あるゲッシーと受付のお姉さん
「もう、いい加減に起きなさいっ」
思わずテーブルから顔を上げると、両方の頬をつままれる。「いひゃひゃ」
「部屋まで行ったのになかなか出てこないし、歩けばフラフラしてるし…」
エミーさんちょっと怒ってるみたい、素直に謝ろう、だから離して。
「まぁまぁ落ち着いて。はい、青ポムルの果実水です、目が覚めますよ」
マリベルさんがピッチャーの乗ったトレイを持って来てくれる。ヘルプミー。
ここはおなじみの食堂である。朝の混雑が一段落したくらいかな。
受付から呼び出しがあったので、エミーさんと待ち合わせをしたんだけど…
昨夜は係長さんから貰ったリングを調べてたので、少しだけ寝不足なのよね。
いや隠し機能はすぐ見つけましたよ?それが予想外だったのでちょっと興奮しちゃって。
「5杯くらい入れちゃう?」、「さすがにそれは飲めないんじゃ…」
2人がスプーンを前にして何か相談しているが、全然頭に入ってこない。
早くちゃんとしないとマズイよねぇ、私でも飲めそうなのは小さいカップかな。
手に取ってひと息に飲み干す。「えっ?!」、「きゃっ、ちょっと…」
「…ふぁ!!?」 酸っぱ!なんだこれ?!わぁこれ原液だ!
全部飲んじゃったよ!うわダメだこれ!
エミーさんが慌てて水のグラスを渡してくる。ゴクゴクと飲み干した。
落ち着いたけど、頬の内側がまだ酸っぱい。お水もう一杯ください…
「スゴイ顔になってるわよ…」エミーさんは呆れ顔だ。
「びっくりしました、ご無事で何よりです」マリベルさんはクスクス笑っている。
「うう…」両手で口を押さえる。なんかお腹も変な感じがする。
「目が覚めて良かったじゃない」エミーさんは笑っている。
「朝食はどうします?今朝はやめておきますか?」マリベルさんが聞いてくる。
「あ、朝定食大盛りでお願いします。後、今朝のお薦めデザートは何ですか?」
「そこはいつも通りなのね…胃袋どうなっているのかしら? 謎だわ…」
なんですか、人をお化けみたいに。そんなこと言うと、食後のクッキーあげませんよ?
結局2人とも朝定食大盛りを頼み、ワイワイ言いながら朝食を済ませた。
朝からたくさん食べてるのは、エミーさんも一緒なんだけどな。
賢明なゲッシーである私は、そんなことは口にしないのだった。
「で、受付の用件って何でしょうね」エミーさんと廊下を歩きながら考える。
研修で採取した品物の精算、というのが妥当なとこなんだけど。普通なら。
「特別高価とか希少なものは無いのよね…、なんで3日もかかったのかしら」
エミーさんも分からないようだ。ちゃんと精算してくれるなら構わないんですけど。
2人でうーんと悩んでいると、受付のあるフロアに着いた。
賑やかだ。今日も皆さん元気にお仕事に励んでいますね。
窓口はみんな混んでるなぁ、じゃあ1番奥のあそこに行きましょ。
「やっぱりそっちに行くのね…まぁいいんだけど」エミーさん微妙に嫌そう?
私は1つだけ空いている窓口に向かう。「シュナさん、こんにちはー」
受付の女性が微笑みながら小さく手を振っている。
いつもお世話になっている受付のシュナさんだ。
ほっそりしているが背は高めで、いつも優しげに微笑んでいる。
何か分からないことがあると、シュナさんに聞きに行くことが多いのよね。
一生懸命に優しく教えてくれるので、ホントありがたい。
こんなに親切な人なのに、なんでみんな他の受付さんに行くのかしら?
後、彼女だけ腰にレイピア差してるんだよね、何か意味あるのかな?
私はカウンターに両手をかけ、背伸びをしてシュナさんに挨拶する。
「受付に来るよう言われたんですけど、シュナさんの窓口でいいですか?」
「はい、大丈夫ですよ。お待ちしていました」
シュナさんは微笑むと、机の上の書類を引き寄せる。
「はい、お待たせして申し訳ありません、研修で採取した品物の清算です」
こちらは金額の明細です、と書類を渡してくる。
「おお、かなり高額で買取されてる…」予想した金額よりかなり高い。
「例の蝶がこんな高額に…、こんなの見たことないわ」エミーさんも首を傾げている。
「それに関係してギルドからお二人に依頼がありまして…」シュナさんため息をついてる。
「リーブスさんはご存知ですか?ギルドの委託職員の」
リーブスさんは王都の学院を卒業してこの街に来た学者さんだ。
街周辺の動植物の調査をメインに、ギルドの委託職員としても活動している。
普段は眠そうな顔のお兄さんだけど、興味を引くことに対して人が変わるんだよなぁ。
ゲッシーって何!?僕知らない!とか言って、2日くらい付きまとわれたっけ…はぁ。
「彼は借りてる屋敷の庭を、植物園みたいにしちゃってるんです」シュナさんが続ける。
「あの蝶を見て、これなら繁殖できる!ヒャッホウ!とか言い出して…」
財布ごとお金をを置いて、蝶を全部持って帰っちゃったと。依頼品に何してるんでしょ。
それ以来ギルドに来てないから、私とエミーさんに見てきて欲しいんだって。
私はエミーさんを見る。「そうね、ちょっと心配だし行きましょう」
シュナさんはほっとしたようだ。「ありがとうございます、今書類をご用意しますね」
シュナさんが用意してくれた、報酬清算とクエスト受注の書類にサインをする。
…なんか視線を感じる。顔をあげるとシュナさんと目が合った。
「ごめんなさい、その…耳がピコピコして…可愛いなあって…」
頬を染めてうつむくシュナさんも可愛いですよ?でも斜め後ろから冒険者さんの会話が…
「相変わらずちっちゃい長耳は命知らずだな…『女王蜂』と普通に会話してるし…」
「命知らずはお前だバカ、声を落とせ、俺を巻き込むんじゃねぇ」
顔を上げるとシュナさんは変わらず微笑んでいる。
笑顔がほんの少し硬いようなのは気のせいだろうか?
「女王蜂って王都で揉め事起こしてギルド半壊させたって噂が…」
「やめろ、もうその口を閉じろ、それとちょっと俺から離れろ」
はい、書類書き終わりました。シュナさん確認お願いしますね。
なんか寒くなってきたな?ゾクっとしたんだけど風邪でもひいたかしら?
「そうだ、ペナルティでギルドの仕事を押し付けられたって聞いた…」
「わぁやめろ!このバカ!俺を巻き込むなって言ってんだろがぁ!!」
ゆらり、とシュナさんが立ち上がるのと、エミーさんが私を抱え上げるのがほぼ同時。
「じゃ、じゃあさっそく行ってきます!」エミーさんは私を抱えて猛ダッシュ。
背後で物凄い破壊音と、男女の悲鳴みたいな声が聞こえる。
「お前ら!あたしの唯一の癒しの時間を!嫌われたらどうしてくれんだぁ!!」
「振り向いちゃダメよ、耳も閉じときなさい」
エミーさんは今まで見たことないスピードで走り続けている。
えーと、私もう帰ってお昼寝したいんですけど…ダメ?
もう一回食堂で朝食でも…ああ、はい、ダメですよね。




