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幼馴染を助ける為、異世界を行く  作者: 秋葉月
第2章 城塞都市編
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第2章 21.危機

 


 更地と化した城壁跡。そこに人影ができている事にヒロトは気づく。

 あまりの違和感。一瞬自身の目を疑い、その存在を見なかった事にしようとした程、その人影はヒロトの目に映る光景とはズレていた。


 堅牢な城壁すらも粉々に、完膚なきまでに破壊しその痕跡すらも残らないような異様な破壊。その中心点から現れる人影。

 その存在を認めた時、ヒロトは本能でその危機を察知する。


 しかし体が全く微動だにしない。蛇に睨まれたカエルのように、ただ食われるだけの獲物のように立っているだけで精一杯だった。

 緊張からか全身からは気持ちの悪い脂汗が滲み出て、歯が噛み合わなくなる。カチカチとなる歯の隙間から小さな呼吸が漏れ出て行く。


 そうしてヒロトがただの案山子のように立ち尽くしている最中、人影はゆっくりとヒロトの方へと向き直る。

 ヒロトとその人影の距離は決して近いとは言い切れないものだ。百メートル程はある。この距離ではヒロトからは、その顔を除くことはできていない。

 だがそれでも目が合っている、そう感じてしまう。


 一歩一歩、人影が宏人へ近づき始める。ゆっくりと濡れたタオルで首を絞められるように、着実に生命の危機が迫っていると本能が警鐘を鳴らすも、脚は動かない。


 しかし動かない身体と正反対に、ヒロトの頭は思考を止めていなかった。


 先の城壁の崩壊。それに目の前の人影が関わっていない可能性があるとは、ヒロトには考えられなかった。

 人影は崩壊に関わっている、これは確実であろう。どのようにしてあれほどの破壊を起こしたのか、それも気にはなる。だが最優先ではない。


 一番は何故、だ。何の目的で城壁を破壊したのか。これが今間近に迫っている危機に対処するのに、最も需要な事柄だ。

 そこさえ知ることが出来れば、ヒロトが危機から脱するための糸口が分かるかもしれない。


 だが時は残酷なものである。ヒロトが思考を巡らせている間に、例の人影は近づき着実にヒロトとの距離を縮めている。

 朧げだった人影の輪郭がはっきりしだし、徐々にその風貌が明らかになる。


 その人影は男だった。年は正確には分からないが、恐らく二十程の青年。

 伸び惚けた栗色の髪の毛。整えられていないであろうその前髪が、目元を隠している。

 特別整っているとは言えない顔立ち。街にいれば十人の内一人、二人が振り返る程度のどこにでもいる顔。だがそこには生気が宿っておらず不気味さを感じさせている。

 体格は並。特別大きくも小さくもない普通の身体。身につけた貫頭衣が彼の身体の厚さを物語っている。


 外見だけで言えば、戦闘経験のない村人という事になるだろう。服から覗く腕や脚、胸板の筋肉は戦いの中で身につけたものではなかった。

 だがその佇まいからは猛獣の風格を感じる。腹を空かせた獅子の如き獰猛さと威圧感。その不具合さが何とも不気味であった。


「……お前、何か違うな……」


 突如としてその男は進めていた脚を止め、不思議そうにそう呟く。傾げた首によって前髪が傾いた事で、そこに隠されていた瞳が顕になった。

 輝きが無かった。そこに当然あるはずの命の輝きが、そこには無かった。死人の目、そう形容するのが一番正しい、そうヒロトは想う。


「違ったか?いや、そんな筈は……」


 突然の男の発言の意図に対して疑問が絶えない宏人を置き去りに、男はブツブツと独り言を始める。

 その時、ヒロトは自身に降り注いでいた圧が消えたと感じた。恐らくは目の前の男の意識から、ヒロトが外れたからだろう。


「なぁ、アンタは何者なんだ?」


 恐らくは油断。今まで張り詰めていた空気が緩和した影響で、ヒロトの警戒心が少し弛んだが故の発言。

 一度男の意識下から除外された、という安堵が生んだ軽薄さ。

 油断と軽薄、その二つがヒロトを再び死地へと追いやる。


「お前……まぁいいか、間違っていようが関係ない」


「だから、何を——ッ!?」


 ヒロトの発言、それに応えるように男の意識がヒロトへ集中し、重くのしかかる。

 呼吸すらままならないほどの圧。全身の毛穴が開き、汗が流れ出る。


 重度のプレッシャーに動けずにいるヒロトに対して、男はゆっくりと右腕を上げていき、その掌をヒロトへと向ける。

 何かが来る、そうヒロトは思うも脚が動かない。


 この危機を乗り越えるために、できることは何か。動かない身体の代わりにヒロトは思考を回転させる。

 だがどうやっても、解決策が思い浮かばない。

 最終手段の『魔力眼』ですら、現状ではどうしようもなくなってしまった。


 自身に迫っているであろう一番の危機、『死』にヒロトはただただ後悔の念しかなかった。


 あれほど息巻いて外に出て、何もできずに死ぬのか。何一つ彼女の為にできていなかった。

 浮かれていたのもある。異世界に来て調子にも乗っていたのだろう。自分のことを知らぬこの世界の住人と、楽しくやっていたのは事実だった。


 後悔と自責。その二つがヒロトの脳内を駆け巡り、そして最後にあったのは謝罪だった。


「麻希、ごめ——」


「ヒロトォッ!!」


 森でヒロトの帰りを待つ幼馴染。その名を呟き、ヒロトが謝罪の言葉を出しかけた瞬間。

 今までどこにいたのか分からなかった、金髪の森人族エルフ——マルクスが動けなかったヒロトの体を吹き飛ばす。


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