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最初の『猫』  作者: 炎華
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アダルトチルドレン その1


 猫は、全てにおいて、楽しいことはあまり覚えていない。

 辛かったことや、悲しかったこと、

 嫌だったことや、腹が立ってしょうがなかったことは、鮮明に覚えている。


 経験は、何度も思い出すことによって、強固に記憶されるのだそうだ。

 普通は、楽しいことは何度も思い出して記憶され、

 嫌なことはあまり思い出さずに忘れてしまうそうだ。

 残念ながら、猫の脳はそれを許してはくれない。

 楽しかったことは、すぐに消え、

 辛かったことは何度も繰り返し思い出され、

 ほんの3歳くらいの頃の記憶でさえ鮮明だ。


 子供の頃の猫。

 誰にも『猫』という存在を認めてもらえなかった。

 否定され、必要とされず、後に出会うご主人様にさえ。

 さすがに、いてもいなくても同じというほどではなかったが、

 『ありのままの猫として存在すること』

 を認めてはもらえなかった。



 お父さんもお母さんも、とても忙しかった。

 お父さんは、喘息の持病がある上に、嫌なことはすぐ投げ出す人だった。


 お母さんは、発作が起こったお父さんを看病し、

 仕事を辞めないように、目を光らせ、

 自分も一生懸命働いて、毎日くたくたになっていた。

 くたくたになって、いらいらして、その上、猫に面倒をかけられたくなかった。


 お父さんは、猫の面倒をみられるほど、大人ではなかった。

 自分の面倒を見て欲しいくらいだったろう。



 お母さんは猫に、とても厳しかった。

 大人になって、一人でも生きていけるように、と。

 だから、厳しくするのだ、と。


 いつも叱られていた。

 思い出すのは、お母さんの怒った顔ばかり。

 テストの点が悪いと怒られ、

 授業参観で、

 なぜ一人だけ手をあげないのかと怒られ、

 よそ見していたと怒られ、

 落ち着きがないと怒られ、

 ちょっと何か意に沿わないことがあれば怒られた。



 小説や漫画、アニメに、

 なぜ授業参観、運動会、文化祭、その他の学校行事に、

 親が来てくれないと気を落とす場面があるのか、猫には理解ができない。

 猫は、親にそんな弱みは掴まれたくない。

 怒るためのいい材料を、そんなことで与えたくはなかった。

 親が来られないと聞くと、心からほっとした。



 猫はいつも孤独だった。

 味方をしてくれる人は誰もいなかった。


 大好きだった田舎でも、

 誰も猫を、猫として受け止めてくれる人がいないと知って、

 更に孤独だった。



 友達、とよべる人もいたが、親にも受け止めてもらえない想いを、

 他人、それも子供が受け止められるはずもない。

 猫は、寂しかった。


 そして、勉強をすることしか、許されていなかった。

 お母さんがしたくてたまらなかった『勉強をすること』だけが許されていた。


 猫は、しないと怒られるから勉強をしていた。

 心から知りたいと思って勉強をするようになったのは、

 ずっとずっと後になってからだ。


 他は、何もなかった。

 何一つ、なかった。

 何度も消えてしまいたい、と、思った。

 生まれてきた意味も、なぜ存在しているのかも、わからなかった。

 死なないから、生きている。

 それが生きている意味だった。


 否定され、必要とされず。


 自分の意思を通そうとすれば、必ず否定され、嫌われる。

 すんなり通ることは万が一にも、ない。


 ありのままの猫でいいと言ってくれる人は誰もいなかった。

 他の誰が許してくれなくても、

 唯一許してくれるはずの親にさえ、

 猫は、猫として、存在することを許してはもらえなかった。



 やがて、あきらめた。


 なぜ許されないのか、考えることもやめた。

 いつかは、と、期待することもやめた。


 自分がやれば叶うことには期待してもいい。

 だが、何かが、そして、誰かが関わって初めて成立することは、

 期待しない方がいい。


 期待しても、裏切られることばかり。

 だったら、期待しない方がいい。

 どうせ、悪いことしか起こらない。

 だったら、最悪のことが起こることを覚悟していればいい。


 そうすれば、傷つかなくて、済む。

 ああ、やっぱり、と思えば済む。


 猫は、そうやって 大人になった。






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