1話 ここはどこ?あなたはだれ?(上)
暑い。
最初に感じたのはその事だった。ただ寝ているだけなのだが、肌に纏わりつくような熱気が汗と相まって不快感を高めていく。
おかしいなぁクーラーつけて寝たと思ったのに……勘違だったかなぁ?
纏わりつく不快感を拭おうと何度も寝返りをすると場所が変わる度にひんやりとした感触が体の熱を奪っていく。そうまるで冷やされた石の上で寝ているような感じだ。
あぁちべて~極楽じゃ~……ん? 石? おかしい……確か僕のベッドはパイプベッドだったはずだけど……? それに腕や足などに冷たさを感じるのは解るけど、なんで腹周りからも感じるんだ?
そこで一気に目が覚め急いで周りを確認する。
まず目に入ってくるのは木を組んで作られた壁でログハウスを彷彿とさせる。部屋の中心には石で出来たテーブルが置いてあり、テーブルを囲むように木で出来た椅子が4脚置いてある。
寝ていたベッドと思わしきモノも石で出来ておりガラスがはめ込まれていない窓の真下におかれていた。窓の外はまだ夜明け前なのか薄暗くしっかりと見えないが日本ではあまり見かけない建物が多いようだ。
はて? ここは何処だろう? 確かアルバイトに申し込むために色々と入力して……そうだ、入力し終わったら急に眠気が襲ってきたんだ
「おやぁ目が覚めたようだねぇ」
その時何処からか声が聞こえる。
「あんたらぁこの家の前で倒れてただよ~?覚えてるかぁ?」
誰かと会話しているようだ、それにしても姿が見えないのに老婆の声がするのはこれ如何に。
………あらヤダ、心霊現象?怖いんですけど……。
「隣に寝かしてる娘子もあんたらの連れかい?」
ほほぅ娘子とな。これはいい情報を聞いた。時間が経ったら見に行ってみよう。
娘子云々は置いといて、どうやら声の主である婆さんは隣の部屋に居るみたいだった。てか、声聞こえ過ぎじゃない?
さて……と、まだ頭が混乱しているけど、まずは状況を確認しないといけないよね。
まず見たことがない部屋。
完全トロピカルな南国テイストで肌に張り付くような気温にぴったりの部屋だ……が当然僕が借りている部屋ではない。
そして僕が寝てるベッドのような石の台。触るとひんやりして肌触りはとてもいい。僕が横になっても余裕が有るからかなり大きい台のようだ。
ってこれ昔の生け贄の台みたいだけど……はは、まさかね~生け贄は美しい女性って相場が決まっているし、こんなおデブちゃんが生け贄なんて……無いよね……?
そんなことを考えると明らかに気温以外が原因の汗が背中を流れていった。そしてガチャリと扉が開き、老婆が顔をのぞかせる。
「おや、こちらも目が……」
「ひゃぁぁぁ~ごめんなさいごめんなさい。こんな運動不足と脂肪でブヨブヨの僕は食べても美味しくないです。きっと生け贄にしたら神様も嫌がると思いますので命ばかりは御容赦を~」
「おやおや元気のいい娘子だぁ~」
ん? 娘子? 何言ってんの? この婆さん。
変な妄想後の不意討ちで大混乱である。
「落ち着くだよ~。この国には生け贄の風習はないで~」
その言葉を聞いて一安心する。心が落ち着いてくると次第に先ほどの言葉が気になってくる。
娘子と言っていたよね? あの婆さん。
だがよくよく考えてみると思い当たることが一つある。
『声』だ。
先程の悲鳴から意味のわからない命乞い、間違いなく僕が喋ったはずだ。だが聞こえてきたのは明らかに女の声、しかも声変わりを迎える前の子供の声である。
年齢的にも性別的にもかけ離れた『声』に落ち着きかけた頭が再度混乱し始める。そこにさらに婆さんの追い撃ちがくる
「ほれ、目が覚めて元気があるなら服を着て一緒に御飯を食べるだよ」
な……なん……だと……服を着ろとな?
恐る恐る下を向き僕は自分の体を見る。
なんて事でしょう、運動不足と食べ過ぎで脂肪祭の真っ最中だったお腹周りがスッキリしてるではありませんか。更に筋肉ではなく脂肪で太くなり男性でもやや毛深い方に分類されるであろう腕や足などはツルツルで、程よく筋肉の付いたスレンダーな手足に早変わりです。
とどめは下を向いてると自然に垂れてくる髪。長く垂れ下がった髪は日本人特有の漆黒ではなく高級な銀糸と見間違えそうな銀髪が太陽の光を浴びキラキラと輝いているではありませんか。
ビフォーア〇ターも真っ青なナレーションが僕の頭にこだまする。
そこにはいつもの見知った体ではなく、まったくの別人の体があった。
服云々の前に衝撃的な光景で時間が止まる。
そして入ってくる情報量が僕の脳の限界を超えた……
「なんじゃ~~~こりゃ~~~~」
婆さんの家に僕の叫び声がこだまする。
そして僕は意識を手放した。後で婆さんに聞いた話しだと某刑事の叫び声と共に倒れこみ、次に目が覚めのは数分後だったらしい。
◆◇◆◇◆◇◆◇
「もう大丈夫だか?」
「お……お騒がせしました……」
なんとか平常心を取り戻し会話を続けるけどやはりショックは隠せない。
「孫の服しかなくて悪いが、我慢してくれなぁ」
「いえ、そんな、服が有るだけでうれしいです。ありがとうございます」
そういって僕はシャツとズボンを受け取った。スカートじゃなくて本当に良かったと思う。
因みに今の格好はダボッとしたパンツと胸に巻いてある布切れだけだ。
道理で腹周りにダイレクトで冷気が来るわけだね。しかし、女の子か……これは随分堪える状況だなぁ。
別に女の子になった事はもうしょうがない、うん。ネットの世界とはいえ「ネカマ」とし女の子として活動していたこともあるし……。でもリアル世界で常に女の格好をした男って「ネカマ」じゃなくて只のオカマだよね……はぁ落ち込んできた。
でも一番心にきたのは生まれた時より20年間。辛いときも嬉しい時もずっとそばにいてくれた相棒が……マグナムなんて豪語せずデリンジャーと謙遜をしない憎いあん畜生が……。
居なくなっちまった……心にドカンと穴が空いたみたいだ……。
「本当に大丈夫だか? もう暫く寝てっか?」
こんなに心配してくれるなんて……婆さんいい人だなぁ。いつまでもしょげて居られないね! ここは空元気でもこの婆さんを安心させる事が急務だ! そうだろ相棒……!
「いえ、本当に大丈夫です。服、お借りしますね」
「そうだかぁ、まぁおめぇさんも仲間の顔見れば元気も出るだろうて」
「仲間ですか?」
はて、そんな人が居ただろうか?不思議な事を言ってくる婆さんだなぁ。待てよ……もしあのアルバイトの登録直後にここへと飛ばされたとしたら? その原因がメールに送られてきたURLだとしたら……。
「お婆さん、その仲間? って人は男の人ですか?」
「そうだぁ、男の人が2人お前さんの近くで一緒に倒れていただよ」
やっぱり、予感的中! これは早急に確認しなければ!
「本当! なら直ぐ会わなきゃ!」
「慌てるのは解るが、服くらい着てけぇ~」
婆さんの声を流しつつ慌てて部屋を駆け出そうとした。瞬間、グッと胸を押されるような感覚を感じた直後に両足が地を離れ尻から落ちる。
一瞬何が起こったのか解らなかった。
「直ぐ会いたいのはわかっけど、娘子なら仲間の前でも身だしなみを気を付けた方がええだよ?」
そんな言葉を聞き、振り向けば婆さんが胸の布を後ろから掴んで立っていた。
胸を押された感じはこの布が締まったからか……どうせ胸など無いのに邪魔な布だね!
しかし今尻から転んだとき股間に懐かしい痛みが走った。
「ごめんなさい、お婆さん。嬉しかったからついつい慌てちゃった。それで、あの、ホッとしたら御手洗いに……」
「あ~便所かぁ? 便所は部屋を出て左に行って角を曲がって直ぐ右手だぁ」
「ありがとう!」
「慌てっとすっ転ぶぞぉ~」
また注意されるとは……我ながらなんとも落ち着きが無いとは思うけど、どうしても確かめないといけないのだ!
婆さんに教えてもらった便所に入り鍵を締める。
もし、あの時の痛みが相棒のモノならば……
焦る気持ちを押さえつけ確かめる為に……僕は……最後の砦を…………
脱ぎ捨てた!
・・・
・・
・
ふっ……会いたかったよ相棒!! やっぱ僕とお前は一心同体さ!
結論から言うと極度の緊張と混乱で相棒が委縮してしまった事と大き目のダボッとしたパンツのおかげで見た目では判明しずらかったが、相棒は確かに僕と共にいたのだ。
というか言葉や見た目に騙されず、手で触ってみればこんなに悩まなかったのでは? と後日ふと思ったのは内緒の話である。
さて、相棒の生存を確認した僕は意気揚々と婆さんの待つ部屋へと帰る。
「大丈夫だったかぁ?」
「はい! 大丈夫でした! もう何があっても怖くありません!!」
「何か怖いことでもあっただか? まぁ元気になればいいさぁ、さっさと着替えてご飯にするだよ」
一度は永遠の別れを覚悟した相棒の帰還がうれしく、テンションが上がりっぱなしの僕である。
手渡された服を着替えてる最中に、ふとあることに気が付く。
「お婆さんって結構背が高いのですね」
今まで気が付かなかったが、なんとお婆さんと目線がほぼ同じ高さなのだ。
「わしか? わしはそんなに大きくないだよ? おかげさんで腰は曲がっちゃおんが、背は他のババと同じくらいだよ?」
「え、そんな。だって僕と同じくらいですよね?」
ここら辺の人は皆大柄なのかな? でも婆さんで170㎝超えてみんなと同じって……。ここは巨人の国?
「そっだな~でもおめぇさんはこれから大きくなるでぇ、じきに婆を見下ろすさ」
そんなバカな! もう20歳を迎えればそんなに成長しないと思うけど……。
「お婆さん僕はもう20歳ですよ? そんなに成長はしないでしょう?」
「おや、おめぇさんそんな歳だっただかぁ」
「ええ、実はそうなんですよ」
「婆と同じくらいだで、もっと幼いと思っとったよ」
幼いって……この身長で幼く見られたのは初めてだよ? 婆さん。
「幼いって、お婆さん。僕これでも男性の平均身長は超えてるんですよ」
「そっだことねぇべ、おめぇさんの連れの方が遥かに大きかったぞ?」
「?」
「?」
どうも婆さんとの話が噛み合わない。
「ねぇお婆さん」
「なんだ?」
「お婆さんの身長は?」
「わしかぁ?わしは143cmだ」
そんなバカな! 僕より30cm近くも低いなんて! じゃなんで目線が同じ位なんだ?
ん? 143cm……? なんか最近そんなくらいの数字を見た覚えが……なんだっけ?
そうだ、募集のHPで書いた身長だ! 僕は140cmと記入したはず……そうか、なんとなく見えてきたぞ。
「どうしただ? 急に黙り込んで。腹ぁでも痛くっただか?」
「っ大丈夫だよ、ちょっと考え事してただけだから」
危ない、婆さんをガン無視してた。
「そっだかぁ? 昨日は道に倒れてたであんま無理しちゃなんねーぞ?」
「うん、そうだね。でも大丈夫だから」
ここは安心させておいた方がいい。
「それにすても、その身長で男と同じとは、おめぇさんは海の向こうの人だか?」
「ごめん、お婆さん。僕の勘違いだったよ。さっきまで見てた夢とごっちゃになってたかも」
「そっだなぁ。わしも詳しくは知らんが、そっだ小さな男は海の向こうにある国にしかおらんちゅう話だでよ」
「海の向こう?」
「そ~だ、詳しくは村長が詳しいで、あとで話を聞いてみればええ」
「そうなんだ」
ふむ、どうやらこの世界も相当広いみたいだ。人の他にも色々な種族がありそうだし、もしかしたらエルフなんてのにも会えるかもね……夢の見すぎかな?
「ほれ、着替え終わったぞ~。」
婆さんに言われて自分が着替えが終わっているのに気が付く。
な、なんて早業! まったく気が付かなかった……。
「20歳になるなら、わしに手伝って貰ってたらダメだぞ」
「ごめんなさい」
「着替えが終わったら朝飯にするで、食堂に行くぞ~」
「はーい」
どたばととやっている間に結構な時間を使ったようで、食堂で待っているという僕の連れだと思われる人を待たせてしまった。
食堂についたら謝らないといけないかな? まぁ奴らだとしたら……いいか別にそのままでも。
部屋を出てさっき行ったトイレとは反対方向に進めば開けた場所にでる。広い室内の真ん中に大きなテーブルがあり、その周りに椅子が何脚かおいてある。どうやらここが食堂のようだ。
その室内で椅子に座る2人の男がこっちを見ていた。
とりあえず、1話目です。
早く冒険ができるように頑張りますw
陽向と武田さんサイドの話しを外伝に移しました。
誤字・脱字があればお知らせください。
ご意見お待ちしております。




