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24 悪魔の消滅

 クレイオは、東部地区から一人西部地区へ戻って来た。クレイオの足下には、クラトの体が横たわっている。

 クレイオは、目を細めて睨むような眼差しで見詰めていた。その目には、紅く光る物が見えていた。

 それは、ずっとずっと昔、クラトの先祖に植え付けた物。その後、メランブラッド家の直系男子に受け継がれてきた物。それが、メランブラッド家をこの地に縛り付け、裏切りを強制的に阻止してきた。

 この地を平和に導く為には、メランブラッド家の始祖であるダレスには、不可欠な物だった。しかし、代を重ねる毎に荒々しさはなりを潜めていった。それと共に紅い光が鈍り効力も弱まって来ていた。このまま、消滅してしまうと思われた。しかし、その光がクラトによって復活してしまった。

「クラト、あなたはダレスによく似ています。顔や体つきだけでなく、考え方も……。私は、何度もあなたにチャンスを与え、何度も話し合いをしたつもりです。それをあなたは、尽く裏切ってくれました。私の導きの力が足りなかったのでしょうか? とても残念でなりません。私はもう、あなたを救う事は出来ません。さようなら」

 クレイオは、そう言うとクラトの体の上で一度手を叩いた。すると、その音と共にクラトの体は、灰と化し一陣の風にさらわれてしまった。

 これで、クラトの魂が帰る器が無くなってしまった。

 クレイオは、西部地区を見渡した。ダイロの体を乗っ取ったクラトとルナディクトが、戦っている姿が遠くに見えた。

 西部地区は二人の戦いのために、地形が今までのものとはだいぶ形を変えてしまっていた。

 クレイオは、大きな溜め息を一つつき、遠く離れた場所で戦う二人をじっと見詰めた。少しでも早く、クラトの魂を楽にしてあげたいと言う祈りをこめて……。


 クラトは、時間が経過していくにつれ、ダイロの体に魂が馴染み、クラト本来の力を制限なく使うことが出来るようになっていた。それが突然、地面を転げ回り唸るような叫び声をあげだした。

 あまりの突然の事に、ルナディクトはその場に立ち尽くしてしまった。その時、ルナディクトに声が聞こえてきた。

『ルナディクト、クラトの体を消滅させました』

『だから、苦しがっているのですね』

『あなたは、暫くクラトに触れないで下さい』

『どうしてですか?』

『あなたが触れてしまうと、苦しみが和らいでしまいます』

『ならば、なおさら僕が』

『いけません!』

 ルナディクトをクレイオの強い口調が遮った。

『先生、どうしてですか?』

『もう、良いのですよ。彼を楽にしてあげたいのです。それに、その体をダイロに返さなければなりません。ダイロを待っている者がいるのですから……』

『しかし……』

『ルナディクト、クラトは苦しみに耐えきれず体から出てくるでしょう。それを捕まえなさい。あなたの魂を取り戻すのです』

『分かりました』

 クレイオとの会話が終わるとすぐに、クラトの魂が体から飛び出してきた。それを、ルナディクトが両手で捕まえた。しかし、最後の抵抗かルナディクトの手の中で、暴れ始めた。

『ルナディクト、私があなたの魂を引き出すわ』

 ルナディクトの心の中で、ティアナが声を掛けて来た。

 ルナディクトは両腕に温かい物が、通るのを感じた。そして、その温かい物が一瞬感じられなくなった後、大きな力が体の中に満ちるのを感じた。

 ルナディクトの欠けていた魂が戻ったのだ。それと同時に、ルナディクトの手の中のクラトの魂は、何の音もたてることなく消滅してしまった。

『上手くいったようですね、ルナディクト。では、ダイロの体を一度浄化させましょう』

クレイオの声が頭の中でまた聞こえてきた。

『どうすれば、いいのですか?』

『そうですね……。あなたの血液が一番良いでしょうが、今のダイロの体には耐えられないでしょうね……』

『では、アイリスの血液ならどうでしょう?』

『アイリスは、東部地区で眠っていますよ。起こすのは可哀想ですね』

『僕、アイリスの血液を預かっているのです』

『そうでしたか。では、すぐに飲ませて下さい』

 ルナディクトは、ダイロの体をそっと起こし、アイリスから預かっていた血液を口の中に入れた。すると、ダイロの体は、紅い光に包まれた。そして、みるみるうちに五歳くらいの少年の体になってしまった。

『先生、ダイロの体が……』

『どうしました?』

『ダイロの体が、縮んでしまいました』

『縮んだ?』

 クレイオにも思いもつかない事態が起こった。クレイオは、慌ててルナディクトの元へと駆け付けた。

 ルナディクトが抱えていた少年は、スヤスヤと穏やかな寝息をたてていた。その表情は、遊び疲れた子供のようだった。

「ルナディクト、これは……」

「先生、とっても懐かしいでしょ。ダイロはこんなに可愛かったのですね」

 クレイオは、ダイロの体を隅々まで調べた。何処にも異常はみられなかった。それどころか、今まであっただろう物が姿を消していた。そして、他の者と同じ体に変化していた。

「ルナディクト、あなたは、ダイロに何かしましたか?」

「僕は、アイリスから預かった血液を口に入れただけです。他には何もしていません」

「本当に?」

「本当です」

「信じられない。ルナディクトと同じような力を持つ者が他にもいるなんて……」

「先生、でも彼女はダイロ限定かもしれませんよ」

 ルナディクトが、悪戯っぽい笑みを浮かべると、クレイオは納得したのか小さく笑んだ。


 体に魂を戻されたダイロは、今までの記憶を全く持っていなかった。それは、ダイロにとっても良かった事なのかもしれない。

 ダイロはその後、マーサに預けられラディと共に育てられる事になった。


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