-終わりの星の新しい輝き-
チリーンと風鈴の鳴る音で意識を取り戻す。
「なんとか戻れたか……」
自分の声じゃないような声に喉が違和感を覚える。
それもそうか、俺は今、見た目は小学3年生の頃の自分なのだから。
「おーい! 楓太〜! あーそぼー!」
窓の外から、少女、未来の声が聞こえた。
とても懐かしく感じるその声に、現在の彼女を合わせてみるが、よほどのことがなければあんなに変わることは無いのだろう。
「うん! すぐ行くよ!」
俺は叫び返すとパジャマを脱ぎ捨て、急いで着替えた。
ダダダッと階段を駆け下りて靴を履いて玄関のドアを思い切り開け放つ。
「ぜぇーぜぇー……お待たせ……」
道路を挟んで正面にいる未来に汗をかきながらそう言うと、未来はやれやれと言った感じで苦笑いを浮かべた。
「今そっち行くからね〜!」
「……ッ!」
未来がスキップをしながら俺の方へ向かってくると同時に、俺の足は動き出していた。
ブーッ!とトラックの低めのクラクションの音が聞こえる。
何だか世界がスローモーションになったような感じの中、俺はトラックを見て目を見開く未来の体を突き飛ばした。
「楓太……ッ!?」
「よかった……」
俺が小声で笑いかけた瞬間、俺の体は宙を舞った……
「いてて……」
目を覚ますと俺は病院のベッドに横たわっていた。
どうやら打ちどころがよく、大事には至らなかったらしい。
「あっ……! 楓太……っ!」
ずっと横にいたらしい未来が、俺の目覚めに気づいて抱きついてきた。
「楓太ぁ……よかったよぉ……死んじゃったと思って……グス……私……」
「い、痛い痛い! 死んでないけど体痛めてるから! ぎゃああああ!」
「うぐっ……ひっく……よかったぁぁぁ!」
号泣する未来の力は予想以上に強く、俺の体が悲鳴を上げていた。
未来はそのまま30分以上も泣き続けてそのまま寝てしまった。
「すー……すー……」
未来の心地よさそうな寝息を聞きながら、俺は事態の整理を始めた。
一番の目標、未来を死なせないことはどうにか成功した。
ただ、自分が代わりに撥ねられるとは思ってもみなかったが……
これによって、山本が一番不安視していたことは解決できただろう。
俺が『力』を使う前に山本からメールが来た。
内容は、「今の状況からどれだけ未来の道を切り替えても、待っているのは終わりだけだった……お前と別れるのは辛いけど、後は任せた。」というものだった。
『未来を見る力』を持つ山本が真結の『未来を変える力』を得て、それを使っていろんな未来を見たのだろう。
その結果、もう手遅れだった。
だから、俺に任せたのだ。
「これで未来が世界を終わらせる悪魔になることは無くなった……全部解決したんだ……」
独り言のように呟く。
でも、本当に嬉しかった。
明日葉の死が無かったことにされること、『力』によって俺たちの人生が狂わされたことが無かったことにされたのだから。
そして、不意に気づいた。
何故『力』を失ったはずの俺がまだここにいるのか……?
もしかしたら、とんでもない間違いを犯したのかもしれない。
俺は……帰れないのか……?
「楓太ぁ…………すー…………大好き…………」
未来の寝言が俺の心を強く揺さぶった。
「あぁ…………俺もだよ、未来…………」
明日葉が死んだのも、山本や俺たちが殺されかけたのも全部目の前の少女のせいだというのに、なぜだか微塵の殺意も怒りもわかなかった。
本当にこのころの俺は未来のことが好きだった。
でも、彼女が死んで、俺はたった3年間でそんなこと忘れていた。
もうこのまま戻れなくてもいい。
純粋な未来と過ごして行けるなら、もう1度3年生からやり直すのも悪くないだろう。
未来の寝顔はとても幸せそうで小さな天使のようだった。
俺はそれを見て覚悟を決めた。
「もう1度やり直すんだ……今度は『力』なんて無しに明日葉たちと仲良くなれるように……」
「ねぇ楓太、今日はどこに遊びに行こっか?」
「そーだなぁ……水族館なんてどうかな?」
「ん〜! いいね! いこいこ!」
見た目は見間違えるほど大人になり、背も伸びた俺の彼女、未来と俺は笑顔で笑いあっていた。
未来はあれからしばらくの間、恥ずかしかったのか、俺とあまり絡んでくれなかったが、中学生に上がる頃にはいつも通りになり、同じ高校に進学して付き合い始め今に至る。
「やっほー! おふたりさんは今日も仲良しだねー!」
「だねぇ。翔馬も私と仲良くしてね?」
「お、おう……」
そんないつもと変わらない日常だが、今日は珍しい友達がいるみたいだ。
翔馬こと山本と真結だ。
2人は俺たちと高校こそ別だが中学校は同じだった。
俺と山本は小学6年生のときにもう1度仲良くなることに成功して今も親友だ。
山本は現在真結と付き合っている。
きっと『あっち』でも付き合っていただろう。
そう思えるほど今は仲がいい。
明日葉は今は海外に留学している。
さすがは真面目さんだ。
中村に至っては全くわからない。
なんたって未来人だから。
一番の問題はことりだ。
彼女は『こっち』には存在しなかったのだ。
それも未だに謎のままだ。
「んじゃ、俺らは家デートするからまたな!」
「あぁ。ハメ外すなよ!」
「誰が外すか! 誰が!」
高校生だというのにアッカンベーをする山本に手を振り、俺たちは水族館に向かった。
ガタンゴトンと揺れる地下鉄の座席で未来は船を漕いでいる。
こういうひとつひとつの仕草もとてもかわいい。
俺たちは水族館で3時間ほど魚たちを鑑賞した後そのまま2人で俺の家に行った。
今日は両親が朝早くまで帰ってこないのだ。
「楓太の家に入るなんて久しぶりだなぁ」
「そうだね……」
「うん……」
2人とも恥ずかしがってうまく会話が続かない。
「お、お茶入れてくるよ……!」
「待って!」
「え……? …………んぐっ!?」
俺が立ち上がった瞬間、未来が俺の首に腕を回してキスをしてきた。
それも深いやつ。
「んっ…………ぷはっ」
「ぷはっじゃないよ!?」
「えへへ……いいじゃん! 2人っきりなんだから!」
「うわっ! 押し倒すなって……! あっ! おまっ! それ以上は良くな……あああああ!」
このあと何が起こったかは秘密。
ただ、少し、いや、かなりハメを外してしまったとだけ言っておこう。
夜が開けて俺が目を覚ますと横には未来が整った寝息を立てて眠っていた。
俺は未来の頭を軽く撫で、小さく呟く。
「未来……お前は俺が守ってやるからな……」
未来の寝顔が笑顔になったような気がした。
楓太は楓太なりにがんばれたんじゃない?
私はこれで満足かな。
こんな『物語』を見れるなんて、未来ちゃんを私たちの世界に連れてきて正解だったね。
ん? 私が誰だかって?
ことりさんだよ! ことりさん!
忘れたなんて言わせない!
ん? なんで私がこんなところにいるのかって?
そんなの簡単だよ! 私が本当のボスでした! みたいな感じだよぉ〜!
どー? 驚いた? それなら嬉しいや!
私の『物語』で喜んでもらえるなんて星の使徒として最高だよ!
ふふ……まだ続きが気になる? それはまたいつかね?
ほら、また新しく『物語』が始まる。
それを楽しみにしておいてよ!
じゃっ! 私はそろそろ行くね!
次はまた違う『物語』で会お!
バイバイ!
今回は最終話なのであとがき書きますね。
『悲しい空の星々に』第15話にして最終話になります。
今まで読んでくださった方々に心からの感謝を。
しばらくしたらこの続編、もしくは番外編を書くつもりなのでそちらもよろしくお願いします!
これからもこの作品での経験を生かして他の作品で頑張っていきます!




