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最初の『猫』  作者: 炎華
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同類のニオイ


 ご主人様は同級生だった。

 心惹かれたのは、同じニオイがしていたからかもしれない。



 『孤独』のニオイ。


 『自由のない』ニオイ。



 愛されたい人に愛されない孤独。

 誰一人、味方のいない孤独。


 何も、許されない世界。

 何も、与えられない世界。

 押しつけられ、自由に息もできない世界。

 『ありのまま』で、いられない世界。


 同じ、ニオイ。

 同じニオイを持つひと。

 同じニオイを持つひとなら、

 猫の味方になってくれるかもしれない。

 『猫』をわかってくれるかもしれない。

 一緒に、歩いてくれるかもしれない。

 猫を想ってくれるかもしれない。

 猫を必要としてくれるかもしれない。


 もし、そうならば、

 何があっても、貴方の味方でいよう。

 精一杯、貴方を愛そう。

 そして、全力で、貴方を護ろう。



 やがて、同じニオイを持つそのひとは、猫のご主人様になった。


 やっと、

 猫を理解してくれる人ができた。

 猫が好きだと、言ってくれる人ができた。

 猫の味方でいてくれる人が、できた。

 なんて、なんて幸せなんだろう。


 毎日、会うことはできなくなるけど、週末には、きっと会える。


 猫は、嬉しかった。

 こんなに嬉しいことはなかった。

 こんなに幸せなことはなかった。


 それからずっと、

 ご主人様だけを、見つめて、

 ご主人様のことだけ、想っていた。


 ご主人様も同じだろうと思っていた。

 しかし、ご主人様は、猫の想いと違っていた。


 猫と会えなくても、平気だった。

 寂しいとも思っていなかった。


 毎週会えると思っていたのに、会えるのは、月に一度だった。

 何ヶ月も会えない時もあった。


 我慢できずに電話をするのは、いつも猫の方だった。

 「なんか用?」

 それがご主人様の最初の言葉だった。

 久しぶりに会っても、気に食わないことがあるとすぐ帰ってしまった。

 次に会う約束など、したことがなかった。


 我慢できずに電話するのは、いつも猫だった。


 「何か用?」

 「今週?いや、忙しい。」



 ある日、約束もせず、ご主人様に会いに行った。

 黙って会いに行った。

 ご主人様はなんと言うだろう?

 どんな顔をするだろう?


 驚くだろうか?

 嬉しそうにしてくれるだろうか?


 そんなことを考えながら、ご主人様の乗るバスの停留所で待った。

 何本もバスを見送ったが、ご主人様は来なかった。

 待つのは平気だった。

 もう慣れっこになっている。


 でも 。

 もう、帰ってしまったのかもしれない。

 友達と、街に出たのかもしれない。

 今日は、土曜日だから。


 次に、バスが来たら乗ろう。

 あきらめて帰ろう。

 そう決めて顔を上げると、ご主人様が歩いてくるのが見えた。

 白いスポーツバッグを肩から下げて、真っ直ぐこっちへ来る。


 髪が、伸びたんだね。

 ご主人様が少し違う人のように見えた。


 猫に気がつくと、

 「なんでいるの?」

 驚いた顔で、言う。

 「俺が電車で帰ってたら、どうする気だったの?」



 ご主人様は、少しも嬉しそうじゃなかった。

 むしろ、迷惑そうに見えた。


 コーヒーでも、飲んでいく?

 お昼ご飯は食べたの?何か食べていく?


 そんな言葉を期待していたが、ご主人様はさっさとバスに乗り込み、

 座席に座ると、腕組みをして、目を閉じた。

 そのまま話すこともなく、猫は自分の家の近くのバス停で降りた。



 ご主人様と猫の温度差は歴然としていた。

 猫がご主人様を想う気持ちの、

 10分の1、いや、100分の1もご主人様は猫を想ってはいない。

 それがわかっていながら、なぜ「さよなら」が言えないのか。



 猫が好きになった人が、初めて猫を好きだと言ってくれたから。

 一番理解してくれて、心の支えになってくれていると思っていたから。

 それを離したくはなかったから。



 もっと早く、ご主人様から離れるべきだった。

 そうすれば、お互いに苦しまなくて済んだ。

 猫の存在がないに等しいあのときなら、猫が苦しむだけで済んだだろう。

 猫が電話をしなければ、そのまま無くなってしまった関係だったのだから。







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