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ギャレット③

国周辺の領域、海域の警戒や海上の安全確保

訓練等の仕事がひと段落し甘い物が欲しくなる

机の一番上の引き出しを開けると銀色の箱

その蓋を開けると中には色取り取りのお菓子の包み紙で溢れていた

その中から他と比べて地味な色味だが目に止まったオレンジゴールドと茶色のキャンディー型の包装を選びチョコレートを一つ口の中に入れると口の中に甘さとほんのり苦味が広がった



もう一つ食べようかと手を伸ばし思い立つ

しばらく仕事が立て込み慎んでいたが

今日、この後行けないだろうか


もう発売してから数日が経つ

『フェリーチェ』の新商品がずっと気になっていた


ジェラート自体の改良は無いが

濃厚で後味がスッキリとするとても美味しい

それをマリトォッツォに挟み数種類のナッツをのせ、チョコレートソースを掛けてあるらしい

マリトォッツォに掛けるチョコレートソースやジェラートと一緒に挟む生クリームも自家製だ


並ぶだろうから

休憩を多く取り向かう事にしよう


重要な案件の書類は既に終えている

残った物は休憩後に…

今日は城へ帰る理由も無い

軍で仕事を終わらせ、そのまま泊まればいい

段取りをつけ部下に後の事を任せた

彼は任務を聞くと短い返事をし去っていった


俺の管轄する海軍は貴族や平民どちらも居るが

どうしても階級が上にいくにつれて貴族が多くなり、階級が低い者と関わる事は少ない

かなりの実力者なら別だが、より教養がある者が選ばれる為に先程仕事を任せたのも子爵家の次男だ

伯爵家以上だと主に弟達の管轄になる


平民ならば顔に傷があったとしても敬遠される事は無いが街では眼帯が目立つ

帽子を深く被り顔を隠し

服装も溶け込む様に数枚用意してある中からシャツに薄いジャケットとズボンを選び出立する


貴族達から敬遠されている理由の一つは

顔に傷がある事だ

騎士ならば名誉の傷だろうが、美しさを求める者達にとって顔の傷は不寛容だ


大きな理由のもう一つは

その傷が出来た事件が原因だった






屋台の前に着くと案の定、行列が出来ていて

足速に列に並ぶ


屋台は真っ白な手押し車の様なデザインで屋根も白い

ジェラート型と星が交互に並ぶガーランドがぶら下げてあり

横には木に立て掛けられたブラックボードに新商品の案内が書いてある

若い女性にとても人気だ


最初は並ぶ事に抵抗を感じたが

今では気にならない

いや……後ろに並んだ恋人達が少し気になるが

前で無いだけマシだろうか…

目のやり場に困りそうだ



新商品は3種類のジェラートから選ばなければならない


うーーん、バニラ、ピスタチオも美味しいが

今回はチョコにしよう


注文を終え左のスペースで待っていると

見覚えがある顔が通る


ーーーゾーイ嬢…だよな?

何故ここに?

どうやら彼女も注文をした様だった


他人のそら似かとも思ったが

黒子の位置も一緒な訳がないな


普段は上品でシンプルなドレスを着ているが

今日は大きな襟に膨らんだ袖、裾にギャザーがついた可愛らしいワンピースを着ていた


彼女もここのジェラートが好きなのかと思うと何故か嬉しかった

お菓子の好みが合いそうだからか

話がしたいと思ったのか…店員から品を受け取ると思わず声を掛けてしまった


「ーーーーゾーイ嬢…?」


彼女は辺りを見回し、連れの男はこちらを睨む

どうやら彼女も気づいた様だが

男が透かさず俺と彼女の前に立ち塞がる



「…私だ」


彼女は困惑している様だ


気付いてもらうには顔を見せるのが一番か…

俺は幾分かしゃがみ帽子を上げる

左手で帽子を持ち眼帯を僅かに隠しながら片側が見えるようにする


途端に彼女の表情が一変した

目を見開き微動だにしない

息をしているだろうか…



立ち塞がっていた男も三歩下がり頭を下げた


「この度の不手際は非礼この上無いことと謹んでお詫び申し上げます」


「あぁ、気付かなくても仕方がない、仕事をしていただけだろう?」


帽子を深く被った怪しい男が近寄れば

警戒しない訳が無い


「はい、私キャデロン家従者のコーディー・ボリニと申します」


「そうか、コーディー

私も不用意に近付きすまなかった」


「ご厚情痛み入ります」



俯くゾーイ嬢に目線をやると

急にガバッと従者の腕を掴み引っ張る


「に、兄さん早く行きましょ!」


「兄さん?」


今度は俺が困惑する番だった

彼女と従者のコーディーを交互に見た


「先程、謝罪と共に挨拶を受けたが…」


複雑な…生い立ち…なのか?


それを聞いたゾーイ嬢は顔を蒼くさせ

手で顔を覆ってしまう


「…ゾーイ嬢?」


「申し訳ございません、でん…、…不敬をお許し下さい」


気を取り直した様に綺麗な動作でお辞儀をする

が声が細々としていて、心なしか項垂れている


あぁ、兄では無く

知らぬ顔をしようとした、と


悪気は…無いのだろうが

等閑視されるとは思わなかったな

以前も思ったが無邪気で好感は持てるがどこか残念な彼女は社交場で大丈夫なのだろうか…

巧言令色な腹黒い奴も多い貴族らと渡り合えるのか心配になってしまう



「気にしなくて良い、…君も新作を?」


「はい、偶然ですが…運が良かったです」


弱々しく返事が返ってくる

気にするなと言っても無理か


「ここは公の場では無いし問題無い…ただ、少し寂しく思っただけで怒ってはいないよ」


それは本心で憤る事など無い

ほんの少し寂しく感じたのも本当だ

彼女とお菓子を語る機会を楽しみにしていたのだ


「ありがとう…ございます、あ、あの!…その、実はこれ子供服なんです…サイズが無く、なので…恥ずかしかったのです」


それは…なんとも…



返答に困っていると

彼女が何かハッとしコーディーを見た

すると先程サッと新商品を取りに行った

従者が品を渡す

ゾーイ嬢がほっとした様に笑顔になった

それを見て自身もほっとする


少し躊躇したがゾーイ嬢が恥じらいながらも避けた理由を曝け出してくれた事で誘う事ができた


「もし良ければ一緒にどうだろう?」


道の端にある幾つかのベンチの一つへ移動し

何を話そうかと考えていると目線を感じた

 

「ーーー恐るべし、美形」


…は?


聞き間違いか?とも思ったが聞き返す

「……恐るべし、…美形?」



ゾーイ嬢がビクッと肩を揺らし固まる

ガクガクとブリキのおもちゃの様な動きをし

従者を見て無言のやり取りをした後


勢いよく此方に振り返り言葉を発する


「いえ!お顔が整ってらっしゃるので」



ーーーー顔が整っている?


誰がーーーー



ーーー俺の…事か…?



ゾーイ嬢は顔を真っ赤にして

真っ直ぐ俺を見ていた



きっと、彼女でなければ…受け入れられないな



俺に媚びへつらいや機嫌取りをしてくるなんてよっぽどだ

その先に何を企んでいるか疑っただろう



だが、美形とは…美しい顔か…

確かに母は美しかった


だけれど俺は傷がある

貴族は皆、気にするが彼女は気にならないのか?


やはり、少し信じ難いか…?


もし、もしも

先程の言葉が本心ならば


どんなに救われるだろうか

素直に嬉しく思う



視線を落としてもう一度

彼女を見る



ふわっとウェーブがかった

オレンジブラウンの髪に澄んだブラウンの瞳


彼女は困った顔をして此方を見て微笑む

その姿がーーー


とても可愛らしく


避けられる事は慣れた筈だが

一緒に居たいと思うなんて、どうかして居るな




間違えている言葉があるかもしれません

挨拶もこれで良いのか自信がない

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