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幼馴染を助ける為、異世界を行く  作者: 秋葉月
第2章 城塞都市編
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第2章 18.書庫

 


 小雨の降る道を歩くいておよそ10分。ヒロトとメリダはベイルートの冒険者ギルドへと辿り着いていた。

 開いていた傘を閉じ、黒塗りの大扉をゆっくりと開く。


 中には何組かのパーティーが、掲示板の前に立ち依頼を探していた。雨の影響だろうか、普段なら多くの冒険者達で賑わっているであろうこの時間帯でも人が少なかった。

 ヒロト達は服についた水滴をパッパッと払って中へと入る。大扉が音を立てて閉じた。

 そして掲示板の前を素通りし、カウンターへと足を進める。


「本日はどういったご用件で?」


 金髪の受付嬢が柔らかな声音で淀みなく問いかける。マニュアル通りの問いかけだ。


「書庫に入りたい。ランクはDだ」


「畏まりました。ではこちらの水晶に手をかざしてください」


 ヒロトは手に持っていたカードを受付嬢に手渡した。受付嬢はそれを手に取ると、台に置かれた水晶の真下へと置く。

 このカードは昨日の昇級試験後に貰った物だ。自身のランクを表す物らしく、カードの中央には刻まれたDの文字が見える。


 水晶は、ヒロトが街へ入るためにプレートを作った時に使ったものと同じであるようだった。ヒロトが手をかざして魔力を流し込むと水晶がチカチカと光った。

 それを見た受付嬢はカードをヒロトへと返した。


「確認しました。Dランクの書庫ですね、今用意します」


 受付嬢はそう言って奥へと引っ込んでいく。そして一分もしないうちに帰ってきた。

 手には少し古臭い銅色の鍵が一つ。それを宏人へと手渡してくる。


「書庫は左手をまっすぐ行って曲がった所にあります。手前からDランク、Cランクとなっています。書庫内のものは全て閲覧可能ですが、持ち出しは禁止されています。また中の物を破損させた場合は冒険者資格の剥奪、弁償となっていますので注意してください」


 受付嬢の説明に対してヒロトは首を縦に振った。そして指し示された書庫の方へと足を進める。

 自身の隣のカウンターではメリダが同じように書庫の鍵を受け取っているところだった。彼女の鍵はヒロトの持つ無骨な鍵とは違い、控えめだが持ち手の部分に装飾が施されていた。


 ヒロトはメリダの受付が終わるのを少し待ち、一緒に書庫へと向かう。

 書庫へと向かう廊下はカウンターの隣の一本道で、ギルドの顔である受付とは違い若干の古臭さがあった。踏み鳴らされて厚みのない絨毯に、踏みしめるたびにギシギシとなる床、廊下を灯している灯りは小さく、薄暗いしんとした空気を醸し出している。


 そんな一本道を少し歩き、入って一番手前にある扉の前でヒロトは立ち止まる。メリダの目当てである書庫はもう少し先の所にあるため、彼女とはここで別れることとなった。

 ヒロトはドアノブの下にあった鍵穴へと手に持った鍵を差し込み、回す。ガチャリと音が鳴り、ドアノブが抵抗なく回った。


 そのままゆっくりと体重をかけて扉を開いていく。その隙間から生暖かい空気が流れてくる。

 書庫の中は少し埃臭かった。恐らく、あまり手入れはされていないのだろう。その証拠に扉に一番近い本棚を見てみると、そこにはうっすらと埃が溜まっていた。


 足を踏み入れるとふわりと足元の埃が舞い上がった。だが、ヒロトはそんなことお構いなしに中へと入り込む。

 部屋の中に規則正しく配置された本棚と比べ、その棚に収められている本の数々は杜撰な保管がされているようで、表紙に書かれている筈のタイトルが掠れて読めないものばかりだった。


 だが、それらも今のヒロトにとっては気を配る価値すらない。何故なら、こここそが今のヒロトの目指していた場所なのだから。



 冒険者ギルドに所属する冒険者にはギルドから多くの恩恵を受けることができる。その最たる例が依頼の斡旋だ。民衆から集めてきた依頼を冒険者たちへ斡旋し、彼らの明日を生きる糧とする。その代わり、冒険者達は依頼を受ける前に報酬の何割かをギルドへと支払う。これが冒険者ギルドの基礎的な仕組みである。


 そしてもう一つ、冒険者が受けることのできる恩恵がある。それが今ヒロトのいる『書庫』と呼ばれるものだ。そこにはギルドの保有する情報が収められており、ある条件下でそれらを閲覧することができるようになる。

 その条件こそ、先日の試験で上げたランクと呼ばれるものである。


 冒険者のランクはE,D,C,B,A,Sの6段階に分けられており、それに応じて受けられる恩恵の度合いが定められている。

 そして、『書庫』を使用できるのはDランクからなのだ。勿論、ランクが上がればより情報の質や量が上がる。

 そのことをヒロトは冒険者登録をする際に確認していた。マキを助ける手がかりを少しでも見つけるためにこれを利用しない手はなかったのだ。

 昨晩、パーティーの皆に今日を休日にしたいと申し出たのも、この書庫があったからであった。



 ヒロトは本棚から内容の分からない本を一つ取り出してパラパラとめくる。中に書かれていたのはこの都市の基本的な構造と、周辺の地理の情報。正直、期待していた情報ではなかったが、ヒロトがまだ持っていなかったモノもある。

 ヒロトは未だにこの世界のことがよく分かっていない。その理由として、ウルスラグナの持っていた本に書かれていたのは、魔力の運用方法と様々な種類の魔術だけだったからだ。


 ヒロトはヨシと呟き、持っていた本を棚に戻し新たな本を手に取る。

 今まであまり進展していなかった手がかりの捜索にようやく入れる。その実感がヒロトの胸を熱くしていた。



 ◆



「何を見てたの?」


 時が経ち、雨が止んだ影響かぞろぞろと増えてくるギルドの食堂の一角で、ヒロトとメリダは共に食事を摂っていた。

 ヒロトがスプーンを片手に米のようなものを炒めた料理を口に運んでいると、メリダが話しかけてきた。

 その問いかけに、ヒロトは口の中のものを水で流し込み答える。


「色々、だな。めぼしいものはなかったけど、それでも得られるものはあった。そっちは?」


「私は魔術とかかな。あとは薬とか」


 指を顎に当て宙を眺めながら思い出すようにメリダがそう話す。


「どんなのがあるんだ?」


「そうだね。確か傷を治す薬とか、失った魔力を回復する薬とか---」


 一瞬、耳を疑った。そしてその内容を自分の中で噛み砕いたその瞬間、ヒロトは無意識のうちに立ち上がっていた。

 手をテーブルにつき、大きな音を立てて椅子が倒れる。その音につられていくつかの視線がヒロト達に集まる。

 だがヒロトにそこまで周りに注意を配る余裕はなかった。


『失った魔力を回復する薬』。それは今のヒロトにとって十分興味を惹く話題であった。それさえ手に入れば、マキを助けられるかもしれない。

 現状ウルスラグナからの魔力補給に頼るマキは、自身とは異なる魔力波長によってその身を蝕まれている。それ故にマキは思うように生きることが出来ない。しかしその薬さえあればその状況も良い方向へ向かう筈だ。


「えっと、どうしたの?」


 急に立ち上がったヒロトと、周囲の視線に戸惑いながらもメリダが話しかけてくる。

 手が泳ぎ、声が若干震えながらも彼女はヒロトを見ていた。


 その姿を見たヒロトは急に我に帰り、いそいそと倒してしまった椅子を戻し席につく。その一連の流れを見てヒロト達に注目していた他の冒険者達も、興味を失ったように元に戻っていった。

 静けさが失われ喧騒が取り戻されていく中、ヒロトは恥ずかしそうに咳払いを一つする。


「その薬の話をもっとしてくれないか?」


「えっと、『魔力を回復する薬』?良いけど---」


 そう言ってメリダは話し始める。

 普通、全ての生き物は魔力を宿している。そして、その魔力を生み出しているのが『魂』というものらしい。その『魂』が日夜生命活動に必要な魔力を作り出していると。


 だが魔力は無から生み出されるわけではない。つまり、『魂』で魔力を作るためには何処かからその源となるものを取り込まなければならない、と言うことだ。

 そしてその源を摂取するために食事や呼吸をするらしい。呼吸によって大気中の魔素を取り込んだり、食事によって他の生物の魔力を補給し、それを分解して『魔素』というものへと変換して自身と同じ波長の魔力へと変換して出力する。それが『魂』の役割らしい。


 そしてその他の生物からの魔力を分解する工程を踏まずに、直接『魔素』を取り込めるようにするものがその『魔力を回復する薬』なのだとか。

『魔力』がタンパク質、『魔素』がアミノ酸ってところだろうか。いや、吸収が良くなるという点で言えばデンプンとかの方が近いだろうが、その辺はヒロトにとってはどうでもよかった。


「え、ダメ、だった……?」


「いや、大丈夫だ」


 メリダがおどおどとヒロトへと話しかける。その理由は単純明快、メリダの話を聞いたヒロトが明らかに落ち込んでいたからだ。

 その理由は単純だ。マキにその薬は意味がないと分かったからだ。ウルスラグナが言うには、マキの症状の原因はその魔力を生み出す魂にあるとのことだ。魂の魔力を生み出す機能が壊れている、だから自身では賄えず他者に頼るしかない、そうだった筈だ。


 だから取り込みやすくし、すぐに魔力へと変換できるようにするという薬の効果は無いに等しいだろう。

 だがそれでも試してみる価値はありそうだ。ウルスラグナが試していない筈がないが。


「その薬って買えるのか?」


「た、確かこの近くに売ってる薬屋さんがあったかな?金貨十枚位だけど」


「金貨十枚か……」


 ヒロトは腰に差した財布を手に取り、中身を見る。中には銅貨が六枚に銀貨が十枚。この世界では銅貨十枚で銀貨一枚、銀貨二十枚で金貨一枚なので単純に金が足りなかった。


「メリダは作れないのか?」


「無理だよ。職人さんでも作れるようになるには十年くらいかかるらしいし」


「そうか……」


 可能性は低かったものの、やっと見つけた手がかりだ。失うのは惜しかった。だが、手に入らないものを嘆いても仕方がない。そのうち買えるようになったら買おう、その程度でヒロトはその薬について結論を出した。



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