2話 ここはどこ?あなたはだれ?(下)
婆さんに連れられて食堂に入ると男の人が2人椅子に座っていた。遠目から見ても明らかにイケメンとわかる容姿に思わず腰が引けてしまう。
あかんて~めっっちゃイケメンやん。仲間って言ったからてっきりあいつらだと思ったのに……。まぁでもここは第一印象をよくしておいた方がいいよね? あ~絡まれたら嫌だなぁ。
「お、おはようございます」
いちゃもんをつけられても嫌だからしっかりと頭をさげ挨拶をする。
「おはよう」
「おはようございます」
1人はフレンドリーに、もう1人はしっかりとした挨拶が返ってきた。そして2人から発せられた声は聞きなれた声だった。
あれ、この声は……陽向と武さんの声だよね……?でも見た目が全然違うし……。
冷静に考えれば『自分も容姿が大幅に変わっているのだから相手も変わっている可能性がある』と気付きそうだが、今の僕にそんな余裕はなかった。
「わしはご飯の準備をしてくるで、座って待っててくれや」
婆さんはそう言ってキッチンの方へ歩いていく。
チャンスだ! この場から離れられる!
「あ、手伝います」
椅子から離れ婆さんの後を追おうとしたが、振り返った婆さんに手で制されてしまう。
「いいで座ってましょや、お仲間もいるだで話でもしてましょ」
今はその優しさが辛いよ……婆さん。
「そ、そうですか……ありがとうございます……」
完全に婆さんは僕たちを仲間だと思っているようで、満足そうに頷くとキッチンへと消えていった。 しょうがない会話を続けて情報収集をしてみようか……こうゆうの苦手なんだよなぁ。
「お孫さん……って訳じゃなさそうだね」
イケメンの1人が話し掛けてくる。爽やかな笑顔がお似合いな顔つきなのだが、声が武さんなので違和感がバリバリだ。
「はい、どうやらこの家の前で倒れていたところを助けていただいたようで……」
「俺達と同じか。実は俺達もあの婆さんに助けられた……らしい」
もう1人のイケメンが僕の後に続いて話し始める。こっちは陽向の声をしている。武さん声のイケメンと比べるとワイルドな感じのイケメンだ。
「“らしい”って言うのは、オレらもさっきあの婆さんに教えてもらったところなんだ」
話しを聞く限りどうやらこの2人も同じ状況みたいだ。
「お前……キミは一人だったのか?」
陽向声が言い直しながら質問をしてきた。咄嗟に出た言葉から察するに、声の主と同じで口が悪いのかもしれない。
「仲間は居ますけど、起きた時は一人でした。お婆さんの話しだと倒れてたのは貴殿方と私の3人だけだと聞いてます」
「そうか……」
2人は明らかに落胆した様子を見せるとそのまま2人だけで話し始めてしまった。
イケメン同士の内緒話……見ていて無性に腹が立ってくるのは何故だろう?
「あの……」
「ああ、ゴメンゴメン」
無視され続けてもあれなので、勇気を出して声をかけてみる。すると、武さん声のイケメンが僕に気付き謝りながら笑いかけてくる。
イケメンめ……そんな笑顔で誤魔化されると思うなよ!
「実は俺達にはもう1人仲間が居るんだが、どうやらはぐれてしまったらしい」
「3人倒れてたと聞いたから、もしかしたらって思ったんだけどね」
2人は苦笑いしながら自分たちの状況を教えてくれる。
「そうだったんですか、それは心配ですね」
何処でも似たような話しはあるんだね~でも探す人数はそっちは1人でこっちは2人。悪いけど手伝ってあげられないな~。
「早く見つかるといいですね」
気休めにもならないが、一応声をかけておく。しかしイケメン達は笑顔を見せながらお礼を言ってきた。
「ありがとう、まぁ特徴がある奴だから直ぐ見つかると思うが」
「ああ、そうだねその点は心配してないかな。かなり目立つから」
どんだけ分りやすい特徴なんだ?
「そ、そうなんですか? 因みにその特徴って……」
「ああ、単刀直入に言うとデブだ」
時が凍った気がした。
「そうだね、横たわったトドみたいな奴だったね」
それは立っている姿がだろうか、それとも横になった姿がだろうか?
「それは……その……特徴的? ですね?」
デブが特徴的とか……世の中のデブの方々に謝れ! 自分がかつて太めだったこともあり、怒りが沸々と沸いてくる。
「そう言えば自己紹介がまだだったね、俺は涼って言うんだ。んで隣は陽向って……」
そんな事を考えていたら男の1人が自己紹介してきた。僕は聞き覚えのある名前を聞いて話をそこそこでかぶせ気味に質問をしてしまう。
「あの、違ったら申し訳ないのですが……貴殿方の本名は新山陽向と武田涼ですか?」
「!?」
「!!」
二人の反応を見ると当ったようだ。
「どうして!?」
「僕だよ、和泉だよ!」
こうして僕らはいきなり合流する事が出来た。
後日どうして余所余所しい態度だったのか後で聞いてみたが、『僕かどうか確証はない、況してや見た目が女の子と言うこともあり、当たり障りのない態度をとったのだ』とのこと。意外と紳士な態度にビックリである。
「しかし、本当にいずんちゅかよ」
「嘘ついたってしょうがないでしょ?」
「和泉さん……ないわ~」
「ないな」
まさかの批判である。自分たちだって劇的ビフォーアフターしているくせに!
「なんでさ!」
「いや、和泉さん……ないわ~」
「前々からそうだと思ってたが……やっぱしロリk」
「違うよ!?」
本当に失礼な事をいう友人である。ついつい言葉が荒くなってもしょうがないだろう。
「自分達だって大分違うじゃん」
「いや、俺ら男のままだし?」
「顔はしょうがないだろう? 写真を撮った訳じゃないんだ、正確に自分の顔なんて再現できるものじゃない」
そんな正論で返されたらぐうの音も出ない。
「でも、だってほら……」
「はいはい、トドトド」
「ドンマイ」
「も~~~~!」
「でもさ、和泉さん」
「何さ!」
こちらの言葉を遮られたのだからついつい返す言葉もキツくなる。
「本当に女の子になっちゃったの?」
武さんは僕のある箇所を見ながら質問をしてくる。質問を辿ると言いたい事がなんとなくわかった。
「ん? ………! ふふっどっちだと思う?」
ちゃんと答えてもよかったのだがここで急に茶目っ気がでて、質問をしてみることにした。
「おい、こんな時にふざけるな」
「まぁまぁ心にゆとりを持たないと人生楽しくないよ?」
陽向はこの状況下でふざけるのが気に食わないのか声を荒げる。
「ん~見た目は完全に女だね~」
しかし、武さんは根がお調子者の為意外と乗り気な様子だ。
「そうなんだよ! 見よこの美貌を!」
椅子から立ち上がり軽くポーズをとる。
「さらさらと流れるようなストレートの銀髪! “これぞ銀糸!”と言っても過言ではないよ! さらに見て! この遠目からでもハッキリとわかるエンジェルリング! 小顔にパッチリとした瞳! 子供から大人の階段を上り始めたボディ! スラリとスレンダーながらカモシカを彷彿させる脚線美!!」
完全に自分に酔っている状態で周りの空気が読めていない。
「どうよ! パーフェク……」
ドン!!
机を叩いた音が食堂を静寂にし、浮かれていた僕を現実に引き戻す。
「いずんちゅ? いいから座れ」
「はい……」
陽向の目はとてもヤバかった、あの目は人を殺めても間違いない目だ。
「戯れ言はいい。男か女か……どっちだ」
「怒るなよ~ちょっとばかしふざけただけじゃんよ~」
「いずんちゅ?」
「サー! 男であります! サー!」
怖い! 本気で怖いよ陽向さん……。いいじゃない少し位自慢したって……いい出来だと思うよ?
「そんななりで男なのか」
「はい、男でやんす、さっき便所で相棒も確認してきました。あ、そうだ相棒と言えばさ~もう聞いてよ~僕も相棒と今生の別れを覚悟したんだけどね?」
僕の言葉に武さんは首を傾げる。
「相棒?」
「君たちにも居るでしょ? 下半身に相棒が」
僕は下品だと思いながらも指を指した。
「あ~把握」
「それで?」
「もうダメだ、居なくなっちゃった! って落ち込んでたんだけどね」
「落ち込んだのか、デリンジャーなのに」
「いや、PPKだろ?」
コイツら……僕の相棒を愚弄したな……!
「ガバメント位はあります!」
「そんな事はどうでもいいんだよ。それでどうなった?」
「ん、話していいの?」
「何だ話さないのか」
「じゃあこれで終わりだな、朝飯なんだろう?」
「お願いします。聞いてください」
そういえば朝ごはんの前だった。なんでご飯前にこんな話ししてるんだろう?
「さっき婆さんと話してるときにさ、転んだわけよ。こう尻からさ、どしーんって」
「そういえば物音がしてたな」
「あれも和泉さんだったのか」
「人様の家ではしゃぎすぎだ、バカ」
「やりたくてやった訳じゃないやい」
何故か怒られる、あんまりだ。
「んで?」
「なんか、投げ遣りになってない?」
「いずんちゅ……正直どうでもいい」
「うん。どうでもいい」
2人は頷きながらバッサリと切って捨てた。
くっそー! 相棒が居なくなった恐怖を知らないからそんな事が言えるんだ!
「股が痛かったのでトイレで確認したらついてました。おわり」
「んで?」
「んで? って終わりだよ、お・わ・り! ついてたね~よかったね~的な」
「そうか、よかったなデリンジャー」
「いやPP……」
「ガバメントだって言ってるだろ!」
もうやだ、この人たち……。
「しっかし、何で完全な女にならなかったんだろうね?」
あ、もう話しが切り替わるんですね。はぁ……
「昔何かで読んだけど男と女じゃ脳の仕組みが違うらしいな」
陽向が顎に手をやり、何かを思いだしながら話してくる。
「マジで?」
「ああ、詳しくは思い出せないが確かそんな話しだったと思う、女の体に男の脳だと脳への負荷がハンパないらしい」
「体は用意出来ても脳は用意出来なかったのか?」
「『用意出来なかった』じゃなくて『用意しなかった』じゃない?」
「どうゆう事だ?」
僕は自分の考えを話していく。
「えっと……僕らは『冒険者募集』の広告を見て応募したじゃない? そしてこの場所に飛ばされてきた」
「そうだな、ここが何処なのか解らないが、一つ言えることは俺達の世界じゃないって事だ」
「そう、そこだよ。異世界からわざわざ喚んできたのには、それなりの理由があっていいはずじゃない?」
「“この村を救え”とか“世界を救え”と言うのならこの世界で人材を選んでそれこそ勇者にすればいい」
「じゃあ何でそんな簡単な方法をとらずに僕らを喚んだのか? それは『この世界に無い知識』が欲しいんじゃないかって思ったんだけど」
「知識か……確かに俺達の存在が欲しいなら元の体ごと召喚すればいいな。だがこうして別の体を用意するって事は俺らの元の体ではこの世界はキツイという事だろう」
「そういうこと、でも僕は男なのに“女”を選んでしまった。当然女の体を用意したが脳は拒否反応を起こした。」
「拒否反応が進めば折角用意したあっちの世界のメリットが無くなるって訳か」
「あくまでも僕の考えだから間違っているかもよ?」
僕と陽向が話しの筋を作り上げる。
「成る程ね」
「それで、和泉さんの要望に答えつつ脳に負荷がかからないようにしたって事?」
「脳をあれこれ弄るよりは生殖器を交換する方が楽ってことか」
「その結果出来上がったのが骨格レベルで女の子だけど男の子の僕って訳……どう?」
「いずんちゅ……めんどくさい」
「僕のせいじゃないよ!」
「お前のせいだ! バカ!」
「酷い! バカって言った!」
僕らの一通りの状況確認が終わった頃。婆さんが朝食を運んできてくれた。
「やっぱ仲間と一緒にいた方が元気だなぁ」
「お婆さん」
「ごめんなさい、騒いでしまいました」
「いいだよ~久しぶりに賑やかでわしも嬉しいでよ」
そう言いながらテーブルに食器を並べていく。
並べられた料理は魚の具のスープ、肉とソーセージを焼いたもの、それに平たいパンのようなものだった。
「こんなもんしかね~が、た~んと食べてくれや」
「十分です、ありがとうございます」
「すみません頂きます」
「いただます」
三人は一斉に食べ始めた。
味付けは塩と胡椒のシンプルなモノだったがとても美味しかった。
食事を終え、婆さんに話しを聞くことにした。
「今回は助けていただいて本当にありがとうございました」
「家の前に倒れてた時はビックリしたけんど、大事なくてよかっただよ」
「名前も名乗らずに御飯をいただいてしまって……私は新山陽向と申します」
相変わらず僕たちとはえらい違いだね。
「ニイヤマヒナタだか、えらい長い名前だなぁ」
「いや、新山は名字で……」
「ミョウジだか?」
どうやら『名字』がわからないらしい。
「あ~、陽向と呼んで下さい」
「ヒナタだな、わかっただよ」
「俺は涼といいます」
「和泉です」
続けて僕たちも名前を名のる。
「リョウとイズミだなぁ。皆いい名だぁ」
婆さんはそう言って僕らの名前を誉めてくれた。なんだか死んだ婆ちゃんに似ていてちょっと鼻の奥が痛くなる。
「わしは皆にはチヨ婆と呼ばれとるだよ、あんたらもそう呼ぶがええ」
「ありがとうございます、チヨ婆さん」
「それで、早速で申し訳ないのですが、私たちが倒れていた時の状況を教えていただけますか?」
チヨ婆は大きく頷くとその時の状況を話してくれた。
異変に気が付いたのは昨晩の事。店じまいをしようと外に出たところ、僕達3人が倒れていたと言う。怪しいと思ったがそのまま放置するわけにもいかないと、ちょうど来ていたこの村の村長と一緒に家の中まで運び込んでくれたそうだ。
「すみませんチヨ婆さん。初歩的な事なんですが、ここは何て場所ですか?」
一通り説明を聞いた陽向がチヨ婆に質問をした。
「ここはムスペルのレビストフという村だよ」
チヨ婆さんの口からは『ムスペル』とあの募集の最後の文に乗っていた言葉が出てきた。この一連の状況はあのアルバイトの募集に関係があるらしい。まぁわかってはいたけどね。
「あのチヨ婆さん、僕たちの服は?」
「あんたらが最初に着てた服はボロボロで、もう着れそうにないだよ」
「そうですか……ではこの下着もチヨ婆さんが?」
「下着は元々穿いてたもんだ」
もし下着まで交換されていたら、チヨ婆さんは僕のことを“娘子”とは言わなかっただろう。
「さてまだ何かあると思うが村長さんの所へ案内するだよ」
「村長さんの所ですか?」
「そうだぁ、あんたらから詳しい話しを聞きたいそうだぁ」
「そういうことなら」
「運んで頂いた御礼をしなくてはと思っていたところですし」
「そんなら一緒に行くだよ」
そうして僕らはチヨ婆の家を後にしたのだった。
2話目です。
なんとかできました。
前回より短くまとめてみました。
次回はこの村の村長が出ますw
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