2話 女神へのお願い
「んぐっ、うぅ、、、」
「こ、ここは、、、?」
「目ぇ痛い、、、」
何も分からないまま、1人、また1人とその場から体を起こす。薄暗い空間に5人。
視力が徐々に戻ると、今いる場所が何もないただの“空間”が広がっているのみであると認識する。妙な寒気が背を伝い、無言で顔を見合わせてしまう。
「___お目覚めですか」
突如、何もなかったその“空間”に靄が発生し、人の形を描いていく。
はっきりと輪郭が現れ、それが美しい女性の姿であり、声の主であると理解するのに時間はかからなかった。
「、、、幽霊?」
「空気読んで」
「はい」
思わず漏れた莉緒の呟きに、杏奈から鋭いツッコミが入る。ただし誰も怪しい人物から目をそらさず警戒を怠らない。
「私は幽霊ではなく、とある世界“コロル”を管理し、発展を見守る役目をしている女神です」
「 「 「 「 「、、、」 」 」 」 」
無言で見つめあうこと数秒。
「、、、中二病はご卒業をお勧めします」
「誘拐に飽き足らず、イタイことまで言うか」
「その浮いている態勢どうなってるの?」
「状況的に、ストックホルム症候群とか狙ってます?」
「めっちゃ言うじゃん。ウケる」
ボロクソである。1人が口火を切った瞬間、憐れむ目、呆れた目etcを向けられ、(自称)女神が一瞬たじろぐ。
わざとらしい咳払いをして、黙るよう無言の圧を女神は5人にかける。
女神を見つめる目の色は変わらないものの、無理矢理にでも話題を続ける雰囲気を察知し、5人は口を閉じた。
「あなた方を巻き込んでしまったことは謝罪いたします。そして、ここは私の神域ですので、浮遊など造作もありません」
改めるように一息吐くと、女神は続ける。
「改めまして、この度は、巻き込んでしまい申し訳ありません。
余力の問題で、異なる世界で生きるあなた方を還すことが難しく、、、。
私の管理する世界“コロル”に転移いただくことになりました。
転移先の世界では、本来の体から模倣した肉体に精神を移し、生活していただきます」
「 「 「 「 「、、、」 」 」 」 」
―5人が理解するのに、少しお待ちくださいー
「はぁぁぁ???」
「異世界? 今インフレ起こしてる話題ジャンルのあの異世界???」
「帰れない? 帰れないって何? 明日、仕事なんだけど?」
「異世界キタコレ! とか言ってはみたかったけど、これは、えぇ、、、?」
「本気で言ってます? そんな別世界行くとか」
デジャブ、負けるな女神。やいのやいの言葉が飛び交い、多少喜ばれると想像していた女神は涙目である。誰か助けて。
「えー、異世界行くなら、スキルとか貰えます?」
救いの神がいた。自分も神なのだが、縋るように発言した莉緒の言葉に返答する。
「余力が僅かばかりで、あなた方の転移分を差し引くと、あまり強力スキルは、その、、、」
「えー」
「勝手すぎない?」
「丸腰で行けと」
語尾の萎む女神。完全に悪手に回った。
「まあまあ、一回女神さまの言い分も聞こうよ」
「、、、言い分て」
「異世界あるあるの、薬師は? テイマー職は? 鑑定スキルは? アイテムボックスは???」
「だから聞いてあげて???」
真顔で凝視しされながら詰められ、数秒前には救いを喜んだのに、弄ばれた気分である。悪魔に見える錯覚を起こしそうになり、女神はさらに狼狽える。
「ほ、本当に余力があまり残っていないのです、、、」
「あまり、なら多少はいけますよね?」
「そうだそうだー」
「行かせるなら、くれくれー」
女神の懇願に対して、捲し立てる莉緒と野次をとばすののかと天。
「、、、何か行くこと決定な流れ?」
「え、了承してないよ」
呆れ交じりに3人の背中と正面の女神を見ている杏奈と陽介。
女神と3人のお話し合い(笑)は、耐えかねた女神のやけくそ気味な叫びによって終止符が打たれた。
「つ、つけます! お付けしますからぁ! あっちでステータス見てくださいぃぃぃ! もう、行ってえぇぇぇ」
両手を頭上に振りかざすと、5人の座る床に眩い光の円陣が出現する。段々に複数の円陣が重なり、光の柱が形成される光景は圧巻だ。
「え、ちょっ、誰に何をつけるとか相談なし!?」
「そもそも行くの承諾してなくね!?」
「それなー」
「うわ、酔う酔う、吐くってぇ」
「全然、力が残ってるじゃん、、、」
ふわりと浮き上がる感覚と薄れる意識。足先から光の粒子となって溶けていく5人。
5人の精神体の転送を女神は見送ると、靄が拡散するように消えた。
こうして、また“空間”には何もなくなった。




