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幼馴染を助ける為、異世界を行く  作者: 秋葉月
第2章 城塞都市編
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第2章 23.反撃

 


「それで?話は終わったのか?」


 背を合わせ、青年へと向き直すヒロトとマルクス。その二人の様子を見て、青年は面倒くさそうに言葉を放った。

 二人の様子から返答の内容は自明であろうに、わざわざ問いかける辺り二人に何の興味も持っていないということが伝わってくる。


 ヒロトとマルクスはお互いに目を合わせ、無言で頷きあう。

 そしてその後ヒロトが一気に青年との距離を詰めるべく、駆け出した。


「そうか、では二人とも死ね」


 そのヒロトの行動を交渉の決裂の証と受け取った青年は、特に驚く様子もなく再び殺気を放ち始める。先程のヒロトが体感したものよりも数段冷たく、鋭く、重い殺気。今までのはただの威嚇であったと言わんばかりの圧力だった。


 だがそれを全身に浴びてなお、ヒロトの歩みは一度も止まらなかった。


 そのヒロトの行動に青年の動きが一瞬鈍る。だがすぐさま気を取り直し、ヒロトへと攻撃を叩き込もうとする。狙いはちょこまかと動き回る脚。そこを削ぎ落とそうと狙いを定めて。

 しかし、その攻撃がヒロトの脚を襲う事はなかった。


「ヒロト、跳べ!!」


 攻撃がヒロトの脚へと喰らいつく前に、ヒロトは宙へと飛び上がった。結果、獲物を喰らうはずだった牙は空を砕き、その威力を落としていく。


 攻撃、それが見破られた原因。それに青年は思案し、そしてすぐに結論をはじき出す。

 攻撃よりも一瞬早くヒロトへと出された指示。それの発信者へと視線を移す。


「そうか、奴がいたか。まったく、森人族エルフはつくづく厄介だな」


 恨めしく呟いている言葉とは反対に、青年の声音には歓喜の感情が滲み出していた。その証拠に青年の口角は若干上がっており、そこから負の感情を読み取る事はできない。


「いいだろう、面白くなってきた。俺の名はアスタ。多少、本気を出してやろう」


 青年——アスタは高らかに笑う。能面の様な、生気も表情もなかったその顔に初めて血が巡る。


 張り詰める緊張の糸と立ち込める土煙、狂気的な笑いが戦場に響き渡る。



 ◆



 これはヒロトとマルクスがアスタへと攻撃を始める少し前の話。

 マルクスがヒロトを庇った際に受けた負傷の正体について、二人が考えを巡らせていた。


「あいつと戦うにしても、あの謎の攻撃を理解しねぇと手も足も出せねぇぞ」


 少なくとも二人で一緒に逃げ出すという選択肢はヒロトにはなかった。

 アスタの攻撃方法とその条件、範囲等ヒロト達が持ち得ない情報が多くあり、安易に背を向け逃げ出す事はそれこそ自殺行為である。少なくとも射程距離は知っていたかった。


 それに、深手を負っているマルクスの事もヒロトが逃げ出せずにいる原因の一つでもある。

 たとえアスタの攻撃方法が分かっていたとしても、脚に重傷と呼んでも過言ではない傷を負ったマルクスが逃れることは難しいであろう。


 ヒロトはそう考えながら、チラリと負傷したマルクスの脚を見る。

 布で硬く縛られた負傷部は今は血が止まっているが、実際にはかなり深いはずである。皮膚を少し切った、程度には見えなかった。何か大きな刃物で切りつけられた、そんな感じだ。


「ああ、それにしては俺に一つ心当たりがある」


 深刻にアスタの攻撃方法について考えるヒロトを置いて、マルクスはあっさりと言い放つ。

 ヒロトはその言葉のあまりの軽さに一瞬反応が遅れてしまった。


「え?分かってるのか?……分かってんの!?」


「驚きすぎだろ……いいか?俺が考えるに、奴の攻撃方法は『風』の魔術だ。『風』なら目には見えないし、それに俺の足の切り傷にも納得がいく」


「そ、そうか魔術か。そうだな、確かにそれなら納得だ。よし、魔術なら大丈夫だ。いこう」


 マルクスの考えをゆっくりと呑み込み理解したヒロト。

 状況が状況だったので少し焦っていたが、確かに魔術なら何が起きていても合点がいく。むしろ何故、魔術という考えに辿り着かなかったのか、ヒロト自身意味不明だった。


 だが、魔術ならばヒロトにとっても都合が良かった。ヒロトにはウルスラグナから与えられた『魔力眼』があったからだ。魔術ならば魔力が確かにそこに存在する筈で、そしてヒロトの右目に宿る『魔力眼』はごく少量の魔力であっても可視化する事ができる。

 不可視の風魔術であろうとも、その法則は変わらない。


「ちょい待ち」


 意気揚々とアスタへと挑みにいこうとしたヒロトの肩を、マルクスががっしりと掴む。前に進もうとしていた身体は肩を中心としてその場に固定され、ヒロトのバランスが後方へと傾く。


「な、何すんだよ」


「話はまだ終わっちゃいねぇよ。……お前、あの『奥の手』とやらを使うつもりだろ。いいか、今はまだそれは使うな。その『奥の手』とやらは()()()()()が致命的すぎる。特に今のような状況じゃあ、致命的だ」


 マルクスの指摘にヒロトはぐうの音も出せずにいた。

 確かに『魔力眼』は強力ではある。しかしその副作用はかなり重たいものとなっている。

 普段ならまだしも、今の状況ではかなりまずい事になるのは自明だった。


「じ、じゃあどうすんだ?俺、奥の手がなかったら勝てるとは思えない」


「チッチッチ、ヒロトさんよぉ忘れてもらっちゃ困る。ここに優秀な『風』の魔術使いがいるじゃあないか」


 立てた指を左右に振り舌を鳴らした後、意気揚々とマルクスは親指で自信を指し示す。

 その毛を逆撫でるかのような動きと話し方、それに付け加えて腹立たしい表情に、ヒロトは少しイラッとしてしまった。しかしここはその感情を抑えるべき場面であり、ヒロトもそれは重々承知していた。

 普段ならば脇腹を小突くような状況だったが、ヒロトは冷静にマルクスに次の言葉を促す。


「つまりだ、たとえ目に見えない風魔術であろうとも俺には分かるってコ・ト・さ」


 風魔術を扱う時に一番重要な事、それは風を読む事である。数分前にマルクス自身が言っていた事だ。

 もし相手が本当に風魔術を使っているのだとしたら、それによって起こる空気の乱れでマルクスは攻撃の方向や数が分かるのかもしれない。


「よし、分かった。じゃあ俺が突っ込むからお前は俺に指示を出してくれ」


「アイアイサー」


 実際はどうなのか分からない。本当に風魔術なのかどうかすらヒロトには分からない。しかしヒロトには分からない以上、マルクさの考えにのる他選択肢はなかった。


「頼んだぞ、信じてるからな」


 一抹の不安を払い除けるため、ヒロトはそう呟く。

 ゆっくりと立ち上がり、アスタの方へ向き直す。立ち込める殺意の気配。獣の如き威圧感。その小さな姿から発せられる圧倒的な圧が、ヒロトの決意を揺らがせる。


 だが今は背に信頼を置く仲間がいる。そしてここで負けられぬ理由もある。その二つがヒロトの背を後押しする。

 絶対に生きて帰ると約した彼女にもう一度会うために、ヒロトは戦場へ駆け出した。



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