あるゲッシーと空腹の学者さん
「いやぁホントに助かったよ! 2人ともありがとう!」
目の前で干し芋を頬張っている青年が言う。もっとゆっくり食べた方が良いと思うんだけど。
あの後エミーさんを落ち着かせて、2人で彼を屋敷に運び込んだ。
お腹空いた、食べ物欲しいを繰り返すので、怪我や病気の心配は無いと判断。
エミーさんはここが怖かったみたいで、しばらく周りをキョロキョロ見回してたけど。
そういえば、ふわふわ飛んでた光の玉はどこ行ったんだろ?
「みんな心配してたんですよ」エミーさんが水のグラスを彼に渡しながら言う。
「まさか餓死しかけてるとは、予想外でしたけど…」彼女の言葉に青年は頭を掻く。
「いやお恥ずかしい、しかし知の探求者としてこれは見逃せないのですよ、うん」何故か自慢げだ。
彼はリープスさん。今回の依頼は彼の無事を確認することなので、一応目的達成なんだけど。
「ギルドへ報告するんで、一応事情を伺ってもいいですか?」私も干し芋を食べながら言う。
「うーん、どこから説明するのが良いのかなぁ…」リープスさんは水を一口飲んで考えている。
「…僕がここに来たのは、この街周辺の生態系の調査だということは話したかな?」
うん、大きい街の学院を卒業して、調査のためにこっちに来たのは聞いた。…聞いた気がする。
「この庭は、街の周辺で採集した植物を観察のために育てているんだよ」
リーブスさんは手を大きく広げ、愛しげに庭を指し示す。
お屋敷は古いけど、庭は不釣り合いに広い。庭いじりが趣味のご隠居か建てたんだろうか。
確かに色んな植物が元気に育ってるけど、どう見ても雑草のジャングルである。
「そこに! 君たちが採集してきたあの蝶だよ!」蝶の名前を言われたけど、長すぎて聞き取れない。
「10匹もいれば、この庭で繁殖して生態の観察が出来る! と思ったんだけど…」
「何か問題でもあったんですか? モグモグ」ほぼ興味は無いのだが、一応聞いてみる。
「うん、それ」リープスさんが私たちの背後を指さす。
振り向くと、エミーさんの後ろにさっきの光の玉がふわふわ浮いていた。
「ひゃぅぅ」彼女が飛び上がって私の背後に隠れる。…隠れられて無いけど。
「気づいたらそれが蝶に混じっていてね」分厚い辞典のような本をめくりながら言うリープスさん。
「とりあえず逃げる様子は無いんだけど、目を離したら消えちゃいそうだし」
一人暮らしだからギルドに連絡も出来ないし、食べ物も買いに行けなかったと。
「エミー君何か知らない? それ多分妖精だよ」重そうな本を持ち上げて挿絵を見せる。
「へ? これが、妖精…」エミーさんは私の背後から光の玉を見つめる。
「おばあちゃんが寝る前にお話してくれた程度の知識しか無いけど…」
エミーさんは考え込む。そういえば資料室で、エルフは妖精の1種族って説を読んだ気がする。
「とりあえず意思疎通は…無理っぽいですか」何か言いたそうな気はするんだけどな。
「そうなんだよ!もう気になって何も手につかない!」言いつつ干し芋を頬張っている。
「えーと、おばあちゃんのお話だと…」エミーさんは記憶をたどりながら呟く。
「妖精がお話ししたいときは、秘密の調合をした鱗粉を相手に振りかけるとか…」
その時、私たちの周りをふわふわ漂っていた玉から、銀色の粉のようなものが振り撒かれた。
「そうそうこんな感じの…ええ?!?」
きらきらと光る銀の粉は、粉雪のようにゆっくりと舞いながら空気に溶けていった。
「わぁ…」あっけにとられていたリープスさんと私は、エミーさんの声で我に返る。
大人の手のひらくらいの女性が、エミーさんの周りを飛んでいる。ふわふわと舞っているようだ。
彼女の飛んだ後には、先ほどの鱗粉がかすかな軌跡を描き、同じように空気に溶けていく。
「素敵…おばあちゃんのお話や絵本と同じ! 妖精さん可愛らしいなぁ…」
エミーさんは感極まれりという感じで、両手で口を覆って立ち尽くしている。
…ん? 絵本と同じ…? ちょっと待って、エミーさんと私で見てるもの違う気がするんだけど。
木の葉で作ったミニスカドレスを着た、小太りのおばちゃん…いやご婦人だよね?
え、どういうこと? なんかこっち睨んでるんですけど?
わ、こっち来た! これ逃げた方が良い? ちょっと待って、頼むから落ち着いてー!!




