-EX1・時は流れて-
お待たせしました。
『悲しい空の星々に』の番外編です!
長らくお待たせして本当に申し訳ありません!
では、どうぞ!
リンゴーンと鳴り響く鐘の音。
「おめでとう!」と祝う人々。
人生で幸せだったことランキングがあれば、それの上位に位置づけされるだろうイベントが、目の前で起こっていた。
「新郎新婦に盛大な拍手を!」
そう、『結婚式』だ。
パチパチパチと鳴り止まない拍手の中、新郎新婦の二人はお互いの薬指に指輪をはめる。
はめ終えた瞬間に、さらに大きな拍手が会場を包み込んだ。
祝われている二人は絶対に幸せだということが誰がどう見てもわかる。
「おめでとう、二人共」
俺は新郎新婦に満面の笑みでそう言った。
二人共満面の笑みを返しながら、「ありがとう」と言って席に座る。
この後、俺が代表者として二人に手紙を読まなければならない。
そのことがあって、今とても緊張しているのだが、逃げるわけにもいかないのが結婚式。
ましてや、『一番の友達』としてこの場に代表として呼んでくれたのだ。
オレ、ガンバル。
「続いて、新郎新婦へ、ご友人のメッセージを!」
「は、はひ!」
遂にその時が来た。
勢い余って声が裏返り、会場が笑いに包まれる。
新郎はヤレヤレと苦笑いをこぼし、新婦は少し大袈裟にわらってくれた。
恥ずかしさに顔を伏せながらも、ゆっくりとマイクの前まで歩く。
どうしてこんな恥ずかしいめに……
終わったら文句の一つでも言ったやろうか……
そんなことを考えていると、気づけば目の前にマイクがあった。
よし、事前に書いておいたスピーチの紙を…………ない?!
あぁ……終わったぁ……
「だ、大丈夫ですか?」
「い、いえ! 大丈夫ですよもちろん!」
進行役のお姉さんが少し戸惑いながらに聞いてくる。
こうなったらもうやけくそだ。
即興で話してやる。
「こ、こほん。えー、まずは、新郎と新婦の二人共、おめでとうございます」
「わ、私が新郎新婦に出会ったのは中学生の頃になりますでしょうか。
今ではもうずっと昔のことですが、私にはほんの少し前の事のように思い出せます。
きっと、二人が感じた二倍の時間を、私は二人と過ごしたように感じています…………」
目から溢れるように流れる涙を拭いもせずに話した。
思い返せば返すほど、懐かしい思い出が蘇り、心に染み渡る。
きっと今、泣きすぎて何を言っているのか伝わっていないだろう。
それでも、気持ちは伝わるものだ。
新郎は「お前はほんとに……」と呟きながら俺に負けないほどの号泣を見せている。
新婦に至っては泣き崩れていて、もの凄いことになっている。
親族を含めた会場の人々の中にも、つられて涙を零す人が大勢いた。
俺は最後に、涙を拭い、嗚咽を抑えて言った。
「最後に……本当におめでとう……翔馬、真結……お幸せに……俺はずっと二人の幸せを祈ってるから……!」
そう締めて、深くお辞儀をした。
すると、先程の指輪交換に負けずとも劣らない大きさの拍手が会場に響き渡った。
俺も流石に満足だ。
これが二人の結末で、本当によかった。
正確には、今後の生活も色々あるだろうから結末とは言えないが、俺が関わるようなことはそうそうないだろう。
これで、後悔しないで済む。
実のところ、ずっと小さな後悔を抱えていた。
不思議な『力』で無かったことにしてしまった、俺と翔馬たちとの出会いのことだ。
下手すれば、巻き戻した影響で、出会うことすら無くなっていたかもしれない。
それでも、なんとかみんなを見つけ、出会うことが出来た。
これはきっと奇跡だ。
神様は俺を見放していなかったんだ、きっと。
みんなで戦った記憶は俺以外覚えていない。
けれど、それでいいと思えた。
失うことの辛さを知るのは俺だけでいい。
だって今は、
「こんなにも幸せなんだから……」
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「ねぇ、楓太」
「ん、どーした?」
「私たちはいつ結婚するの?」
「ぶーーーッ!」
とある喫茶店にて、俺と彼女である未来はティータイムを満喫していた。
だが、突然の爆弾発言に飲んでいたミルクティーを盛大に吹き出してしまう。
確かに俺と未来は付き合って長い。
付き合い始めたのが高校生になる少し前だから、もう8年になるのか。
俺も未来も23歳。
8年間もプロポーズを渋っているのだ。
流石の未来も我慢出来なくなってきたのだろう。
街中でのこういった発言が最近多い。
それでもまだプロポーズしないのは、単に俺がヘタレているからだ。
「そ、それには理由がありましてですね……」
「理由。理由ねー。ヘタレてるだけでしょ」
「ギクゥッ! どうしてわかるんだよ……」
「そんなの小さい頃から見てるんだもん。癖の一つや二つ、全部見通しちゃってるもん」
そう言って控えめの胸を張る。
幼馴染みだけあって、俺のことを知り尽くしている感じがすごくて怖い。
チラチラと未来の方を見ていると、
「何よ。誰の胸が控えめだって?」
「ひ、ひぃー! 頭の中読まれた?!」
「なッ!? ほんとに思ってたの!?」
「ふぁ!? これには誤解がぁぁ!」
バンッ!とテーブルを叩いて立ち上がる未来。
別に貧乳なのが悪いとは言ってないのだけれど……
それよりも、本当に心を読まれている気がしてならない。
ほんとは『力』残ってたりしないよな?
「ふんっだ! 別にいいもん!」
「え、いいの?」
「だって、そんなこと思ってるけど、楓太、私のおっぱい好きじゃん」
「ちょっ、おまっ!」
「昨晩だって、私のおっぱいでハアハアって……」
「や、やめろぉぉぉぉぉッ!!」
涙目になりながらテーブルを両手で叩く。
公の場で公開処刑された。
喫茶店で飲食をしていた人達が何やらコソコソ言っているのが見える。
きっと俺のことだよなぁ…………
目の前の未来は「してやったり」と呟きながら、ドヤ顔で俺を見ている。
が、他の客の奇異の目線は未来にも向いているのは確か。
それなのにこの肝の座った態度……
未来らしいよ、ほんとに。
二人ともこれ以上は何も言わずにティータイムを終え、夕飯の食材を買い、自宅に戻った。
俺と未来は同棲している。
理由といえば、いい大人がずっと親のスネをかじっている訳にはいかないということが挙げられる。
そこから、二人とも同じ考えならいっそのこと一緒に住んでしまおう!となって今に至る訳だ。
全15階の高層マンションの3階。
そこに俺と未来の部屋がある。
未来は今キッチンで夕飯を作ってくれている。
ちなみに俺は自室で仕事をしているところだ。
トントントンと軽やかなリズムで野菜が切られていく音が響いた。
彼女は意外と家庭的な一面が多かったりする。
例を挙げるなら、料理がとても上手い。
一度、「本気で作ってあげる」と言われて出されたものは、レストランのフルコースで出ても文句一つないほど絶品だった。
本人曰く、「お母さんに嫁入り修行させられただけだよー」と言っていたのだが、どんな嫁入り修行なんだ。シェフにでもする気だったのかお義母さん。
その他にも「お母さんの嫁入り修行シリーズ」で洗濯の手際の良さといい、アイロンがけの上手さといい、文句の付け所もツッコミのいれ所もない。
家事は完璧なのに、どうしてこう……少し残念なんだろうかこの子は……
仕事(普通にサラリーマンとして働いている)から家に帰えると、玄関で待ち伏せていたかのように現れ、
「ご飯にする? お風呂にする? それとも……わ・た・し?」
と聞いてくるのだ。
一度冗談で、「じゃあ、未来で」と答えた時は本当に寝室に連れ込まれ、ベッドに押し倒されたので、もう一生未来とは答えないと決めた。
こんな少しお馬鹿な未来だが、それでも彼女の事が好きな俺も俺だろう。
まったく、記憶の奥にいる『あの未来』が嘘のようで仕方がない。
今でこそ、あんなに幸せそうな顔が出来るんだろうな。
「楓太ー! ご飯出来たー!!」
「はいはーい! 今行くよ!」
今日の夕食を楽しみに、仕事を途中で切り上げ、急いで食卓に向かう。
自室の扉を開けた瞬間に、香ばしい香りが鼻腔をくすぐった。
食卓には、コース料理もかくやという料理の数々が並んでいる。
「今日は外で変な事言ったお詫びを込めて、たくさん作っちゃった」
「うん。めちゃくちゃ美味そう」
「当たり前じゃない! 私を誰だと思ってるのよ!」
いや、普通の世の女性はこんなフルコース出しませんよ。
そう言いたくなったが、これが未来だ。
言っても無駄。わかってる。
「まあまあお客さん、お座りくださいなー!」
「って、椅子まで引かなくても……えらく本格的だね」
「ふふーんっ! もっと褒めてもいいのよ?」
「うん。えらいえらい」
「棒読み感が凄い!?」
そんなやり取りを終え、夕食をおいしく、賑やかに食べ終えた。
個人的にはメインディッシュのお肉より、スープがなんとも言えない美味しさだった。
それを言ったら怒られそうだからやめておこう。
メインに力入れたって言ってたし……
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入浴やらなんやらを経て、時間はすっかりオトナの時間だ。
やたらイタリアンな夕食で飲んだワイン(安物)のアルコールが効いてきたのか、酔いが回ってきた。
現在、ソファでぐったり状態。
未来も酔っているらしく、何故かフラフラとテーブルの周りを歩いては、余ったワインを飲んでいる。瓶ごと。
見ればわかるが、相当にお酒が好きらしい。
かといって、お酒に特別強いわけでもなく、というかとても弱い。
よくお風呂に入って出てこれたよ本当に。
俺も何か麦茶でも飲もうかと立ち上がった。
「おっとっと……!」
「ふぁっ!」
だが、平衡感覚が一瞬無くなり、バランスを崩して倒れ込む。
タイミングが悪かった。
珍しく気を利かせてコップ(だけ)を持って来てソファ前の小さなテーブルに置いた未来が、目の前にいた。
その状態で倒れたのだ。
大体どうなるかわかると思う。
未来をソファに押し倒し、両手で床ドンならぬソファドン状態。
未来は珍しく、かぁぁぁっ、と聞こえそうなほど耳まで顔を赤くしていた。
「…………っ!」
「あ、ご、ごめ……っ?!」
謝ろうと、そこまで言ったところで言葉が詰まった。
未来の両手が俺の首の後ろで組まれ、グイッと引かれたからである。
すぐ目の前に、酔いとお風呂上がりでほでり、真っ赤になった未来の顔がある。
「も、もう少しだけ!」
「へ……?」
「もう少しだけこうしててほしいの……」
言っては悪いが、普段の未来には似合わない程に照れている。
だが、それが俺にブレーキをかけていた理性をぶっ壊した。
「んっ……!」
乱暴に目の前にある桜色の唇を自分の唇で塞ぐ。
未来が目を見開いて驚いた。
驚くのも無理はない。
普段は必ず未来から襲ってくるのだから。
今回だけ……特別だからな……
こうして少し特別な夜は過ぎていった。




