偉そうな5日 ≪苦しみが増えるたび≫
『苦しみ』を倒す魔法少女は、みんなの人気者。鏡の中には、ますます注目を集める私が映っている。
「悪くはないかも?」
……あらあら。今の、聞こえてた?
偉そうな5日 ≪苦しみが増えるたび≫
『苦しみ』――それは人々の痛みであり、心の傷。その苦しみを浄化することが、魔法少女たちの使命だ。
「もうやめてください!」
『苦しみ』は、魔法少女だろうと一般市民だろうと構わず、無差別に攻撃してくる。一歩前へ踏み出したみずえは、水を使って大きなバリアを作り、『苦しみ』の攻撃を防いだ。
「おい、カメラを回せ!」
撮影監督の号令で、カメラが一斉に回り始める。カメラマンたちは、一斉にレンズを向けた。レンズの先にいるのは、もちろんみずえだった。
「今、水の少女である泉みずえさんが、『苦しみ』を説得し始めました!」
すべての視線とライトが、みずえを照らす。平静を装うみずえだったが、心の中では歓声を上げていた。今は戦闘中。勝利の笑みが漏れないように、表情を引き締めなきゃ。
「どんなに苦しくても、辛くても、絶対に諦めてはいけません!」
「ぐおぉぉ……」
「水の子の説得により、『苦しみ』の動きがさらに鈍くなりました!」
リポーターの熱い実況に、人々は歓声を上げた。その間、そらはしおりを振り返った。
「チャンスだよ、しおり!」
「……」
しおりの植物たちが、『苦しみ』の足元に芽吹いた。『苦しみ』の動きが封じられると、そらは急いでサンを呼んだ。
「サンちゃん!」
「わかってるってば!」
サンは面倒くさそうに髪をかき上げた。サンが空に杖を振ると、人々の希望が光となって集まる。希望の光によって『苦しみ』は浄化され、消えていく。
「愛こそがすべての感情の源。その事実が、いつかあなたに伝わるまで――」
みずえは胸に手を当て、消えゆく『苦しみ』の欠片を切なげに見つめた。スポットライトの中心にいるのは、いつだってみずえだった。素晴らしい言葉と美しい行動、華やかな魔法、優れた笑顔。
(主役は当然、私でしょ?)
光となって消え去る『苦しみ』をちらりと見ながら、みずえは頬が緩むのを必死でこらえた。
「みんな、お疲れ様!」
「お疲れ」
「これくらい当然のこと!」
(はやく帰りたい……)
戦いが終わっても、テレビ局のスタッフにはまだ仕事が山ほどある。特ダネを追う記者は、さらなる特ダネを狙う。だから彼らは常に忙しい。
「急ぐんだ! 今日も駄目だったらクビなんだよ、クビ!」
テレビ局の記者が素早く四人のもとへ駆けつけてきた。
「少々お時間をいただけますでしょうか? インタビューをさせていただきたいのですが、よろしいでしょうか?」
「申し訳ありませんが、これ以上の取材は控えるよう言われていますので――」
「おほほほほ! 私をお探しでしたか?」
頭を下げるそらを押しのけて、みずえは堂々と前へ出た。間に合ってよかった、と安堵の息を漏らすみずえを見て、サンは呆れた。そらは慌てて手を伸ばしたが、みずえはそらの手を振りほどき、記者のもとへ向かう。
「そのインタビュー、私が受けます」
「本当ですか?」
「もちろんです。他の子たちは興味ないみたいですし」
「好みの問題じゃなくて、約束の問題でしょ? マスコミとは関わらない約束! もう忘れたの?」
その瞬間、みずえの顔に無数の感情が浮かんだ。しかし、記者たちの前で生の自分は見せない。
(スーパースターになるためには、我慢しなければっ!)
みずえはにっこり笑いながら、記者に近づいた。
「みずえ! ダメだってば!」
「あんたたちは先に行って。私にはやるべきことがある!」
その言葉だけを残し、みずえは記者のほうへ進んだ。そして、喜んで取材に応じた。
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「カット、オーケー!」
「お疲れ様でした!」
みずえがインタビューを受けている長い間に、サンは買ってきたわたあめを食べ終わった。そらは公務員と『苦しみ』の出没地域を調べ、しおりは持ってきた科学雑誌を読み続けた。
「終わったの?」
「あらあら、待っててくれたの?」
「待たされたんだよ! もう、はやく帰りたかったのに!」
「あんた、口元にまだわたあめ残ってるけど?」
お互いを睨む二人の視線に火がつく。
「出発する」
「わっ、待ってください! 私、これからテレビ局で収録があるので!」
「そんなことは早く言ってよ!」
「はぁ? じゃあ、あんたも私の隣で大人しくインタビューを受けてればよかったんじゃない?」
「ちょ、それどういう意味なの?」
「一緒にいたら、収録のことも聞けたはず!」
「なにそれ!」
みずえは指で下まぶたを引っ張り、あっかんべーをした。サンはすぐにでも飛び出そうとしたが、そらに引き止められた。
「我慢して、サンちゃん!」
「こてんぱんにしてやる!」
「こっちのセリフよ!」
「みずえも止まって!」
(いつ帰るんだろう……)
そらの仲裁で、みずえはテレビ局へ向かい、他の子どもたちは家へ帰った。
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「みずえ、昨日のインタビュー見たよ!」
「とても綺麗で、とてもかっこよかった!」
「べつに大したことじゃない。今週の土曜もテレビ局に行くんだ」
「ええ、また?」
「雑誌のモデルになってほしいって。今度は私一人で」
「本当なの?」
「もちろん」
「わあっ、すごい!」
これは三人だけに向けた話ではない。クラス全員への挑戦状だ。CMの時は魔法少女全員で撮影したけど、今度は違う。輝くのは私一人だけ。みずえの大きな声に、教室にいる皆が三人をちらちら見た。
「マジかよ」
「嘘じゃないけど……」
「ええ、サンちゃんはやらないの? なんで?」
「そ、それは……」
サンがためらうと、そらが立ち上がった。
「約束だから」
「そらちゃん……?」
「私たちは国を守るために選ばれた存在だから。アイドルではない。だからインタビューはNGだよ」
「前回の広告は?」
「公共広告ならOKなの」
「……じゃあ、危ないんじゃ」
「危ないよ。なのに、どうして政府は止めないのかな……」
「そうなの。何か変。だから、そらちゃんとずっと話していたんだ」
そらの親友が会話に参加した。そらと腕を組んだ少女は、首を傾けてそらの肩に寄りかかった。
「約束を破ってるのに何もしてない……むしろ、『待ってました』と言わんばかりだよね」
「おかしすぎる。わざわざ向こうから近づいてきたみたいに……」
「いやだ……それじゃ、まるで罠みたいじゃない」
「まさか。そんなことない。絶対にない。だってあなたたち、魔法少女でしょ?」
「そう。そらたちがいなければ、大変なことになるよ?」
「それは……そうだけど……」
そらは不安そうな視線でクラスの皆を見つめた。その間、みずえは自分の美しさを友達たちに説明していた。
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やがて週末がやってきた。みずえは雑誌のモデルになるため、スタジオに到着した。スタイリストがみずえにずっと話しかけてきたが、みずえはカメラマン以外の人とは言葉を交わさなかった。
「君が水の子なのかい?」
「まあ……」
「きゃわいい!」
その一言が、みずえの心を浮き立たせた。自信満々になったみずえは、座ったまま背筋を伸ばした。
「あのドレス、着てみない? いやいや、やっぱりピンクよりブルーのほうかな? 水と言えば海、海と言えば夏! 涼しげな服も似合いそう! ああ、どうしよう!」
「どっちでもいいです。私、どんな服でも似合いますので」
みずえは涼しげなワンピースを選んで着てみた。衣装が決まると、次はメイクの番だった。
「肌じゃないみたい、まるでシルクだ! 秘訣はなに? 教えてくれ! お姉さんにだけこっそり!」
「……洗顔をしっかりしてるだけです」
小学生らしくない濃いメイクを終え、みずえはカメラの前に立った。
「さあ、こっちを向いてください!」
シャッターが切れ、フラッシュが光ると、みずえの時間がそのままフィルムに溶け込む。
「どうか、インタビューもお願いします。みずえちゃん……でいいですか?」
「じゃ、私も! 武お兄さん~!」
「わはは~! みずえちゃんは人懐っこいですね!」
「よく言われます。みんなが支えてくれて、本当にうれしいです」
みずえはさりげなく、自分にリーダーの資質があることを強く力説する。この前の撮影で、そらが注目されたことをまだ気にしているから。あの日の光景を思い出すたびに、まだ拳が震える。
「みずえちゃん、魔法少女をやりながら、やりがいを感じる時はいつですか?」
「誰かの心を浄化して、救えた時です」
「では、辛い時は?」
「他の仲間が勝手に振る舞って、チームワークを壊す時……?」
「えええ? 魔法少女は皆仲良しなんじゃ……?」
「仲良しですが、考え方の違いもありますので。私たちはただの三年生。喧嘩したり、仲直りしたりする時もあります」
「そうなんですか?」
「まあ、皆が仲良くなればいいのに……」
みずえは両手をしっかり握りしめ、複雑な思いを胸に小さく呟いた。
「……でも、みんな私の言うことを聞いてくれて、すごくうれしいです!」
まるで自分が魔法少女たちのリーダーであるように、みずえは自分を飾り立て始める。
「さすがみずえちゃん、すごいですね!」
「当然のことです。で、次の質問は?」
「みずえちゃんの血液型と好きな食べ物は?」
インタビューは続いた。かなり長い時間インタビューを受けたが、みずえは疲れなかった。むしろ力が湧いてきて、いつの間にかキャッキャと笑っていた。
「インタビューありがとうございました」
「どういたしまして」
みずえは来月号の雑誌モデルに選ばれた。『早く来月にならないかな』、『早く発売日にならないかな』。そんなことばかり考えて、みずえは何度も寝返りを打った。
夢がいっぱい膨らみ、期待で満ちていたあの日のみずえは、自分の言葉がどのように切り取られ、脚色されるのか、想像もできなかった。




