10話
後日、王宮からまた例の打診が来てしまった
意味あるのかしら?ほぼ強制じゃない?
ギャレット殿下はきっとお忙しいのに…
私がお誘いしている訳では無いんだけれど
なんとなく付き合わせている様で申し訳なく思いながら馬車で移動した
殿下と最後に会ったのは
2週間程前のあの失態を晒した日だ
合わせる顔が無く緊張で固まっていた私を
ギャレット殿下は優しく迎えてくれた
建前かも知れないんだけど一先ずほっとする
挨拶を終え、案内された先は豪華なシャンデリアに暖炉があり白を基調にした壁の部屋
テーブルの上には可愛いらしいお菓子が用意してあり、どれも大好きなものばかりだ
ザッパ・イングレーゼ、パンナ・コッタ
、カントウォッチ、マカロン、スイスロール、フロランタン、ダックワーズ…
「わぁーーーー」
思わず声を出してしまう
もう一度食べたいと思っていたマデイラケーキまである!!!
「ゾーイ嬢の好きな物を取り分けよう」
全部!と言ってしまいそうになるけれど
マデイラケーキをお願いする
すると殿下自ら綺麗な花が描かれた上品なお皿へお菓子を運びティーカップに紅茶を注いだ
「…え!?……あ、ありがとうございます」
殿下自ら!?と慌てて見回すが
…部屋に誰も居ない
先程入って来た扉は開けてあり
外に近待が立っているだけだった
それなら!うん!殿下の分は私が!
高級品であろうお皿を割ったら怖いけど!
ちょっと手が震える!
「では、殿下はどれを食べますか?次は私が取り分けます!」
そう言うと殿下はお礼を言い
私と同じマデイラケーキを受け取った
なんでも殿下は
お菓子が大好きで街に買いに行くらしい
お勧めのお店を聞き
よし!絶対行こう!と心に決めながら
楽しい時間を過ごす
なんというかギャレット殿下は
私が想像していた王子様とはちょっと違う
お菓子屋さんの列に並ぶと聞いて驚いた
そういえば…ばったり鉢合わせした事で驚いて見逃してしまったけれどジェラート屋さんで会った時も並んでいた筈だ
そのうちに緊張が解けて私も話し始めると
殿下はうん、うん、と相槌を打ち聞いてくれた
寛大で気取らないし、凛としている
しかもお菓子が好きなんて可愛らしいギャップ
…うん、人として好きだ
殿下は会う度に印象が変わる
もちろん、良い意味で
公の場に出ないから皆んな知らないのね
こんな素敵な男性に口説かれたらほろっと
いってしまうんじゃない?
恋愛経験が少ない私は刺激が強すぎるわ
すぐ勘違いしてしまう、すぐ期待してしまう
そして考えてしまう
私も、あんな風にならなければ……ってね
………なーんて!
こんな欲は消してしまおう
なんて見苦しいのか
そう、他の人だったらきっとああはならない
別の女性なら殿下も…
あ、殿下は誰とも結婚したくないんだっけ?
何でだろう?女遊びとか自由が好きなタイプじゃ無さそうだし、結婚相手を大切にしそうなのにな…
男性が好きとか?
まぁ、それぞれ事情はあるし、要らないお世話ね!
気になるけど、詮索ダメ!うん!
そんな事を密かに思いながら一通りお菓子を味わった
すると、ギャレット殿下が申し訳無さそうに口にする
「ゾーイ嬢、婚約の件なんだが…」
「はい!…撤回出来ましたか?」
「それが難航していてな」
殿下は重い溜息を吐く、すまない…と
躊躇われたけれど何故なのか知りたかった
「理由を伺ってもよろしいですか?」
「弟が関わっていてな、婚約しろと一点張りで
俺も理由が分からず難境だ」
え、何で?…弟?
難しいという事は王太子殿下かな?何か思惑が?
実家と関係があるのかと一瞬ヒヤヒヤする
でも、だ、大丈夫よ!
あのお父様やお母様だもの!お兄様も皆んな欲がなく、後ろ暗い事など一切無い筈だ!
「暫くは今まで通り呼ばれるが迷惑では無いだろうか?」
「とんでもない!婚約は受け致しかねますが…
お菓子は大歓迎です!
それに友人としてと言ってもらえて嬉しかったのですよ!…お分かりかと思いますが私は変わっていて友人が居ないので!」
情けないが本当のことだ
隠さずそして暗くならない様にカラッと笑いながら伝える
嬉しいというのも嘘じゃ無い
次なんてあってはいけないのに
またお勧めのお店を聞きたい
一緒にお菓子が食べたいと
ほんの少し期待してしまう自分もいた
ーー楽しかったから
だから殿下の言葉に少しホッとした
そんな自分に苦笑いする
ふとした瞬間
片隅に潜む罪悪感に蝕まれながらも
進まなくてはならない




