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世紀末の小学生~魔法少女の日々~  作者: 異星人
変わらない日々
3/6

偉そうな3日 ≪太陽は月に追いつけない≫

届かない。届いていない。




偉そうな3日 ≪太陽(サン)(ルナ)に追いつけない≫




西暦2999年になっても、休み時間は存在する。授業が終わると、子どもたちはクラスで一番人気のある子の周りへ集まり、目を輝かせる。短い休み時間を、少しでも有意義に過ごしたいからだ。


「ねえねえ、私ね! Hot☆Chocoのみんなと一緒にCMに出ることになったの!」


泉みずえは胸を張ってそう言った。大きな声が教室中に響き渡り、友達と遊んでいた子どもたちまで振り返る。


「えっ、本当!?」

「すごーい!」

(魔法少女全員で出るCMなのに、一人だけの手柄みたいに言ってる)


目を輝かせている二人の同級生と違って、樹色しおりは本から目も離さず、小さくため息をついた。


「じゃあ、みずえちゃんって、魔法少女で初めて芸能人に会う人になるんだ!」

「え? まあ、その……」

「みんなにも教えてあげよう!」

「ちょ、ちょっと待っ――」

「みんなーっ! みずえちゃんがHot☆Chocoと一緒にCMに出るんだってー!」


みずえが止めるより早く、友達の声は教室中に響き渡った。


「ええ……どうなの、サンちゃん?」


真っ先に反応したのは、日音サンの友達だった。


「まあ、嘘じゃないかな」


自己中で我が儘なみずえの言うことは信じられないけれど、サンの言うことならきっと本当。だから、よそ見をしていた風吹そらの友達まで驚いてしまう。


「CMのこと、本当に本当なの?」

「うん。私たち全員で公共広告を撮るんだよ」

「みんなで……?」


そらたちの話を聞いて、今度はサンたちがざわざわし始めた。


「それじゃ、サンちゃんも出るの?」

「うん」

「なーんだ。みんな一緒なんじゃん。別に大したことないんだよね」


誰かがつまらなそうに舌を鳴らした。まるで『時間の無駄!』と言うようだ。その一言を合図にしたように、みずえの周りに集まっていた子どもたちも、自分の席へ戻っていく。


(よくも恥をかかせてくれたわね)


みずえの手がぷるぷると震える。鋭い視線を向けられた二人の取り巻きは、顔を真っ青にした。


「ご、ごめん……」

「私たち、余計なことしちゃって……」


みずえは唇を噛みながら顔を背けた。二人は慌てて、みずえの機嫌を取ろうとする。


「でも、みずえちゃんの新しいドレス、すごく似合ってるもんね!」

「そうそう! 絶対いちばん輝いちゃう! お姫様みたいに!」


その様子を見ていたサンは、呆れたように鼻を鳴らした。


「なにそれ。ほんっと情けない」


サンの言葉に、友達もひそひそと同意する。


「だよね」

「公共広告なら、サンちゃんのお姉さんも関係してたじゃん?」

「違うの! ただCMソングを歌っただけだし!」

「あっ、そうだ! ルナさんだって、魔法少女だったんでしょ!」

「ま、まあ……」


胸がチクチクする。まるで爪楊枝で刺されたみたい。いつの間にか話題は、自分ではなく姉へ移っている。だけど倒れるわけにはいかない。サンは苦い気持ちを何とか飲み込み、笑顔でい続けた。


「ルナさん、すっごく綺麗だよね!」

「芸能人みたい!」

「肌も白いし、唇も赤いし!」

「魔法もめちゃくちゃ上手じゃん!」

「それは……そうだけど……」


誰かに気づいてほしいのに、サンの微妙な表情に気づく者はいない。みんな、楽しそうに話し続けるだけ。


「なんで魔法少女は、十歳以上になると変身できなくなるのかな?」

「本当。もったいないよね」

「引退せずに、ずーっと続ければよかったのに!」

「……」


みんなが楽しそうに盛り上がる中、サンだけが取り残された気分だった。曇り空みたいな顔には、誰も気づいていない。眉間に皺を寄せたその時、男子たちの中から大きな声が聞こえてくる。


「おーい、サンさん?」

「その呼び方やめてってば!」

「なんだ、自分の名前好きじゃねえのかよ」

「もうっ……」


顔をしかめるサンを見て、男子たちはニヤニヤ笑う。


「お前、Hot☆ChocoとCM撮るんだって?」

「だから何?」

「うわ、本当なんだ」


ひそひそ話していた男子たちは、ぱっと目を輝かせた。


「じゃあ、ルナ姉さんも出る?」

「まさか! お姉ちゃんはもう魔法少女じゃないんだし!」

「おいおい、怒るなよ」

「全然怒ってないし!」


男子たちは自分たちの席へ戻っていった。サンは乱暴に席に座った。そのとき――


「みんな! 『第一波』発令だって!」


鳴り始めたブレスレットのアラームに真っ先に気づいたのは、やはりリーダーのそらだった。そらの指示で、魔法少女たちは一斉に立ち上がる。


「急ごう。座標はブレスレットに表示されてる」

「ふふっ。また私の出番ってわけね!」

(……この本、最後まで読みたかった)

「えぇーっ! 今日の給食、豚カツなのにっ!」


それぞれ違う気持ちを抱えながら、四人は変身した。


「マジプロ・チャレンジスタート! 水滴の旋律、ドロップ・プロミネンス!」

「……ねえ、なんでいつも変身セリフ言い出すの?」

「構わないでよ、もう!」

「普通に変身すればいいじゃん!」

「いやなんですっ!」


べーっと舌を出したドロップが、よほど気に入らなかったのか。ライトはむっとした顔で二人を振り向いた。


「あなたたちはどう思う?」

「それで集中力が上がるなら、別にいいんじゃないかな?」

(主人公は、これからどうなるのかな……)

「まったく話にならないっ!」


とにかく、四人は急いで集合場所へ向かった。


「お呼びですか?」

「それで、私たちの活躍を撮るカメラはどこ?」

「っていうか、怪異そのものが見当たらないんだけど」


きょろきょろと周囲を見回していた四人の頭上に、鋭い声が降ってきた。


「到着まで、二分十七秒」

「え?」


魔法少女たちがきょとんとしていると、国家公務員は冷たい声で続けた。


「到着までに三分以上かかれば、怪異はすでに人々を飲み込んでいる。次回からはもっと迅速に行動しろ」

「肝に銘じます」

「変身セリフさえ言わなければ、ここまで時間はかからなかったはず」

「こらっ!!」

「やめなさい、二人とも!」


リーダーのファイヤーが二人を引き止めた。


「水の子。次からは周囲の視線を気にせず、本来の任務に集中しろ」

「はい、はい」


しょんぼりしたドロップを見て、ライトは腹を抱えて笑った。


「ははっ! 怒られてる!」

「こ、このっ……!」

(……耳を塞ぎたい)


リーフは本気でそう思った。


「今日お前たちを呼んだのは、実動訓練のためだ」

「えー、またですか?」

「なんだ、テレビに出ないのかよ?」

「文句言っちゃ駄目だよ」

「模擬戦にも十分な価値がある。本番だと思って挑め」


国家公務員がサングラスを押し上げた。その瞬間、地面が激しく震えた。地下から巨大な鉄扉がせり上がり、ゆっくりと口を開く。その奥から、一体のロボットが現れた。


「うわっ、なにあれ!?」


ライトは思わず口を開く。


(――本気だ)


リーフは杖を握り直す。


「やだなぁ。戦うと汗かくのに」


ドロップは髪を指に巻き付ける。


「みんな、頑張ろう!」


真っ先に飛び出したのは、ほかでもなくファイヤーだった。


「はあっ!」


ファイヤーの周りに熱が集まり、一つの巨大な火球となる。火球は空から落下し、ロボットの胴体へ直撃した。


「やったか?」


しかしロボットは腕で火球を弾き飛ばす。最後に残った火球を掴むと、そのままファイヤーへ投げ返した。


「そらちゃん!」

「ちっ、汗かきたくないのに!」


飛び上がったドロップが水を放つ。


「オーシャン・スプラッシュ!」


大量の水が火球をのみ込み、蒸発させた。


「ありがとう!」

「……これ以上は手伝わないから」


そう言い残し、ドロップはロボットへ突撃する。


「くらえっ! フローズン・ストライク!」


空から巨大な氷柱が降り注ぎ、ロボットを貫いた。


「グオオオオ!」


ロボットの目が赤く光る。


(うるさい……)


リーフが手を伸ばした。大地の中に眠っていた種が一斉に芽吹き、ロボットの足に絡みつく。


「ライト!」

「分かってる!」


ライトは集中し、巨大な流星を作り出した。


「行けぇ!」


流星が飛ぶ。しかし――


「グオオッ!」

「きゃあっ!」

「!」


ロボットは拳で流星を粉砕した。砕けた光の破片がライトへ降り注ぐ。リーフは慌てて花を咲かせた。巨大な花弁がライトを受け止める。


「グオオオオ!」


ロボットが突進しようとした瞬間――その動きが止まり、そのまま崩れ落ちた。


「もうっ、余計な体力を使わせないでよ!」


ドロップは腰に手を当て、不愉快そうに顔をしかめた。ロボットは氷柱によって内部まで破壊され、ただの鉄くずになっていた。


「集まれ」


ぱん、と一度だけ手を叩く音に、皆がふと顔を上げた。四人は叱られる覚悟で、国家公務員の前へ並ぶ。


「ふむ。光の子は姉より成長が遅いな」


ライトの肩がぴくりと震える。


「ルナなら、この程度は一撃で終わらせていただろう」


ライトの拳が小刻みに震えた。その様子を見て、ドロップはくすくす笑う。


「それでは解散」


国家公務員は背を向けた。慌てて学校へ戻る四人を、スーツを着た男性は無表情に見送る。


「今回も失敗か」


彼は小さく呟いた。


「次こそ、より強力なロボットを作り出してやる」



「おかえり」


優しい声が聞こえると、サンは反射的に眉をひそめる。


「ご飯できてるよ」

「……」


日音ルナ。かつての魔法少女。その活躍は、今もなお眩しい。その後を継いだのがサン。


(どうしてお姉ちゃんは、こんなにも優しいんだろ)


姉は憎らしいほど優しい。だから好き。だから嫌い。どっちも選べない自分が馬鹿みたい。だからこそ腹が立つ。


「サンちゃん……?」


サンは返事もせず、自分の部屋に入った。優しい姉は、妹の疲れた背中を放っておけない。追いかけてくる足音が耳障り。だから、姉が入る前に扉を閉める。


「ねえ、サンちゃん。何かあったの?」

「別に」

「学校のこと?」

「違うってば」

「じゃあ、もしかして――」

「違うって言ってるんじゃない!」


ドンッ! 何かを投げつける音がした。ルナはしばらく扉の前に立っていたが、やがて諦めて台所へ戻る。部屋の中で、サンは膝を抱えた。唇を尖らせた途端、なぜか涙がこぼれた。


「豚カツ、食べられなかった……」


そうだ。全部、お腹が空いているせいだ。溢れ出す涙も。こぼれそうな不機嫌も。


「むぅっ……」


まだまだ子どもである少女。

日音サン、小学三年生。

『光の子』と呼ばれる魔法少女。

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