3話 入国して服屋さんへ行こう
「分け方だけど、買い出し班は2人。待機班に3人が良いと思う」
「理由は?」
「考えたんだけど、薬草3束で銀貨1枚と銅貨5枚。中身はどれもまとまって採れたものだったし、珍しい植物ではないと思う」
「そうだったの?」
「うん」
ヨウスケの説明に、リオが促しつつ、アンナの確認をとる。
「だから単純に1束で銅貨5枚と考えていいと思う。何かあったとき用に銅貨5枚は待機組が所持。銀貨1枚で銅貨10枚分と仮定して、2人が買い出し班てことでどうかな?」
「異議なし」
「右に同じく」
「それでおっけー」
「うん」
今回、さすがに考えてチーム分けをすることにした5人。ノノカは確定で待機班である。
「鑑定あるし、陽ちゃんには行ってもらいたいかな。魔物がいる世界だし、武器屋でガラクタの中身を鑑定して、良いのを買ってきてほしい」
「ガラクタから良い物を買ってこいというパワーワード」
「なら、莉緒ちゃんと陽ちゃんが入ればいいんじゃない? 天はそれでもいい?」
「いーよー」
「え、なら陽ちゃんと天のが良くない? 鑑定と荷物持ちで」
「おい」
「何かしら知識があるって意味では、莉緒ちゃんが適任でしょ」
「おーい無視か?」
「天うるさい。とりあえず了解。あたしと陽ちゃんで行くわ」
「よし、決まりね」
真っ先にヨウスケが買い出し班に内定し、リオ、アンナ、テンで話し合いが終わると、次は確実に買うものをリストアップしていく。
「食べ物と、武器と、、、て、武器は何買うの?」
「あ、鑑定で自分の持ち味は把握してたけど、何使うかまでは考えてなかったね」
状況整理で忙しく、すっかり失念していたことを思いだす。
「そもそも、武器って必須なの?」
テンの質問に、リオが答える。
「確かに、武器なくても魔法は使える。ただ、それでやっていけるのは魔力が多い人だけ。
それにこのまま街とかで暮らすなら確かにいらないとは思う。でも、女神の言っていたけど『この世界に行く=暮らす』てことは地球じゃ考えられなかった魔物が生息する世界て、すでに分かってる。なら、持ってても損はないと思う。」
一旦そこで区切ると、少し恥ずかし気にリオは続けた。
「、、、それに、せっかくならあちこち旅してみたいなって。ずっと、家と会社の往復だったし、皆とバカやれるならやりたいなぁと」
「「「「、、、」」」」
思わぬリオの本心に、4人は顔を見合わせる。
「バカやれる、は余計っしょ」
真っ先に口を開いたのは、以外にもノノカだった。
「おれは賛成! いろいろ見て回るの楽しそう!」
「命の危険もあるかもなのに?」
「、、、だからこそ武器を使いこなしたい。それでも死と隣り合わせだろうことは変わらない。
自分自身を守る覚悟がある人だけ、一緒に来てほしいかな。あたしは人の命まで背負えないから」
「、、、ある意味で、潔いくらいに無責任だね」
呆れながらもアンナは可笑しそうに笑った。
「責任感とか苦手なんだもん。来ると決めた時点で、その人の自己責任でしょ?」
「、、、そうね。私らは大人だもんね」
リオとアンナは笑いあう。
「おーい、お2人さーん? おれらもいーれーてー!」
「わたしも行く」
「俺も。仕事から解放されたし、こんなチャンスないしな」
ありがとう、小さく囁かれた言葉を4人は聞こえないフリをした。
「んで、結局武器はどうする?」
脱線した話を戻すように、ヨウスケが発言する。
「あたしはゲームとかでも近接してたし、短剣かな」
「ここはゲームの世界じゃないけどね。私はアーチェリーを部活でやってたし、弓がいいかも」
「おれは魔法使いたいから、定番の杖で!」
「わたしって、何だろ?」
「確かに、テイマーて従魔自体が武器だもんね。とりあえず良さげなのあったら買ってくるよ」
「うん、よろしくね」
「おっけー、全員の把握。俺は剣にする」
即興ではあるが、とりあえず武器はまとまった。
「服も上だけでいいから買いたいかも。身長的に、杏ちゃんと三谷はあたしと同じくらいのサイズだし、天は陽ちゃんより少し小さければ着れるよね?」
「大丈夫」
「一番最初に服屋で沢村さんの羽織を買い取ってもらう。そのお金によってだけど、食べ物と武器を購入かな」
「うん。それでいいと思う」
「おっけー」
リオとヨウスケ主導で話がまとまると、ヨウスケが銀貨を握りしめ、2人は門番の元へ向かっていく。
待機班の3人もその背を見守る。
さぁ、本当の異世界の始まりだ。
***
「『訪れた目的は?』」
リオは忘れていたわけではない。言語が通じないことを、忘れたわけではないが、英語も苦手な人間が異国の言葉に対峙する覚悟なんてない。
後ろではヨウスケが心配そうにリオを見ている。なぜヨウスケより先に進んでしまったのか、数秒前の自分が憎い。
門番は、じっとリオを見つめる。
「(こういう時は何だっけ、、、? 英語の先生が言ってたな、えーとえーと)」
10年前の学生時代を必死に思い出す。リオ本人は英語で返すことが間違いであると気づいていない。
「(だいたい、旅行の目的を聞かれるのが多いって言ってたような? つまり、、、目的てなんだ???)」
後ろでヨウスケが門番に愛想笑いを向けだす。リオは考えを巡らせるのに必死で真顔で門番を見つめている自身を自覚していない。
「(異世界だし、街へ行こうってノリだったし? しいていえば観光? 観光って何ていうんだっけ? えーと確か)、、、観光?」
「、、、さい? しぃんぐ?」
「イエス! サィットシィィング!」
「、、、オハ、シットセェイング?」
「イエスイエス!」
ゴリ押しである。多少発音が雑でも通じればいいのだ。
若干苦笑いされながらも、ヨウスケと連れなのは分かっていたのか、次のヨウスケの審査が終わると、門番は銀貨を受け取り、無事(?)に通された。
振り返り、待機班の3人に手を振る。
振り返す3人まで、なぜ苦笑いしていたのかリオは分からなかった。
「陽ちゃんはなんて答えたの?」
「特には話さなかったかな」
「そっかー。もっと英語の勉強しとくんだったなぁ」
「うん、、、そうだね」
英語ではないと思うな、と勘違いを起こしたままのリオに余計なことは言わない。
実際に何とかなったこと、門番には連れだろうと特に声はかけられず通されたため、リオの活躍に水を差すことはしない。
街の中は外の壁の大きさから考えると、いささか簡素な建物が多く見受けられる印象だ。
木造が目立ち、道は整備されているが外の歩いた道と同じで土がむき出しのまま、そこを人や馬が闊歩している。
少し奥へ進むと、人がどんどん増えていく。
「ひとまず服屋さん見つけよう!」
「といっても、文字読めるかな、、、あ」
「どうかした?」
「あれ、あの看板見て」
何かに反応したヨウスケが指さす方、街の中央と言えるだろうそこには、他より少しだけ大きな建物。
そこにかけられた看板のは、クロスした剣の絵の上に『∀pʌǝuʇnɹǝɹ,s ⅁nᴉlp』の文字。
「、、、読めないね」
「読めないな、、、でもなんでだろ、既視感があるような?」
「思った」
そのとき、建物の出入り口から、武器を持った集団が出てくる。わずかに見えた隙間から、中にもそういった人たちがいることが伺えた。
「冒険者ギルド、かな?」
「冒険者がいる前提ならね」
ヨウスケにより、冒険者の存在がまだ仮定話であることを思い出したリオは、辺りの散策を再開しようと動き出す。
「あ、あのお店の看板に洋服っぽい絵が描いてある! 行ってみよ!」
数分も散策していると、それっぽい雰囲気の看板を見つけたリオはスタスタと進んでいく。
「迷子になるよー」
「ならんわ!」
冗談を言って追いかけてきたヨウスケに言い返して、リオは建物の扉を開ける。
「『ようこそ、何かお探しですか? 』」
「、、、聞いたことあるフレーズあったぞ」
「やっぱり、日本風の『いらっしゃいませ』に近そうだね」
中に入ると、軽快なドアベルの音とともに、可愛らしい女性店員さんの声がかかる。
それに軽く礼をして、店内を見回すと、シンプルな無地の服が所狭しとかけられていた。
「柄とかはないんだね」
「そこまでの技術はないとか? それでもこれだけ似た服があるってことは、量産はされてるのかな?」
「人の手でか機械でか、、、世界観的に科学や機械は発展してなさそうだけど」
「世界観て、、、」
ヨウスケの言葉をスルーしつつさらに店内を見渡すと、店員は女性一人であることが分かった。リオはその女性に近づく。
「エクスキューズミー?」
「イェス?」
「、、、通じてる、よね?」
「多分、、、?」
スムーズに行き過ぎて、思わずヨウスケに確認してします。
このとき、店員は意味が理解できずに確認のため、発言に対する『はい? 何て言いましたか?』の返事だったが、リオとヨウスケは知る由もないので、会話は続いていく。
「売りたいは、buy? 服はfashion?」
「buyは買うだし、服はこの場合clothesかな。売るだからsell these clothesだと思う」
「おお! さすが陽ちゃん天才!」
ここにきて、ヨウスケまでリオに毒されたのか、英語で考え始めた。
「???」
案の定、店員に伝わるわけもなく。
「伝わってないね」
「伝わってないな」
一瞬考え、リオは売る予定の羽織を脱ぎ、アンナが薬草を売ったときのように店員へ差し出す。
「セル、セェル、セール、セルゥル?」
考えうる発音を音に乗せて発してみる。
「、、、セルル?」
「! イエス!」
「、、、沢村さんスゲー」
ヨウスケが思わずというように感嘆の声をもらす。リオ本人は粘り勝ちだと思っていた。
店員はリオから羽織を受け取ると、カウンターに入り、査定を始めた。その間、様子を伺いつつ、2人は購入候補の服はないかと見定めることにした。




