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あるゲッシーの異世界ひとり旅  作者: Kengoh


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18/20

あるゲッシーの街歩き


雨上がりの街を、エミーさんと並んで歩く。


仕事に向かう人々の喧騒が一段落し、穏やかな賑わいに移っているようだ。



まだ雲の流れが早いが、雲間からの覗く日差しは優しい。


夕べの雨のおかげで、空気も爽やかだ。耳に当たる風が心地良い。



ここは街の中心に近いので、道は綺麗な石畳で舗装されている。


水はけも良いので、自然に歩みも軽くなる。



「思ったよりも緑が多いんですね、モグモグ」


屋台で買った干し果物を頬張りながら、エミーさんに話しかける。



「この町の設立メンバーに、エルフが1人入ってたのよ」エミーさんが答える。


「その人と、仲のよかったドワーフの意見でたくさん植樹されたんだって」



ただ、植えられたのはお酒の香り付けやおツマミになる実の木ばかりだったそうだ。


「後で大喧嘩になったって聞いてるわ」エミーさんはクスクスと笑う。



うん、自分の欲望に正直なところ嫌いじゃないけど、相談は大事だよね。


よい香りのする屋台に気を取られていると、エミーさんが私の袋から干し果物をつまむ。



「ああ! 最後の干しぶどうが! エミーさん酷い…」


「なっ!? さっき私のナッツを半分以上食べたじゃない!」



道の真ん中で騒いでいると、見かねた屋台のおばちゃんが仲裁に入る。


「ほらほら、仲良くしんさい。これあげっから」細切りの干し芋を2個づつくれた。



「モグモグ、ありがとう綺麗なお姉さん」


「お礼は食べる前に言うべきでしょ! 後お姉さんって…」エミーさんは呆れているようだ。



おばちゃんはガハハと笑って屋台に戻っていく。他の屋台の人も笑ってるんですけど。


しかしこれ美味しいなぁ…ほのかな甘みもそうだけど歯ごたえが癖になりそう。



私はくるんと向きを変えると、おば…お姉さんの屋台へ向かう。


大きいのと中くらいの袋の干し芋を買う。いや、さすがに一人では食べませんよ?



大きい袋を開け、エミーさんに勧めながら再び歩き出す。もう1つの袋は背中のバックへ。


…エミーさん、今3本取ったでしょ。彼女の二つ名は、食いしん坊エルフ娘で決定ですね。



「失礼なことを考えてるのがありありと分かる顔だわ…」エミーさんがため息をつく。


「あー、それよりもコープスさんのお家ってどのあたりなんですか?」私は華麗に話をそらす。



「…リープスさんね」エミーさんは訂正した後、今歩いている道の先を指さす。


「ギルドから貰った案内だと、ここを真っ直ぐなんだけど…住宅街の外れね」



ギルド勤務にしては遠い場所に住んでるみたい。嘱託だから他に仕事があるのかな?


なんかよく分からないとこがあるんだよな、リープスさんって。残念イケメンってやつ?



歩いていると屋台が少なくなってくる。この辺りから住宅街なのかな。


道は舗装が無くなって、歩いているのは女性や子供がメインになってくる。



目をキラキラさせた子供たちと犬っぽい生き物が追いかけてくるんだけど。怖い。


せっかく整えた毛並みをかき回されてヨダレまみれにされる未来が見えたので、全力で逃走を計る。



小さなビーストたちは振り切ったけど、住宅街の外れで赤ちゃんを抱いたお母さんたちに捕獲された。


抵抗虚しく数人の赤ちゃんに耳をもみくちゃにされる。ヨダレが付かなかっただけ良いか…



「ごめんねぇ、お店に来てくれたらご馳走するわ。もうすぐマレットの季節だから」


マレットって何?!旬の食べ物?もう少し詳しく!ちょっとエミーさん離して!



「これじゃ何時になっても着かないでしょ」エミーさんは私を肩に担ぐ。


ちょっとだけ、せめてお店の名前だけでも、ついでに前後逆に担ぐのは止めて。



足をバタバタさせるが、エミーさんには効果が無いようだ。無念。


とりあえずマレットのことは後で情報収集しようと心に誓う。



だんだん私の扱いが雑になってるよなぁ、と思っていると目的地周辺に着いた。


住宅街の外れと言うより町外れっぽいんですけど。木材とか石材なんかが積んであるし。



「多分ここね、他に住居らしい建物は見当たらないし…」


エミーさんは周囲を確認した後、ゆっくりと私を下ろしてくれた。



私は目の前の門を見上げる。なかなか上品なお屋敷…だったんだろうな、うん。


小さいのは仕方ないとして、あまり手入れはされてないみたいだよね。まぁ寂れた感じ。



子供の肝試しに丁度いいかな、と思っていたら窓で何かが動いた。


ほんの一瞬だったけど、明らかに虫ではない光るモノが窓の内側でふわふわ浮いていた。



エミーさんの顔を見上げると、完全に表情が固まっている。


「エミーさん、今…」「見てない、何も見てないわ」食い気味に否定してくる。



あー、エミーさんこういうの苦手だったのね。でも依頼だし、とりあえず私だけでも入って…


「エミーさん、ちょっと手を離してもらえます?」私の服をすごい力で握ってるんですけど。



「…えーと、一旦帰りましょうか」一応提案してみる。


「いえ、依頼、だから、大丈夫、だし」全然大丈夫に見えないんですけど。



困ったな、と思っていたらギィ…という鈍い音が聞こえた。振り向くとドアが少し開いている。


「ヒッ、ヒグゥ…」エミーさん、そこ首! 息できないから力抜いて!



続けてバタン!とドアが開くと、乱れた頭髪の男性が中から倒れ出てきた。


ゆっくりと顔を上げながらこちらに視線を向けてくる。鬼気迫る表情で。



「あ、ううあ…」地の底から響くような声。何かを訴えるような、嘆くような声、彼は言う。


「…何か、食べるもの、持ってない…?」



耳元で響くエミーさんの悲鳴を聞きながら、干し芋を大袋で買って正解だった、と思う私なのであった。




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