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幼馴染を助ける為、異世界を行く  作者: 秋葉月
第2章 城塞都市編
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第2章 16.観戦

 


 Dランクの試験が終了した。

 無論、ヴィルヘルムの圧勝だ。

 彼は一回戦から一度も動かず勝利した。

 当たり前だろう。なにせ予備動作もなく攻撃をしてくるのだから。


 例えば地面に手を触れたり、剣を振り上げるなどの攻撃の一手前の行動が見えていれば、また詠唱が聞こえていれば、避ける事は可能だ。


 だがヴィルヘルムのアレは違う。

 素でも攻撃の速度や精度、タイミングなどが他と一線を凌駕しているのだ。それに加えていつ襲ってくるか分からない攻撃だ。勝てる訳が無い。


 恐らくは目線などにもフェイントをかけているのだろう。攻撃の予測はほぼ無理だと考えるしか無い。だとすれば、攻撃の後に見切るぐらいだろうが、後の先を取ったとしても勝てるビジョンが思いつかなかった。


 と、宏人が思考を巡らせている間に試合の準備が整ったようで、試合開始のアナウンスが会場に流れた。そのアナウンスに宏人は我に帰る。


 どうやらCランクの試合が始まるようだ。リングの上には薄茶色のローブと帽子を被り、両手に身長の三分の二を占めるほどの大きな杖を持った少女と、軽い革の鎧を見に纏い短剣を二本腰に挿している長身で金髪の青年が互いに見合っている。

 サイズ的には大人と中学生程の差がある。だが、少女の方は魔法使いなので体格差はあまり関係はないだろう。


 試合開始のベルが鳴り、即座にリングが色鮮やかに輝いた。少女の魔法だ。赤い光や白い光など自然にはあり得ない人工的な魔法の輝きが会場を明るく照らす。

 それを青年は短剣を構え少女へと近付きながら躱していく。煌々と燃える火の玉を掻い潜り、盛り上がる地面を短剣で逸らしながら少女の懐まで潜り込む。そして逆手に持った短剣で少女の持つ大杖を狙った一撃を放った。


 その衝撃に少女は耐え切った。両の手で大杖を離すものかとしっかりと握り込んでいる。だがその代償は大きかった。短剣の一撃で少女の軽い身体は一瞬体勢を崩してしまったのだ。そしてその一瞬を見逃さない程青年は甘くなかったようだ。

 少女のガラ空きの喉元へともう一本の短剣を突きつける。少女は一瞬身体を硬直させ、そしてすぐに負けを悟ったのか握っていた大杖を手放し両の手を上に掲げた。その後すぐに試合終了のベルが鳴る。


 リングで行われたド派手で色鮮やかな戦いに、観客席は大いに沸き立った。先程のヴィルヘルムの圧勝という地味な戦いよりも、これほど派手な戦いの方が戦いとは無縁の人々にも分かりやすく盛り上がるのだろう。


 数週間前まで自分もあの中にいたのだと考えると、何処か不思議な気持ちになる。今ではこちらの生活に慣れてきたのか、戦う事に対してなんの躊躇いもなくなってきていた。

 こちらに来た初めの頃は元の世界とのギャップに戸惑っていたのだが。


 そして観客の興奮が冷めぬ内に次の試合の準備が行われている。今回の出場者は、


「おっ、ルヴィクじゃん。んじゃ、いっちょあたしらも応援するかぁ」


「だね。緊張してなかったらいいけど」


 アンとメリダが話している通り今回の試合はルヴィクが出ている。対する相手はルヴィクと同じ軽装の戦士のようだ。腰の長剣に背負う革の盾まで同じである。装備が同じなら単純に実力が出やすい戦いになる筈だ。

 ただし、


「単純な実力ならルヴィクは弱い方だからなぁ」


 宏人はそう呟いた。隣に座るマルクスは否定もせずただ首を縦に振る。

 ルヴィクが今のランク、Cランクの中でも弱い部類にいる事はパーティ全員が分かっている。ルヴィクの強みは単独での実力ではなく、大勢の中で発揮されるからだ。

 冒険者のパーティのリーダーは基本実力で決まる。それに則って考えると、パーティのリーダーはアンになる筈だ。次点でマルクスだろうか。少なくともルヴィクがリーダーになる事は基本ありえない。


 だがそれでもルヴィクには二人とは異なる、彼をリーダーとさせるものがあった。それは彼の眼だ。

 彼は特別何かを見る眼を持っていた。それは天候や地形、武器や生物などの様々なものから、ありとあらゆる情報を引きずり出す。それは彼自身の生来の才能だった。

 だからこそ彼はそれを活かせるような立ち位置に着き、そしてそれを成しているのだ。


「それで、マルクスさん的にはどういったお考えをお持ちで?」


 宏人は軽口めいた口調でマルクスに問いかける。

 実際疑問であったのだ。単純な実力に劣るルヴィクが試合を勝ち抜けるのかどうかは。


 マルクスはそんな宏人の疑問を聞き、そして数秒唸り


「多分この試合はルヴィクが勝つと思う。でも……」


 と、マルクスは語尾を濁らせる。

 その言い方に一同は気の抜けた笑みが漏れるだけだった。



 ◆



 幾度か深呼吸を繰り返し、体内の空気を全て入れ替える。腰に挿してある剣の柄を、何度か握り直し感覚を研ぎ澄ませる。


 そうしてルヴィクは、観客席で見守っているであろう仲間たちの事ではなく、目の前の対戦相手から目を離さず常に観察していた。

 自身の実力が劣っている事は、ルヴィクも重々承知の上だ。だがそれでも、単純な実力の差によって結果の決まりやすい今回の試験を受けた原因となったのは、自身のパーティに新しく入った青年だった。



 彼と出会ったのはとある森の中、とある依頼によって訪れたその時だった。

 初めは警戒もした。Cランクの魔獣を難なく倒してしまう程の実力者だ。当然パーティのリーダーたる自分が警戒しなくて誰がするのだというのか。


 だが、そんな警戒もあっさりと解けることになった。それはその青年の眼が理由だった。

 何処か不思議な感じがしたのだ。

 今まで出会った人間の中でも特別おかしな感覚。一度も体験した事ないその感覚と雰囲気に一時はより警戒を強めたが、直感で悪い人ではないと分かった。


 それから青年と森を出て街へと戻るまで共に過ごした。仲間と共に戦い、話し、笑い、しかし決して彼は自身のことについて何も話さない。

 幾度か話を振ることもあった。しかしいつも彼は小さく笑い、はぐらかす。

 何処かふざけた印象を持たれるような態度だったが、その動きと身体には確かに努力の積み重ねの結果が滲み出ていた。


 そしてルヴィクは、その青年のチグハグでひたむきな姿にかつての自身を重ねてしまったのだ。

 幼く無力でありつつも、友であるあの三人を守ると決意した自身の姿を。


 ルヴィクは軽く頭を振るう。

 それは余計な雑念を振り払う為に行われる、戦闘前の彼のルーティンだった。

 静かに息を吐き、そして普段と同じように左手の盾を構え試合開始の合図をまつルヴィク。そんな彼と同じように相手の青年が背負っていた特大の木刀を構える。


 静寂は一瞬。会場に響き渡る打撃の音と共に二人の戦士は互いに距離を詰め始めた。



 

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