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4、吸血姫と天才皇太子の再会①

第4話です。ミハエル陛下のキャラ崩壊シーンがあります。ご注意下さいまし。

前回の訪問から、1ヶ月後。


俺はまた、トライトン王国の正門に立っていた。


シルヴィア王女の見舞いという名目で、だ。


そして目の前には深く頭を下げるミハエル陛下。


その彼と、俺は今………言葉での、激しい攻防を繰り広げていた。


「えーーと、ミハエル陛下……。貴方の言い分はよく分かりました。なのでその、頭を上げ」

「いいいいいいいいえ殿下ッッッッッ!!先程も申し上げました通りで御座います!!もう、もう私は、これ以上頭を上げる事が出来ませぬッッッッッ!!!」

「うん分かった!分かったから!その、完全には上げなくても良いから!ただその、あと50cmは頭を上げようか!それ以上やったら腰壊すぞ!!??」


冗談抜きで、馬車から降りてまだ1回もミハエル陛下と目が合っていない。


体を極限まで折り畳み、つむじが地面につきそうな程頭を下げているから、だ。


どんな体操をすればそこまで体が柔らかくなるのか聞いてみたい、と俺は本気で思った。


「先月は殿下に愚妹の大変見苦しい姿をお見せした挙句応急処置まで施して頂き、更に本日は見舞いに遥々アルデンブルクから!もうッ、もう私は殿下を直視する事さえおこがましく感じる次第でありますッッッッッ!!!」

「うんもうそれ死ぬ程聞いたから!今日に限らず手紙でもうんざりする程聞いたから!もう良いんだミハエル陛下!とりあえず今は俺を見よう!?な!?」


そんなやり取りを続けて約小一時間。


ようやくミハエル陛下の顔が見えた。


「有難う御座います殿下…。殿下の心遣い、痛み入ります…。しかしっ…」


やっと話が進みそうだ、と思ったら、ミハエル陛下の言葉が止まった。


目を泳がせ、唇を噛み締めて、何かを堪えているように見えた。


「しかし、何だ?」

「っその……。シルヴィアが……」


妙に歯切れが悪い。


いつもハキハキしているミハエル陛下らしくない物言いだった。


察した俺は、先にそれを告げた。


「…シルヴィア王女が、俺を拒んでいるんだな?」

「っ…………」


ミハエル陛下はより強く唇を噛み締め、俯いて黙り込んだ。


「沈黙は肯定、と捉えて良いんだな?」

「…サミュエル皇太子殿下への大変な侮辱だとは、重々承知しております…。我々も説得を試みたのですが、愚妹の意思が非常に強く…」


ごにょごにょと口籠るミハエル陛下。


すると、ミハエル陛下の背後から、呆れたような溜め息と共に赤髪の美女が出てきた。


彼女はゆったりと淑女の礼をとり、声を発した。


「サミュエル皇太子殿下、お久しぶりで御座います。トライトン王国第1王女、ラディアナ・トライトンと申します。私から兄に変わりまして発言させて頂いても宜しいでしょうか」

「…ああ、発言を許そう」

「有難う御座います」


ラディアナと名乗った赤髪の美女は姿勢を正し、真っ直ぐに俺を見据えた。


トライトン王国の国民特有の、赤い瞳がきらりと輝く。


「ラディアナ」…。と言うことは、彼女が以前ミハエル陛下が呼んでいた「ラナ」だろうか。


なるほど、何となく双子の区別がついてきたかも知れない。


はつらつそうな雰囲気で、髪を高い位置でひとつに結んでいるのが、ラディアナ王女。


大人しそうな雰囲気で、髪を編み込んで纏めているのが、もう一方のレディアナ王女。


レディアナ王女はシルヴィア王女に付き添っているのか、この場には居なかった。


「ラディアナ」がを「ラナ」ならば、「レディアナ」は「レナ」なのだろうな。


そんな事を考えていると、ラディアナ王女が話し始めた。


「殿下、不敬を承知で申し上げます。シルヴィは、貴方様と会うくらいならまた舌を噛む、と申しておりました。それ程までにシルヴィは殿下を拒絶しております。私どもと致しましても、シルヴィに無理はして欲しくありません」


淡々と、感情を表に出さず語るラディアナ王女。


言葉の節々から、妹に対する愛と、俺に対する嫌悪が感じられた。


無意識ではなく、わざとそのように話しているのだろう。


「殿下、不敬罪で私を訴えても構いません。ですので、本日はお帰り下さい。そして金輪際、シルヴィアには関わらないで下さいませ」

「………っ………!!」


その途端、項垂れていたミハエル陛下がラディアナ王女の肩を掴んだ。


「ラナ、お前…!申し訳ありません殿下、またまた大変な失礼を」


そして彼は振り向きざまにに軽く頭を下げ、今度は強い決意の籠った目で俺を見た。


「我が愚妹達の度重なる不敬、申す言葉も御座いません。処分は如何様にも。但し監督不行届として、私を訴えて下さいませ。若気の至りとして、どうか妹達だけは許してあげて下さい」

「お兄さまっ…!?」


今度はラディアナ王女が声を荒げる番である。


しかしミハエル陛下が彼女の口を片手で塞ぎ、それを遮る。



「サミュエル皇太子殿下。お帰り願えますか」




それは、大切な物を守るときの、男の目だった。




俺は一瞬考えた後、ふうと溜め息を吐き、肩をすくめた。


「…本人が嫌がっているのなら、仕方がないな。ミハエル陛下、ラディアナ王女、罪には問わないよ。

君達の家族愛は本当に美しいね」


にこりと笑ってみせると、2人はぽかんと口を開けてフリーズした。


「でも、困ったな。花束も構えて来ているし、何より今日はシルヴィア王女の声を聞きたいと思って来たんだ。このまま帰るのは皇太子として頂けないな」


デヴィッドを人差し指でくいと呼び寄せ、豪奢な花束を見せつけるように持って来させる。


「そうだ、会えなくて良い。せめて扉の前で1分、声だけ聞かせてくれないか?1分したら帰るよ」


さも今思いついたかのように、俺がそう提案する。


すると2人はアイコンタクトを交わし、何やらヒソヒソと話し始めた。


…さあ、吉と出るか、凶と出るか。


俺が固唾を飲んで見守っていると、暫くして、ラディアナ王女が前に出て来た。


「本当に、扉を隔てて、1分で宜しいのですね?」

「ええ、構いません」


……それだけあれば、充分です。


俺がまた微笑みを浮かべそう返すと、ラディアナ王女は値踏みするように俺をじっくり眺め、そしてこう言った。


「…シルヴィに伝えて参ります。殿下は兄と共にお越し下さいませ」


そして軽く礼をして踵を返し、入れ替わりざまにミハエル陛下が俺の前に出て来た。


「殿下の寛容な御心、深く尊敬致します。さ、此方へ」


そして俺は、ようやっとトライトン王城に足を踏み入れた。





暫く歩くと、ある大きな扉の前にラディアナ王女が立っていた。


「殿下、此処がシルヴィアの部屋に御座います」


ミハエル陛下はそう言った後、すっと後ろに下がった。


ラディアナ王女も声を潜め、俺に言う。


「シルヴィはまだ寝たきりの状態で、ベッドの上におります。声が聞き取りづらいかも知れませんが、御容赦下さいませ」

「ああ、有難う」


ラディアナ王女も礼をとり、ミハエル陛下に倣ってすっと後ろに下がる。


そして俺はひとり、細かな装飾が施された上品な扉の前に佇んだ。


慣れた手付きで、扉を3回ノックする。


「……はい」


中から、か細い、小鳥のような声が聞こえた。


「シルヴィア王女、サミュエルです。お加減はいかがですか?」

「…ええ、まだ熱が上がったり下がったりしていますが、今は平気です」


栄養失調が響いているのか、身体へのダメージが大きかったらしい。


声は警戒の色を示しているが、しんどさを滲み出させてはいなかった。


「そうですか、それは良かったです。……俺は何か、気に触る事をしましたか?」

「………っいえ…」


シルヴィア王女の声が、そこで途切れた。


「…シルヴィア王女」


俺が呼び掛けても、返事はない。


「殿下、そろそろ…」


後ろから半ば強引にミハエル陛下に肩を引かれ、俺はタイムリミットを悟った。


そして、少し大きめの声で扉に向かって言う。




「…今日は、傷口は隠していますよ」




俺がそう言った途端、部屋の中から、がたん、と言う音が聞こえた。


「シルヴィ……っ!?」


それと同時に、恐らくレディアナ王女であろう声も聞こえた。


辺りは静寂に包まれる。




長い長い沈黙の後、暫くして、シルヴィア王女の部屋の扉が、ゆっくりと開いた。


「………っ!?」


ミハエル陛下が、驚いたような声を上げる。


扉を開けたのは、思った通りレディアナ王女だった。


「……サミュエル皇太子殿下だけ、中にお入り願えますかと、シルヴィが…」

「…シルヴィ…!?」


ラディアナ王女が焦ったように部屋の中を覗き込む。


「…どうぞ殿下、中へ」


レディアナ王女は部屋から出て、ラディアナ王女の横に並んだ。


肩を掴んでいたミハエル陛下の手が、すっと外される。


周りは皆、目を白黒させていた。


……多分この中で状況を理解しているのは、俺とデヴィッドくらいなのだろうな。




そして俺は、薄く開いた扉の隙間から部屋に入り、ぱたんと扉を閉めた。




薄暗い室内のベッドの上で、黒髪赤目の人形のような少女が此方を睨んでいた。



お気づきだとは思いますが、ミハエル、ラディアナ、レディアナの兄妹はシスコンです。それも結構ヤバめのヤツです。

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