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幼馴染を助ける為、異世界を行く  作者: 秋葉月
第2章 城塞都市編
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第2章 15.試験

 


 青く澄んだ空に、燦々と輝く太陽が地上を明るく照らしている。

 季節外れの燃えるような熱気が、大気を伝わって道を行く人々の肌を焦がした。


 そしてここ王都ベイルートの一角に、天に昇る太陽に負けずとも劣らない程の熱気に包まれた場所があった。

 煉瓦造りの壁が円を描き、その中では無数の観客席に座る市民の姿と、中心部には石造りのリングが見ることができる。

 ベイルートの中心街にある冒険者ギルド、その真後ろに位置する円形闘技場コロッセオだ。


 中に入ると、観客達の熱気とそして気迫に押されることは間違いないだろう。

 何故、これほどの熱気に円形闘技場コロッセオが包まれているのか。それはこの日、冒険者達の進級試験がこの場所で行われるからだ。


 日々戦いに明け暮れる冒険者の進級試験は危険なものが多い。そんな試験に臨む冒険者たちの姿は娯楽の少ないこの世界で、ある程度の人気を誇っていた。それこそ、高い入場料を払ってでも観たいという人間が現れるのは当然として、入場料を払えない者達が円形闘技場の外に屯し、その場の雰囲気と歓声だけでも味わいたいという程だ。


 そのような理由で、円形闘技場の中は無数の人間で埋め尽くされていた。観客席だけでなく、通路にまで人々が溢れている為圧迫感が凄いが、それでも観たいと考える人間が多いのだろう。

 そして、その人々が徐々に落ち着いて来た頃。タイミングを見計らっていたかのように、一人の女性の声が円形闘技場中に響き渡った。



 ◆



 円形闘技場内の控え室は、試験を受ける予定の冒険者達で埋め尽くされていた。

 そして、その中に宏人達の姿を確認することができた。


「昨日は休めましたか?」


 ベンチに座り武器の調子を確認しながら、ルヴィクが宏人にそう尋ねた。普段と同じ様子だったが、手が小刻みに震えている。ルヴィクも気が立って落ち着かないのだろう。普段通りいようと努めているようだった。


「ああ、大丈夫だ。問題ない」


 宏人達は一昨日受けた小鬼ゴブリン達の討伐の後、一日の休息を置きこの進級試験に臨んでいた。

 その休日は、この日に疲労を残さない為に用意されたものだったが、長く時間が取れたおかげで宏人の心に生まれたものを一区切りつけることができた。


 一昨日宏人が感じたあの焦り。原因は間違いなく麻希の事だと考えていた。

 麻希を助ける為に残る時間は十年。短いとは言えないが、決して長い時間ではない。

 その間に冒険者などやっていて良いのか、それが正しい選択なのか宏人には分からなくなったのだ。


 だが正しい選択など今の時点では分からない。もしかすればこれが最善なのかも知れないし、最悪手なのかも知れない。それが分かるのはそれこそ神だけだ。


 だからこそ、今はただ冒険者として力をつけることを選んだ。今はまだ最低ランクのEだが、より上位のランクになればそれこそ機密情報や、一般に知られていない情報を得られる可能性がある。それに、受けられる依頼も重要度の高いものになるだろう。そうすれば、麻希を助けられる手段を見つけることが出来るかもしれない。

 ならば、今は自分の選択したこの道を正しいと信じて突き進むしかないだろう。

 そう、宏人は決意したのだ。


 宏人はこれから行われる試験に向け、より意識を向ける。ルヴィクの隣に腰掛け、この場に来る前に支給された長剣の調子を確かめる。

 この試験では全ての参加者を平等にするために、武器は己の物ではなくギルドから支給されたものに限られている。武器による優劣を抑えるためだ。


 だからこそ、普段使っている長剣に慣れている宏人からすれば、長剣の調子を確かめるのは必須事項となっている。柄の太さに重心の位置、刃の長さなどを幾度か振ることで体に覚えさせる。

 だが支給されたのは木剣だった。これならば、ウルスラグナとの修行で何度も扱っていたのですぐに慣れることが出来るだろう。


 宏人が気を落ち着かせるために息を吐いた。そして隣に座るルヴィクを見ると、こちらも左手に装着した円盾の重さや大きさ、剣の調子を確かめていた。

 そしてあることに気づく。


「そう言えば、他の連中は?」


「アイツらなら、今回は参加しないみたいですよ。まだ自分に自信がないみたいで」


「そうか、アンはBだっけ?そこまでいけば強い奴らしかいないもんな。メリダは分かるが、マルクスはどうしたんだ」


「今回の試験の内容、それを見て棄権したそうです。今回の内容は、マルクスにとっては苦手な部類に入るので」


 そう言われ、宏人は今回の試験の内容を思い出す。確かに、マルクスには相性が悪そうだった。


「確かにな。アイツはこういうのは苦手、というか分が悪いよなぁ。アイツの武器は初見殺しだしな」


「はい、そうですね。前の試験は、ギルドの捕獲していた魔獣を討伐してその合計を競うものだったので、みんなで協力できたんですが、流石にこれは」


「分が悪いなぁ」


 そう言って二人でくつくつと笑う。

 見るともうルヴィクの手は震えていなかった。良い気分転換になったようだった。

 宏人も自分の心の荒波が、幾分か落ち着いた気がする。


『さあ、いよいよ開幕の時が近づいてきました。冒険者達の進級試験!今回の試験では、どれ程の冒険者が次なるステージに踏み込めるのか!司会進行は冒険者ギルドベイルート支部副長レベッカがお送りします!』


 ふと入場口の方からそんな声が聞こえてきた。どうやらいよいよ始まるらしい。

 控え室にいた冒険者達が次々に立ち上がる。鎧や武器同士が擦れ合い、甲高い音があちこちから聞こえてきた。

 それを受け、宏人も立ち上がる。ルヴィクが立ったのが見なくても分かった。


「よし、いっちょ暴れてやるか」


「そうですね。見てるアイツらに恥を晒さないようにしないとですね」


 宏人が己の前で拳を付き合わせ、気分を高めるためにそう吼える。そしてそれにルヴィクが軽く相槌を打った。

 二人とも、いつもの調子に戻った様だった。


『それでは初めに今回試験に臨む冒険者たちを入場させましょう!』


 その言葉を皮切りに、控え室にいた冒険者たちが少しずつ闘技場へと出ていった。



 控え室を出て闘技場内へと足を踏み入れると、上部から降り注ぐ歓声に思わず耳を塞いでしまう。後ろを歩くルヴィクも、宏人と同様に耳を塞いでいた。


「控え室からでも分かってたけど、想像以上にうるさいな」


「ヒロトさんなんて言いましたー?」


「あー、なんて?聞こえねぇぞー?」


 歓声のせいでうまく二人の間で意思疎通ができない。声は聞こえているのだが、その中から単語を拾うことは不可能だった。

 二人は言葉を交わすことを諦め、前方――観客席から突き出した解説席というべき場――を見る。そこにはひとりの女性がいた。薄い金髪が腰辺りまで伸びており、日に焼けた健康的な肌色にとてもよく映えている。右手で魔道具――声を周囲に拡散するもの――を握り締め、キョロキョロと周囲を見回していた。


 宏人が見たことのない人物だった。一瞬、誰だろうという疑問が浮かぶが、それは前方にいる人物が話し出したことで解決した。


『さて、これが今回試験に臨む冒険者達です!』


 その声は、控え室からでも聞こえていた。冒険者ギルドベイルート支部の副長レベッカだろう。普段使うギルドだからと言って、副長クラスにもなると会う機会はなかなか無いものだ。だからこそ宏人には誰だか分からなかったのだ。


 レベッカは魔道具を持つ右手を口元に近づけ、そして空いている左手で宏人達冒険者を指し示す。

 たったそれだけの事だったが、観客達は沸き立った。


『それでは今回の試験の内容を発表します!今回は同ランクの冒険者同士でバトルトーナメントを行い、上位四位の者達が一つ上のランクへと昇ることができます!』


 レベッカの話した内容は、事前に告知されていた試験内容と一致していた。宏人は一週間前に配布された進級試験のチラシを思い出し、改めてルールを確認する。


 ・今試験で使用する武器はギルド側から支給されるものを使う事。

 ・トーナメントの組み合わせは当日に決定する。

 ・試合では武器だけではなく魔法の使用も許可される。

 ・相手に致命的な一撃を与える又は相手が降参する事で勝利する。


 重要なのはこの位だろう。宏人がルールを思い出していると、レベッカも同じ内容を話していた。どうやら宏人の脳内メモは正確らしい。宏人は安堵の息を漏らした。


 取り敢えずは、優勝する必要はない事が一番嬉しかった。上位四位ならばまだ余裕がある。無論負ける訳にはいかないが、それでも一人だけと四人ならば精神的余裕があるのは後者だろう。

 そう考えると自然と肩の力が抜けるのを宏人は感じた。


 そしてレベッカによる試験内容の復習も終わり、いよいよトーナメントの組み分けが始まった。

 それぞれのランクに分かれ、箱の中から一枚の紙を取り出す。その番号で相手が決まっていくようだった。


 幸運なことに宏人はほぼ中間、第三試合に当たったようだった。一回戦が第八試合まであるので、ここで勝てば少し休憩ができる。

 一回戦の相手をチラリと見ると相手もこちらを見ていたのか目が合った。だがすぐに目を逸らされてしまった。体の震えが凄い。顔も青白く、目が泳いでいた。緊張のせいだろう。

 宏人は思った。



 ――勝った、と



 ◆



 試験は初めにEランクのものから始まった。恐らく高ランクの試合になればなるほど白熱したものになるためだろう。徐々にテンションを上げていくのだ。


 そんな訳で、Eランクの試合は案外あっさりと終わってしまった。勿論、宏人の圧勝だ。

 むしろ、Cランクの魔獣を倒せる宏人に勝てるEランクはなかなかいないだろう。控え室でのあの緊張は何だと言わんばかりの圧勝ぶりで、本気を出さずして宏人は優勝してしまった。


 トーナメントも終わり、する事もなくなってしまった宏人は次のランクのトーナメントを観ることにした。その為には観客席にいるであろう、仲間を見つけなければならない。


 だがそれは至難の業だ。携帯端末などがある現代日本ではごく簡単な事でも、この世界では連絡手段がない為自力で探し出す必要がある。それも通路にまで溢れかえっている観客達の間を縫って、だ。


 今日は幸運にも探し始めて十分程で目当ての三人を見つけ出せた。宏人は三人に近づき、そして白髪の森人族エルフの肩に腕を乗せた。


「ん?ああヒロトか。凄かったな、圧勝だったぞ!」


「お疲れさん。ま、そこまで疲れてないと思うけどね」


「優勝、おめでとうございます。カッコよかった、です」


 三人ーーマルクス、アン、メリダが次々に祝いの言葉を宏人に投げかけた。それに宏人は少し苦笑しながらも手をあげる事で応える。


 メリダが宏人を座らせる為に少し横に移動した。その僅かな隙間に宏人は腰掛ける。先程までそこに座っていたからか、仄かな体温がズボンを通して伝わってきた。


「それで?誰か強い奴はいたか?」


 宏人は三人にそう問いかけた。宏人がここまで来る間に行われたDランクの試合の様子を聴いたのだ。

 その問いに対する答えは、全員が首を横に振る事で得られる。

 普段はともかく、戦闘に関しては天才的なものを見せるマルクスですらいないと断言したのだ。ならば今までには本当にいなかったのだろう。


 宏人はそうか、と小さく呟くと眼下で行われている試合に目を向けた。魔術師と戦士の試合だ。

 魔術師が杖を振りかざすと空中から氷の礫が現れ一直線に飛び出した。それを戦士が横に飛ぶ事で避ける。そしてその反動を利用して戦士が一歩前へおどり出る。

 だがそれを魔術師は許さない。すぐさま杖を地面へとつけ、地面から全身が埋まる程の高さの壁を伸ばし、戦士の突進を防いだ。

 一進一退の試合だった。


 宏人目線から言えば、魔術師が不利に思えたのだが、それは間違っていたようだ。確かに前衛がいない魔術師は多少不利だろうが、それを覆せる程の実力を持っていたようだ。

 やはり、多彩な攻撃ができるのは有利なのだろう。


 そう思い、宏人はメリダを見た。彼女は今戦っている魔術師など比べ物にならない程、魔術師として優れている。今の彼女と戦って、宏人は勝てるだろうか。

 断言できる。勝てると。


 だがそれはメリダの手の内を知っているからだ。得意な属性や苦手な属性、魔力量に使用頻度の高い魔法、呼吸の間など、戦っていくうちに彼女の事は知識として自然と頭の中に叩き込まれていく。だが、もし知らない状態で戦えば、負けるかもしれない。

 それだけ、多彩な攻撃ができるのは武器になるのだ。


「魔法、か……」


 宏人はポツリと呟いた。宏人の使用できる魔法は未だ〈身体強化〉ただ一つ。

 何度かメリダに教わったが、〈身体強化〉以外に使うことはできなかった。

 内の魔力は制御出来るようになったので、後は外の魔力を制御するだけなのだが、それがうまくいっていなかったのだ。


 そしてその呟きを聞いていたメリダが、目を輝かせずいっ、と顔を近づけてきた。


「魔法、やりますか!?」


 彼女は魔法のことになると、このようにテンションがおかしくなるのだ。以前、森からでる最中に魔法を少し教わったが、その時もこんな様子だったのだ。


「わ、分かった分かった。また、前みたいに教えてくれ。それと、顔近い、デス」


「あ、し、失礼しました……」


「あ、いや別に嫌って訳じゃ無いんだけど」


「なになに、宏人あんた顔赤いよ」


 段々と近づいてくるメリダに、慌ててストップを出した宏人は、無意識のうちに呼吸が止まっていたらしく、大きく呼吸をした。

 メリダも顔を赤くし、俯きながら謝罪の言葉を捻り出していた。

 そして、その二人の様子を見ていたアンがニヤニヤしながら茶化してきた。

 唯一マルクスだけは試合を見ていて、気づいていない様子だった。


 そしてその後、暫くの間アンの冷やかしを宏人とメリダが聞いていると突如、マルクスが声をあげた。


「あ、アイツ、強い」


 その言葉に宏人達三人は意識を試合に向けなおした。先ほどまでのお気楽ムードは一変し、今は冷ややかな氷のような目つきへと全員が変わっていた。


「誰だ、マルクス」


「あれ、あの髪の長い男戦士だよ。名前は、ヴィルヘルム」


「どれぐらい強い?」


「まだよく分かんないけど、多分アンより強いと思う」


「マジかよ。私以上ってことは、Aランクてことか?」


「いや、多分それ以上」


「マジ!?Sランクかよ!?英雄の領域じゃねぇの」


「まああくまでも推測だけど」


 それでも十分すげぇよ、というアンの呟きが横から聞こえた気がした。だが宏人はそんなことに構っている余裕はなかった。


 マルクスの指した髪の長い男戦士。名前はヴィルヘルムだったか。彼の放つ異様な空気に息が詰まってしまったのだ。

 何もおかしなところはない。夜空の如き黒髪を後頭部で纏め、支給された木剣に皮鎧を見にまとっている。顔は至って平凡で、装備の隙間から覗く身体はそれほど引き締まってはいない。そこらにいるDランクの冒険者と変わらない格好だ。だが、それでも彼から放たれるオーラに言葉を失った。


 宏人は知っている。これ程のオーラを身に纏っていた人物を。だ。

 対戦相手の戦士を見れば、足が震えている。当然だ、宏人だって奴の前に立てばそうなるに決まっている。寧ろこの時点で棄権しているだろう。だが彼は葛藤しているようだった。


 そして無慈悲にも開戦のゴングが鳴らされる。戦士は意を決したのだろう。防御など考えずに攻撃に専念して突撃を仕掛けた。

 だがそれは無駄に終わる。ヴィルヘルムが、予備動作なく地面から一本の柱を生み出したのだ。防御など考えていなかった戦士は石柱に激突し、倒れた。

 その一瞬の出来事に観客は波を打ったかのように静まり返り、そして脳が処理を終わらせたのか堰を切ったように一気に沸き立った。


 だが、宏人達や一部のC、B、Aランクといった実力者達は目の前で起きたことを理解できないでいた。

 当たり前だ。予備動作なしで石柱を生み出したのだ。誰もが唖然となる。

 普通、魔法は二つに分類される。一つが魔力を別のものに変換させるもの。先ほどの試合で魔術師が氷の礫を生み出したのがこれだ。

 そしてもう一つは、魔力を用いて物質を操るものだ。これも先ほどの試合で、魔術師が石壁を作り出すのに用いていた。


 今回、ヴィルヘルムが石柱を作ったのは恐らく後者のものだろう。だがそれは必ず一度対象に触れる必要がある。地面などはややこしいが、大抵が触れた地点から半径十五メートル程しか操ることができない。そして今回、ヴィルヘルムは地面に触れることなく地面を操っていた。


 考えられるのは二つ。一つは地面に触った後に試合に臨んだ。これは妥当な所だろう。技術さえあれば、操ることができる範囲は大きくなる。だが、考慮すべきは対戦相手との距離だ。今回の試験では対戦相手との距離は二十メートル程。これは魔術師に考慮してだ。つまりヴィルヘルムはその距離を軽く超えて大地を操ることができるという事だ。


 もう一つは、地面に触れることなく操ることができる。これは有り得ない。有り得ないはずだが、あのオーラを感じた今、絶対にないと笑って否定できないのは事実だ。


「アイツ、ヤバすぎるだろうよ」


 ポツリとアンが呟いた。普通なら観客の歓声のせいで掻き消えてしまうほどの音量のその声は、何故かハッキリと宏人の鼓膜を刺激した。




因みに、この街で試験をしてるのはE〜Bランクまでです。

Aランクは、別の国にある冒険者ギルド本部に行かないと試験を受けられません。

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