1話 現実問題と魔法洗濯
ノノカとスライムに追いつき、全員が見た光景。
そこには、もう森はなく、一面に広がる草原と土が剥き出しの一本道。そして、その道の先に聳え立つ壁のような建築物らしき物体だった。
「、、、壁?」
「遠そうだね」
「でも、だいぶ大きそう」
「えー、とりあえず行ってみる?」
「道があるってことは、人が居るかもだしね」
「いざ、異世界の第一村人ってね」
「気が早い」
目的地が決まったため、森に背を向け一歩を踏み出す。
柔らかい地面の感触は変わらない。でも、さんさんと降り注ぐ太陽がとても眩しい。
少しだけ、気持ちが晴れやかになったような気がした。
***
「と、遠かった、、、」
「歩いたね、、、」
「暑いし汗かいたし」
「休憩したい」
「喉乾いた」
話す気力があまりないのか、5人から漏れるのは短文の言葉のみ。
それもそのはず、多少遠いと見積もった一行は、なんだかんだ休憩しつつも1時間近く炎天下の中を歩いたのである。テンの水魔法に助けられ、水分補給はしつつも、かなりヘロヘロである。
5人に時間なんて知りようもないが、とにかく歩いていたことは体感で分かっていた。
目の前には想像以上の大きさの壁が聳え、5人を待ち構え、その迫力に圧倒されるより、疲労感に俯いていた5人に、期待した瞬間が訪れる。
「、、、声? あ、人だっ! 人がいる!」
リオが今までと違う気配の音を拾い、そちらを確認して思わず叫ぶ。それに反応し、全員が顔を上げた。
瞳に映すは、数十メートル先に列をなす数人の人、門番らしき人、壁に立ち並ぶ数件の屋台。
「ほんとだ、本当に人がいる、、、!」
「やったー!」
「ここ下れば、もうすぐじゃん!」
「着いたらゆっくりしたいな」
「、、、待って」
4人の期待に水を差すように、リオが声を固くする。
「お金、ないよね、、、?」
「 「 「 「あ、、、」 」 」 」
一瞬の沈黙。
「そうじゃん。行っても何もできないじゃん!」
「そもそも入れる?」
「この世界の通貨とか物価も分からないのか、、、」
それもそうだが、とリオは同意しつつ、1つ問題を追加する。
「それに、この服装は目立つから、どうにかして早い段階で服は入手した方がいいかも」
「何で?」
「珍しいもの持ってる=(イコール)売れるとか、金持ちって思われて輩に襲われる」
「異世界あるある?」
「定番であるある」
「こわっ」
「遠目で見ても、俺たちが見慣れた格好じゃなさそう」
おでこに手のひらをあて、人々を観察していたヨウスケが呟く。
「一応、1つだけど、案は浮かんだよ」
「お!」
「教えて!」
「壁の傍に屋台があるでしょ? もし、買取してくれるならだけど、服を売ってみようかと」
「あー、背に腹は代えられないしね」
「いいアイデアじゃん!」
リオの発案に、全員がノリ気になる。
しかし、まだリオの言葉は続く。
「ただし、売るのはあたしが着ているこの羽織のみ」
「え?」
「何で?」
「ただの屋台とお店とじゃ価格が違う可能性が高いから、全部売るのはリスクがあること。それから、あたしは羽織を脱いでも問題ないけど、、、皆はそれ脱いだら下着になっちゃうんじゃないの?」
「 「 「 「あ、、、」 」 」 」
「、、、みんな、暑さでやられてるね」
やっぱり考えてなかったか、と照り付ける太陽に免じて不問とした。
太陽はすでに一番高い位置を通過したようで、少し高度が落ちてきているとリオは感じていた。
「そもそも買取りをしているかと、この世界の物じゃない服は買い取ってくれるか、て二段構えの問題があるんだけどね」
巻いていたオレンジの羽織を腰から外し、テンに差し出す。
森では露出した足を虫に刺されないよう保護具の代わりにしたり、気休めの日差し避けにしたりと大活躍した品だ。
「一応汗かいてるし、汚れてるからさ。水魔法で洗ってくれない?」
「おっけー、やってみる!」
「あたしが風魔法で乾か」
「やめて!?」
「倒れたの忘れたの?」
「今日は魔法禁止!」
「、、、」
「黙ってもダメだからね?」
「、、、はいさー」
皆に注意され、アンナの圧にリオは従うしかなかった。デジャブ
「てなると、誰が乾かすの?」
「わたしちょっとやってみたい」
リオの問いに手を挙げたのは、数時間前に風魔法発動の前兆があったノノカだった。
「私、近くで見学したい」
「俺も」
まだ魔法発動の経験がないアンナとヨウスケの要望に頷く。
「水球の中で渦を巻く感じかな。洗濯機のイメージ」
「おっけー」
短い打ち合わせが終わると、2人が見やすい位置にいることを確認し、リオはテンに合図を送った。
「天! いいよー」
「大きな水の玉、、、」
テンの眼前に子供ほどの直径の球体が発生する。生きているかのように表面が少しボコボコと暴れている。
「スラちゃんみたい」
「光反射してキレイだよね。天、服いれるよー」
「こい!」
集中して観察しているアンナとヨウスケは黙ったまま、次の動作を待っている。
「水の中だけ回す、、、さっきの川の渦みたいに、、、」
テンは森で火の番をしていた時、そこから見ていたあの光景を思い出していた。
すると、水球の中央で細い渦が上下に伸び始める。それは直ぐに太い渦となり、中で漂っていた羽織を巻き込みに暴れる。
「、、、やばいかも?」
「あ」
パシャンっ___
ノノカが嫌な予感を感じた時には遅く、弾けた水球は勢いよく地面を濡らす。幸いびしょ濡れを回避したテンは、地面に落ちた羽織を申し訳なさそうに拾い上げる。
「ごめん、、、」
「どんまい。地面が草でよかったよ。掃えば問題なし!」
リオはテンに向けてサムズアップする。
「じゃあ、天も袖の端つまんで立って、、、ノノカ、こっちは準備いいよー」
ノノカの正面には、羽織の袖をつまんだリオとテンが立った。
「そよそよ吹く風、、、。この草原に吹いてるような、ふわふわの風、、、」
段々と、リオとテンの髪が風に撫でられ揺れ始める。
体感でも正面にいるノノカから、放たれていると分かる。分かる、のだが。
「、、、弱くね?」
「天みたいに暴れたら怖い」
「ぴえん」
「古い。そして、これは、、、あとどれくらいかかるかな?」
リオの心を読んだようなテンの発言に、ノノカ本人が反論する。
ふざけるテンをあまり相手にせず、リオは太陽を見上げて呟いた。
全員が少し日焼けしたことは言うまでもない。




