第4話 これ以上に緊張することはもはやないのでは?
「⋯⋯」
約束の日がついに訪れてしまった。
現在の時刻午前10時、そろそろ向かわないと遅刻してしまうのだが──
「服装、なーんも考えてないな⋯⋯」
寝転びながら、ぼんやり呟く。
さてどうしよう、服装以前に女子力を得るための勉強すらしていない。
だって記事を見ても何言ってるかわかんないし、似合う服で検索しても顔タイプ診断とかパーソナルカラーとか、訳わかんないのばっかだったし⋯。
もはや勉強しようとしただけ褒められてもいいのでは??
「そんなことより、どうしようどうしよう⋯!」
時間もあるわけじゃない、急いで決めないと初対面なのに遅刻する⋯!
「えっと、みんな大好きパーカーとかは⋯」
たしか、クローゼットの奥の方にショート丈の白パーカーがあったはずだ。
「あった!なんか可愛らしいリボンがついてるからあんまり着たくなかったけど⋯⋯今はそんなこと言ってる場合じゃないよな⋯」
適当にみつけた黒スカートも履き、鏡の前に立ち鏡の中の自分を見つめる。
「変なところは無いはず⋯でもでも、スカートが少し短いような⋯まぁいっか、やっぱり白と黒は最強!」
その後も念の為鏡で変なところがないか何度も何度も確認をしていると、いつの間にか時間ギリギリになっていて大慌てで家を出た。
外に出ると秋風が吹き、心地よい風が包み込んでくれるようで、暑くも寒くもない、ちょうど良い季節になっていた。
「胃薬飲んだっけ⋯」
俺は季節を気にする余裕はなく、迷子になりませんようにと何度も心の中で呟き、胃薬を飲んでから電車に乗った。
「やっとついた⋯」
電車に揺らされること早十分、ようやく目的駅につき、息付く暇もなく、地図を見ながら集合場所にと歩き出した。
電車に乗ってる間も歩いてる今この瞬間も、ずっと心臓がバクバクなってて気持ち悪い。
鏡の前で何も分からないくせにずっと棒立ちしたり一回転して時間を無駄にしやがった奴を恨みながら重い足取りで動くが──
「あ、ついちゃった⋯」
駅から割と近かったようで、心の準備が全く出来ていないのにも関わらずもう到着してしまった。
「う、うぅ⋯覚悟決めろ俺⋯⋯」
緊張で震える身体を無理やり押し出して集合場所であるNEO本社に中に入ると、ちょうど良いタイミングで夜空さんからメッセージが届いた。
【もうつきました?エントランスの右の方にある食堂前で待ってます、今私1人しかいないのでおそらくわかるかと】
もう夜空さんは待っているらしい。
【わかりました、ちょうど私もついたので向かいますね】
右で食堂前となると⋯あそこか。
確かになんかそわそわした人がいるような。
「あの⋯⋯」
「はい!あ、この声はもしかして⋯⋯ママ、ですか?」
「あ、はい⋯ママ、です」
思っていてた通り、夜空さんはやはりリアルでも可愛いらしい。
「ママ!やっとお会い出来ましたね!」
なんていうか、大和撫子みたいな雰囲気というか、天使というか、雰囲気すらも清楚というか。
かなり若くも見えるし、もしかして学生さんなのだろうか?
「夜空さんって、学生さんなんですか?」
「はい!私の名前は夜空ノ永遠こと、桜小春、高校2年生です。ママのお名前はなんて言うんですか?」
「えっと⋯⋯」
確か、この身体の名前と年齢は⋯⋯
「私の名前は水野雪、20歳です」
「⋯なんだか、ママと話しているとびっくりすることが多いです⋯まだ20歳なのにあんなにすごいイラストを描けるんですね」
「あ、ありがとうございます」
こうも素直に褒められると、桜さんより年上とはいえ流石に照れちゃうな。
年下なのにコミュニケーション能力が俺よりうんと高いし、それに褒めるのも上手いしで、なんか何もかも桜さんに負けてる気がする。
「そうだ、お昼ご飯ってもう食べました?食べてないなら、ご一緒いかがでしょうか」
「あ、はい。私も、食べたいです」
桜さんが歩き出すと、俺も追いつくように隣を歩く。
隣に並んで歩いてみると、桜さんの顔の良さをさらに引き立たせる。
ほっぺとかツヤツヤだし、触ったら気持ちよさそう⋯⋯。
「どうしたんですか?ママ」
「いや⋯なんでもないです」
そうですか?と首を傾け、少し不思議そうな視線を俺に向けてきた。
席につき、何を食べるか悩んでいると、周りの人が食べてるハンバーグ定食があまりにも気になり食べることにした。
「ママってその服、自分で選んだんですか?」
「えっ⋯⋯は、はい、ダサかったですか?」
適当にネットで見たものはまずかっただろうか。
黒と白のコンビは間違いないはずなのだが⋯もしかして、女性の世界はそんなに甘くない⋯!?
でもでも、俺が見た時は悪くないように見えたんだけど⋯⋯
「あ、違います!とてもオシャレだなって思いまして。ママは絵だけじゃなくてファッションの方にもきちんと力を入れているんですね」
少し困り眉になりながら、誤解を解こうと慌てて服装を褒める。
「⋯そう、ですかね」
「はい、そうです」
ニコニコと清楚で眩しい笑顔を撒き散らす桜さんをみていると、ネットで適当に選んだなんて言えないな⋯⋯と思った。
「あ」
「どうかしましたか?ママ」
そういえば、服装を褒められた時は褒め返すべしってどこかの脱陰キャサイトで見かけた気がする!
桜さんの服装は⋯⋯えっと、胸元に藍色のリボンに白色の服を着ていて、チェック柄のスカートで⋯⋯
知識が無さすぎてなんて名前の服装なのかすらもしらないけど、今視認できる範囲の情報を必死に集めた。
のだが⋯⋯。
「⋯⋯」
集めたものの、どう褒めたらいいのかわからず、結局思ったのは「オシャレなとこの学校の制服ってこんなだったりするのかな?」と、そんなくだらないことだけ。
「えっと⋯そんなに見られると照れると言いますか⋯⋯」
桜さんは頬を赤く染めながら少し恥ずかしそうに視線を逸らし、普段の声よりも気持ち小さな声で呟いた。
「すみません⋯えっと、その⋯可愛いです」
「えっ⋯」
言葉が何も出てこず、結局思ったことを率直に伝えることしか出来なかった。
「脱陰キャはまだ俺には早いかぁ⋯いや、褒めれただけでも偉いのでは⋯⋯いや、可愛いなんて誰でも言えるし、だめか」
──小声で独りブツブツ呟いている雪は、目の前にいるさっきよりもずっと赤く染めて俯いている子に全く気が付かず、1人反省会を開催していた。




