2話 二重の壁と収納の弱点
何とかリオの羽織を乾かした一行は、門をスルーし、露店の方に向かった。
近くで確認すると、屋台の店主と数人の客がいる程度で、賑わっている訳ではないようだ。
「言葉は通じるのが定説かなー。通じないと物語進まないし」
「そっかー」
「、、、誰目線の話してるの?」
リオのお得意のメタ知識をアンナは軽く流す。たまらずテンが口を挟んだ。
立ち並ぶ屋台のうちの一つ、薬草を並べている店の店主が、何やら片手をあげて声をかけてきた。
「『やぁいらっしゃい!』」
「 「 「 「 「、、、」 」 」 」 」
声をかけられている。それは分かるのに、全員がとっさに言葉を返せない。
「なんて???」
「、、、聞き取れなかった」
「え、言葉が分からないとか、まじか」
「挨拶されたのか、、、?」
数秒前の定説が崩れた瞬間である。
思わず困惑の顔を浮かべたことで、店主も首を傾げている。混乱の最中、動いた人物が1人。
「へぇい!」
テンである。
「え? 分かったの?」
「いや、全然。聞こえた単語返しただけ」
「分からんのかい!」
ヨウスケがテンに問うと、あっけらかんとテンは否定する。
「『何かお探しかい?』」
「、、、土曜?」
「だめだ分からん」
リオとヨウスケが聞き取ろうと必死になっている後ろで、2人の後方にいたアンナがテンを呼び寄せる。
「天、収納から薬草を出して」
「ん? おっけー」
収納収納、と念じながら空に円を描いき、戸惑いなく腕を入れる。
少し手間取りながら、感触を頼りに薬草を3束ほど取り出し、アンナに手渡した。
「『すげぇ! 収納持ちか!』 」
その様子を見た店主が、興奮気味の声を上げる・
「、、、『オハ』は感嘆かな? 『すごい』的な感じ?」
「すとら??? 杏ちゃんか天のこと見て言ったね」
変わらず頭を捻るリオとヨウスケ。
ノノカは飽きたのか、広がる草原を眺め、スライムは足元の草を捕食している。
「これ、売れるかな?」
アンナは受け取った薬草の束を店主に差し出してみる。
「え、それ売るの?」
「どう見ても薬草を扱ってる店みたいだし、服よりは売れるかなって」
「あーね」
戸惑ったリオに、アンナは当然として答え、店主も受け取ると何やら吟味しだした。
少しすると、屋台の下からきらりと光る銀色のコイン1枚と鈍色のコイン5枚を差し出してくる。
「、、、売れた?」
戸惑いながらも、受け取ったアンナが少し嬉しそうな表情でそれを見つめる。
「え、やった!」
「杏奈ナイス!」
リオとテンも喜ぶ。ヨウスケは喜びつつもコインを観察する。
「銀貨と銅貨、かな?」
「色味的にはそうだね。多分、銅貨、銀貨があるってことは、金貨も存在するんじゃない?」
「異世界知識?」
「それもあるけど、日本だって10円玉、100円玉、500円玉って色違うじゃん。銀と銅しかない、は可能性低いかなって」
「それもそうか」
リオの考えにヨウスケは納得すると、5人は一旦、店主に頭を下げて店の前から離れる。
「薬草を売ってる屋台で薬草が売れたってことは、服は服を扱ってる屋台へってことだろうけど、、、ないね」
「あれは服ってより、防具屋さんぽいもんね。こんな透けてる薄布は論外か」
数件の屋台を見渡してアンナは結論づけ、それにリオは同意しつつも残念そうに羽織をパタパタと弄ぶ。
「さて、このお金で入国できるのか、が最大の問題だけど、、、」
分かってはいたが、まさかの言語と金銭の壁が5人に立ち塞がる。壁は目の前の物理的な物だけにしてほしかった。切実に恨むぞ女神。
5人はとりあえず、門の近くまで移動する。屋台辺りを右往左往するのも、怪しまれそうなので。
「うーん、多分、10円玉みたいなの5枚で1人は入れるかも、、、?」
「え?」
先程まであまり話さなかったノノカが、スライムを抱え、門の方を眺めながら呟いた。
「10円玉みたいなって、この銅貨の事?」
アンナが1枚を摘み、ノノカに見せる。
「うん、それだと思う。武器持ってる人は払ってなくて、馬車引いてる人は銀色のを何枚か出してるけど」
「、、、冒険者みたいな人が存在してるかもってこと!? あと、馬車は商人的な人のじゃん!」
「興奮するなするな」
「なんで冒険者?」
「おれ分かるよ、異世界あるあるでしょ?」
「いえす!」
「説明」
「、、、はい」
飛躍した発言のまま落ち着かないリオに、テンが合いの手を入れつつ、アンナがたしなめる。
「よくある設定として、『ギルド』っていう組織があって、そこに所属する人を『冒険者』て言ったりすんの。
んで、冒険者は魔物と戦ったり、護衛したりを仕事にしてることが多くて、ギルドはその仕事の斡旋したりする」
いまいちな反応のアンナとノノカ。テンとヨウスケは知っていたのか、特に困った表情はしていない。
「あたしらの知識でいう、派遣さんに仕事を紹介するみたいな感じ。
で、何で冒険者って思ったかというと。その1、武器を持っている。その2、よくある設定で、この冒険者は街などの出入りが無料なことが多いから!」
「つまり、三谷の言ってた『武器を持ってる人は払ってない』って、リオちゃんの知識的には冒険者って判断できるのか」
「いえす!」
理解できたアンナが簡単に復唱する。説明がないと、突拍子もない発言にしか聞こえないことも再認識した。
「商人は荷台とかもあるから高くなるんだと思う。ただの一般人なら、三谷の見てた通り銅貨5枚だろうね」
「そうなると、1人分はあるね。この銀貨が銅貨でいう何枚分かだけど」
「そもそも、銀貨のが高いって判断していいの?」
「高いと思うよ? 荷物が多いほど安くなるなら、みんな大荷物になっちゃうし。配達の荷物も大きさや重量があればあるほど、お金かかってたじゃん」
「異世界に日本の常識を当てはめるか、、、」
リオの見解にアンナとヨウスケは苦笑いしつつ、他に判断材料もないため一旦納得する。
「そもそもさ、スラちゃんも入れるのかな?」
「 「 「 「あ、、、」 」 」 」
スライムを抱いたノノカの腕に、ぎゅっと力がこもる。
「定説では入れるけど、、、あんまり歓迎はされてないかもね」
そのときになって初めて、数人の人から奇異の目を向けられていることにリオは気が付いた。
見慣れない衣装を纏い、聞きなれない言語を話す集団だ。しかも内1人はスライムを連れている。
「門番ぽい人がこっちに来ないから、警戒心マックスではないと思うけど、、、」
言い淀むリオに、ノノカは決意する。
「なら、わたしは入らない。ここで待ってる」
「、、、はぁ?」
「三谷!? 何言ってるの!?」
「お金的にも全員は無理かもでしょ?」
「そうだけどさー」
「予定通り莉緒ちゃんの羽織を売り込めば、何とかなるかもだし、、、」
「でも、売れそうなところないんだよね?」
「う、、、」
ノノカに押され気味なリオ、アンナ、テンの3人。
「、、、あのさ、1つ方法を試してから判断したい」
少し考えるそぶりをしていたヨウスケが、軽く手を上げ意思表示する。
「方法?」
「うん。スライムを、、、天の収納に入れることは出来ないかなって」
「えっ」
「あの中に?」
「あー、一理あるかも」
「、、、」
リオ以外、可能性すら思いつきもしなかった提案に目を見張る。
「天がさ、残った焼き魚しまってただろ? それを思い出した」
「確かに、手を入れても問題なかったし、いけるか、、、?」
「天以外は入れてないけどね」
「、、、スラちゃんケガしない?」
「、、、保証はできない」
「、、、」
数秒、ノノカとヨウスケが見つめ合う。
「、、、ならさ、あたしが手を入れてみるから、問題なければ試すじゃダメ?」
「、、、なんで沢村さんが入れるの? そこは提案者の俺でしょ」
ピリピリした雰囲気に発展しそうな予感を感じたリオは、いち早く案を出す。リオは仲間内の揉め事や喧嘩が嫌いだ。他人からは売られれば買うが。
呆れ交じりに少し笑ってリオの提案を却下し、ヨウスケが試すことになった。
「だすよー」
テンが念じると、見慣れつつある空間の裂け目が現れる。
うまく皆の体で隠しているが、多少の視線は感じた。
「入れるよ」
一つ息を吐いて、ヨウスケは覚悟を決め、ゆっくりと手を伸ばす。
ズポッ___
「おぉ、入った!」
「持ち主以外も漁れるんだ」
「漁るやめい」
「天に開いてもらえさえすれば、いけるんだね」
ノノカ以外は便利性が上がったことを喜ぶ。
「んじゃ、スラちゃんがいけるかだね」
「、、、うん」
「あー、提案してなんだけど、嫌なら無理には」
「ううん。スラちゃんがやってみるって」
「え、意思疎通できるの?」
「ふわっと何となく感じてるだけ」
ノノカは腕に抱えていたスライムを、収納の前で手のひらの上に乗せて持ち上げる。
「ぷるっ!」
少し跳び上がり、スライムが収納の取り出し口に触れた瞬間。
ガキンっ___
「ぷるっ!?」
まるで見えない壁に阻まれているかのように、侵入を拒否され弾かれた。
「え」
「スラちゃん!」
幸い落下前に抱えることに成功し、安堵する。
「、、、生き物は収納不可なのかも」
「命あるものはダメってこと?」
「無くはないかなって。確証はないけど」
「、、、そっか。三谷もスラちゃんも、ごめん。協力してくれてありがとう」
「ううん、こっちこそ。、、、でも、やっぱりわたしはここに残るよ」
今度は皆が納得した上で、ノノカの意見を受け入れた。




