4話 掘り出し物を求めて
5分ほどだろうか、店員に声をかけられ、カウンターに近寄る。
店員は心なしか輝いた目で、丁寧にたたまれた羽織を差し出した。
「『素晴らしい品です! ぜひ買い取らせてください』」
「ものすごい早口だ」
「何も聞き取れん」
余りの勢いに、2人は固まるが。店員は気づかず話を続ける。
「『これほど透けていて薄く、でもしっかりしている生地は見たことないです! こんな店なので多くは出せませんが、最大限の額で買い取らせていただきますので!』」
首を傾げる2人に、店員はカウンターに金色に光るコインを3枚取り出す。
「『もっと出したいのですが、これが当店で出せるベストなんです、、、』」
「、、、ベストって聞こえた気がする」
「だね。これ以上は無理ってことかな。金貨ぽいの3枚だし、相場は分からないけど、ここの服の値段から察するにかなりいい額だと思う」
「ここの服はいくらくらいなの?」
「あのワゴン辺りに積まれた服なら、大体1着が銀貨1枚ぽかった」
「安いの、、、? てか、よく数字読めたね」
「銀貨の絵の横に『1』て縦棒が書いてあったからね。他のは書かれてるっぽかったけど、読めなかった」
「あーね」
こそこそ話す2人に、店員が不安そうに伺っていた。
「あ、えと、イエスイエス!」
リオが笑顔で返すと、店員はホッとした表情に変わり、コインを渡してくる。受け取ると、それをインしているシャツの中に滑らせた。
「なんでそんなところに入れるの?」
リオの奇行にヨウスケが驚く。
「え、だって大金でしょ? スリとかいるかもだし。海外出張多い先輩が、日本人は平和ボケしてて狙われやすいからって対策を教えてくれたから、それの実践」
「えぇ、、、」
「腰巻はないから、代わりにシャツインしてるし。いけるかなって?」
「、、、うん、そっか」
諦めに似た感情になったヨウスケは、それ以上は追及しなかった。
「あのワゴンから、シャツ5着買ってく? 今着てるのは予備にして」
「、、、そうだね。着てる服が高値で売れるくらいには物珍しいてわかったし。買っていこうか」
「おっけー」
2人はワゴンに向かうと、待ち時間中に目星をつけていた服を手に取る。
ズボンは後回しと決めていた為、サイズの合うシャツのみを購入だ。
ふと、リオの視界に布が積まれたカゴが目に入る。下げられた札の意味は分からないが、おそらく使えない布の切れ端だろうと推測できた。
近寄って見てみると、何種類かの無地の布でツギハギされた1つを手に取る。
軽く広げると、確かに、1着を作るには足りないが、そこそこ大きい。
「沢村さーん? 何見てんの?」
ヨウスケがリオの手にする物を上から覗き込む。
「気に入った?」
「うん。でも、買わない」
「買おうよ。沢村さんの服を売ったんだから。これ買うくらいで文句は出ないでしょ。あと野宿用に3枚買いたいし」
1枚の値段は銅貨1枚みたいだし、と付け足して、ヨウスケは先に抱えていたシャツの上にそれをのせる。
さっさとカウンターへ向かってしまい、お金を持っているのが自分だと思い出したリオは慌てて追いかけた。
***
「まさか、布の代金をまけてくれるなんて」
「いい人だった」
あの後、会計を済ませ店を後にした2人は、残り金貨2枚と銀貨5枚を抱え次の目的地を探していた。
購入したのは少し色褪せたようなオフホワイトに近い色のシャツ5枚と、リオ用にツギハギの大判布1枚。布は店主のご厚意によりタダである。 早速、布を袋代わりにと洋服を詰め、それをヨウスケが持っている。
「考えたんだけど、おおよそ武器と防具に金貨1枚と銀貨5枚、食べ物に銀貨5枚を予算にしない?」
「別にいいけど、何で?」
「俺たちまた外に出るだろ? それでまた入るならお金がかかる。そのための貯金」
「あーね、把握。でもさ、3人をこのまま中に呼べないのかな?」
「宿代が不安。だったら入る前に見つけた野宿エリアで過ごした方がいいかなって」
「野宿エリア、、、?」
「うん。三谷も気づいてたっぽいし、3人はそっちいるんじゃないかな?」
「ほう! れん! そうっ!!!」
リオは思わず地団太を踏む。すでに2人はシャツに着替え、入った時ほどは目立たない服装ではあるが、路上で暴れる少女は地味に目立つ。
そんなリオを特に宥めることもなく、ヨウスケは会話を続ける。
「食料は最後でもいい?」
「、、、おっけー。買ったらすぐ戻れた方がいいしね。とりあえず武器屋っと」
「あー、あれかな? 盾と、剣?のマークが描かれてるし」
トラブル防止に街の大通りをさ迷うことしばらく。ヨウスケが発見した看板には、確かにそれっぽい絵が描かれていた。
「時間もそんなにないし、さっさと行っちゃお。陽ちゃん、鑑定よろしくね。あたしの予想があってるなら、ガラクタ武器があって、安く買えるはずだから」
「了解」
またリオが先にドアの前に立ち、意を決して開ける。
ドアベルの音と同時に、金属独特の臭いに一瞬顔をしかめてします。
「『、、、らっしゃい』
、、、ものすごく無愛想そうな男の店員が待ち構えていた。
「(異世界的にはいそうなタイプのおっさんだけどさ、、、)」
今までと違う雰囲気&日本ではなかなか見ない態度の接客のため、会釈がぎこちなくなったのは仕方がないと言い訳しておく。
軽く店内を見渡すと、壁に飾られた様々な武器が目を引く。ただし、見るからに予算オーバーなことが分かる。
目的であろういわゆる『ガラクタ』は、店の一角に山のように積まれていた。見るからにボロボロな物まで積まれていて、素人でもすぐに見つけられた。
板一枚に銀貨の絵が描かれ、横には縦棒と二重の下線が引かれ、おそらく全て銀貨1枚の販売価格だろうことが伺える。
「、、、多いね?」
「あたしもここまであるのは予想外」
一応軽く種類別には分けられているようで、今一度確認する。
「えーと、あたしが短剣で、杏ちゃんが弓と矢。三谷が、、、何だっけ? テイマーの武器」
「天が魔法を使いたいから、杖って話で、俺はとりあえず剣かな。三谷も一応短剣とか買ってく?」
「アバウトだし勿体ないけど、何も持たないよりはいいよね。、、、あとさ」
リオはヨウスケに顔を寄せ、そっと耳打ちした。
「あんまり、鑑定してるって知られない方がいいかも」
「? どうして?」
「一時期、カードゲームのレアが分かる方法って店でスキャンしたり、触りまくるって手法が流行ったじゃん? あんな感じで、売る側としては当たりのみを持ってかれるって不快かなって」
「あー確かに」
「こっちとしては生きること優先したいから、申し訳ないけど」
「、、、いつか、ちゃんとした武器を買いにこよう」
「、、、そうだね」
会話が終わると、ヨウスケは意識を集中させる。
リオは邪魔にならないよう、距離を保ちつつ店員の気配に気を配り、ついでに武器の入れ物や装備品にも目を通す。
「、、、どれも結構傷んでるね。比較的マシそうなのは、コレとコレ、それからコレとコレも」
「結果内容は?」
「『短剣【状態:刃こぼれあり】【特徴:多少切れ味が鋭い】』、
『弓【状態:使い込まれ度”中”】【特徴:少し耐久性あり】』、
『杖【状態:汚れあり】【特徴:軽量】』、
『剣【状態:刃こぼれあり】【特性:少し頑丈】かな」
「やっぱ微妙だねぇ」
「ごめん、、、」
「ん? あ、じゃなくて。ガラクタだしそんなもんだよなって。むしろ見てもらえなかったら刃こぼれしてる中から勘で選ぶしかなかったから、有難いくらいだよ」
鑑定能力の結果を憂いたヨウスケに謝られたと察したリオは、察しつつも謝った意味が分からず首をかしげながらも訂正する。
「あ、あとさ。こんなのがあった」
そう言いながらヨウスケが拾い上げたのは、一冊の薄い本。、、、オタク的な方の薄い本ではない。一瞬リオの脳裏をかすったが、速攻でそんな思考は捨てた。本当に。
「なんそれ? 絵本?」
「『召喚書【状態:中古】【特徴:1体のモンスターを登録できる】』」
「っ!!!」
目を見開いてヨウスケを見つめるリオ。その衝撃を鑑定時にすでに受けていたヨウスケは頷く。
「ノノカには、これだね。召喚書ってことは、呼び出したりもできるかも!」
「、、、ただ、魔導書ってのに比べると召喚書はこれしかない。つまり、値段が高い可能性がある」
「、、、このガラクタ山にあるのに?」
「そこなんだよ、、、」
「あたしの知ってる限り、テイマーが書物に従魔を登録みたいな設定てあんまないんだよね。掘り出し物の可能性がある。、、、ワンチャンに賭けてみない?」
少し面白そうに笑うリオを見て、ヨウスケは確認する。
「ワンチャンて?」
「ここにあるのは全てが推定銀貨1枚。これも例外ではないとして、カウンターに持っていって、銀貨5枚+アンナの矢、、、この矢1束分の計銀貨6枚を先に出す」
「店主もあんまり話す人には見えないもんな。金を先に出したらそのままいける、、、?」
「それに多分、聞き耳立ててる。あたしらが日本語話してるから分からないかもだけど。これ以上はさらに怪しまれると思う。さっさとずらかるのがいいかも」
「ずらかるやめて、、、。でもそうだね。暗くなる前には合流したいし、行こうか」
改めて頷きあうと、鞘などセットであるのでケガの心配はなく、ヨウスケが武器を抱えリオが先導してカウンターへ向かう。
着くと武器を置き、店員に微笑む。さっと金貨1枚を出した。
「あれ、銀貨6枚は?」
「今、銀貨は5枚しかない。、、、シックスシルバーコインズ、オーケー?」
こっちは金額分かってるぞ、と無言の圧をかけている、、、つもりがリオにないがぎこちなさを隠すためにこわばった声は圧を感じなくもない。
しかし、所詮相手は少女の見た目だ。店員のおじさんは何も言わずにお釣りの銀貨4枚を差し出す。
「サンキュー!」
「、、、」
店員は何も返さない。
荷物を分けて持つと、ヨウスケも一礼し、2人は店を後にした。
残すは装備屋で事前にサイズ確認した靴と武器用のベルト。食料品である。
さらに高度を落とした太陽が照らす街の中を、2人は急ぎ足で進んでいった。




