたのに、二人と過ごすのが楽しくてついついまだわからないと言い訳してしまっていた。
答えを伝える時が来たのだ。
こんなきっかけでもないと動けないような女だったのかと少し笑えてくる。
「ジェラルド様、殿下、少しテラスに行きませんか」
心配そうにこちらをうかがっていた二人ににっこりとほほ笑む。
二人ははっとし、うなづいた。
人気のないことを確認し、話し出す。
「あれからたくさん考えましたの。お二人のことをもっと知ってからでも遅くないと思い、いろいろとお聞きしましたわ。ジェラルド様は武術がお好きだけど、実はのんびりと乗馬するのも好きだということ。でも暇が続くのはお嫌いだということ。王太子殿下は他国へ行くのが楽しいと、良いと思ったことを自国で試していきたいのだと仰っていましたね。反面お勉強は好きではないと」
二人とも苦笑する。
「好きなことも嫌いなことも、お二人について多くのことを知って、わたくしは考えましたわ。考えて考えて、答えを出しましたの」
どちらのだろうか。
息をのむ音がする。
「……ハウエルの人間として、どちらの隣に立つのが良いのかと考え、ジェラルド様のお隣が良いと思いましたの。正妃となってしまえば、わたくしは守る立場ではなく、守られる立場になってしまいますもの。それではいけませんわ。ジェラルド様はわたくしが隣に立って戦うことを許してくださいますでしょう?」
うなずくジェラルド。
静かに目を伏せる王太子。
しかし、次の瞬間には笑い、立ち去るように踵を返す。
「……ですが、お兄様に、アイリーン・ハウエルとしてではなく、アイリーン個人として結婚相手を決めるように言われております。お義姉様にもこの先、長い長い道のりをともに歩いて行ける方との結婚を勧められましたわ。たくさんのお話の中でお二人を知っていって、どちらを支えて生きていくのがわたくしらしいだろうか、と考えましたの」
その言葉に立ち止って振り返る王太子殿下。
「ジェラルド様。あなたを選べばわたくしはあなたに頼り切って生きていくことになるでしょう。優しく頼もしいあなたはそれでもいいと仰ってくださるかもしれない。けれどハウエルのわたくしはそれを許さない。そうしてきっと疲れていってしまう」
眉を下げて話す主人公の頭をポンと一つ撫でる。
背を押すかのように
「殿下。わたくしはまっすぐと国のことを思い、語るあなたを支え、あなたと共に進んでいきたいと思うのです。ハウエルの人間としては最良とは言い難い結果ですわ。ですが、そのお心をどうかおそばで守らせていただけませんか」
王太子は信じられないという顔をしながらも、アイリーンにゆっくりと近づき、抱きしめる。
「本当にいいのかい?私で」
「あなたがいいと思ったのです、マクシミリアン様」
実感するためにぎゅっともう一度強く抱きしめるマクシミリアンを抱きしめ返す、アイリーン。
彼女はハウエル家の人間なのでした。
ですが、やはり一人の少女でもあったのでした。
お読みいただき、ありがとうございました。
誤字脱字等ございましたら、お教えください。
長らく空けたにもかかわらずお読みいただきました皆様に、感想をくださいました皆様に御礼申し上げます。
こっそりサブタイ募集します。
サブタイ難しい……。