兄弟姉妹の原理3 お母さんの場合 その1
お母さんは9人兄妹の2番目で、長女だ。
よく考えてみると、実際にお祖母ちゃんがお母さんに冷たかった、
という印象は猫には感じられなかった。
お母さんの、自己申告のみである。
ただ、猫が経験したことで、
「ああ、そうだったのか。」
と、思い当たることは多々ある。
例えば・・
その前に、
猫は、お母さんの実家からすると、初孫である。
3つ年下の従妹がいて、
彼女はお祖母ちゃんに可愛がられていたというお母さんの妹の娘だ。
お父さんとお母さんは仕事で忙しかったので、
猫は夏休みに、一人でお母さんの実家(田舎と呼んでいた)に泊まることが多かった。
一番最初に、なにかおかしいと思ったのは、
小学校4年生の時だった。
それまでは、あまり意識したことがなかった。
それは、自分が一番年上だからそうなんだろう、と漠然と思っていたように思う。
夏休み、田舎に行く前の日の夜、
猫が「明日行きます」という電話を入れたのだが、
先に行っていた従妹が電話にでたので、
「明日行きますと、お祖母ちゃんに伝えて。」
と言い、少し話をして切った。
お母さんに告げると、なぜ、お祖母ちゃんに直接
「明日行きますので、よろしくお願いします。」
と言わなかったのかと、ひどく怒られた。
「お祖母ちゃんはね、すごく厳しいんだからね!」
猫はとてもびっくりした。
そんなことを聞いたことは、今までに一度もなかった。
従妹もそんな挨拶をしているのだろうか?
従妹に、
「よろしくお願いします、なんて電話する?」
と訊くと、
「なに?それ?しないよ。」
なんで猫だけ「よろしくお願いします。」と言わないと怒られるわけ?
それからだった。
お祖母ちゃんに、警戒心を持ったのは。
次に、気がついたのは、
お祖母ちゃんが、菓子パンを沢山買ってきて、
「どれでも好きなのを取りなさい。」
と、言ったので、いつもはジャムパンなのだが、
今日こそはこれを、と手に取ったのは、従妹が好きなパンだった。
途端に、お祖母ちゃんが、
「それはだめっ!それはCちゃん(従妹)のために買ってきたんだから!
ほら、猫ちゃんの好きなジャムパンもあるよ。」
猫は特にジャムパンが好きだったわけではない。
お祖母ちゃんがいつもパンを買ってきてくれるお店は、
田舎の小さな雑貨屋のようなお店だったので、
種類は少なく、カレーパンとか、クリームパンなどはなく、
あんぱんのような定番のパンしかなかった。
その頃、猫はあんこが苦手だった。
それで、なんとか食べられそうなジャムパンを食べていただけだった。
そして、従妹の好きな美味しそうなそのパンはいつも一つしかなかった。
「今日はこれがいい。お祖母ちゃん、どれでもいいって言ったじゃない。」
あまりにもお祖母ちゃんが、頑固にそれはだめだと言うので、
ムキになって、猫も譲ろうとはしなかった。
いつも、譲っていた。
美味しそうなパン。
猫だって食べてみたい。
その他にも、色々なことを従妹達に譲ってきた。
ただ、一番年上だから、というだけで。
それが当然という大人の理屈が納得できなかった。
口では、「偉いねぇ」などと言いながら、
心では、それが当たり前だ、と思っている。
聞き分けのない年下の子を、
納得させて我慢させることができないから、
それが面倒くさいから、
「お姉ちゃんでしょ。」
の一言で、上の子に我慢させる。
ただ、お祖母ちゃんが猫にそれをあきらめさせる理由は他にあったのだ。
それはもっとずっと後になってから理解したことだが。
そのときは、何故そんなにお祖母ちゃんがムキになるのかわからなかった。
たまには、譲ってもらったっていいじゃないか。
パン、一つくらい。
「これがいい!」
お祖母ちゃんの、怒りを無理に押さえた引きつった顔。
それを横目に、いつも食べる縁側に行って座った。
なんでいつも我慢しなくちゃいけないのか。
家でも、ここでも!
ずっと食べたかったパンは、やはり美味しかった。
パンを食べながら、嬉しいと言うより、悔しかった。
とても悔しかった。
後で、お祖母ちゃんがお母さんに言ったことは、
「Cちゃんの好きなパンを無理矢理盗って、隠れて食べた。」
お母さんは、猫の言い分も聞かず、
猫の気持ちも考えず、
お祖母ちゃんの言葉だけを信じて、ただ怒るだけだった。
そして、極めつけが、
猫が初潮を迎えて何ヶ月か後に田舎へ行ったとき、着いた途端に生理が始まった。
いつもはそんなことはないのだが、
旅の疲れがでたのだろう、ひどくお腹が痛くなり、気持ち悪くなった。
隣の部屋に布団を敷いてもらって、横になっていた。
うとうとしていたのだろうか、襖をあける音で目が覚めた。
少し開けて、すぐに閉めた感じだった。
後で聞いたことによると、お祖母ちゃんだった。
そして、言ったことが、
「お嬢様は寝てござる。」
生理で辛いということは、お母さんにしか言ってなかった。
猫はその頃は滅多に寝込むことはなかった。
来て早々に寝込んでいるのをみれば、普通なら、
「猫ちゃんは、大丈夫なの?」
と、心配するだろう。
それが、心配するでもなく、あの言葉。
ちなみに、
従妹は、喘息の持病があった。
そして、具合が悪く、寝ていることもあった。
なのに、たった1時間か2時間横になっただけで、そんなことを言われるとは。
さすがに、猫も嫌になった。
毎年、夏と冬と春と楽しみにしていた田舎へ、
猫はその年の冬から行かなくなった。
嫌われて、疎まれているのに、わざわざ行く必要はない。
悲しくて、嫌な思いをするのなら、それに近づかなければいい。
猫はそう決めた。
それから、本当に必要な用がない限り、田舎へ行くことはなかった。




