表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
23/26

22 魂の保管者

 東部地区のヴァンパイア夫婦の間に生まれた五歳児。

 カマルの頭の中には、数人の子供の顔が浮かんでいた。その子供たちは、皆両親を失った子供たちだ。カマルの母マーサが、そんな子供たちを引き取り育てていた。その中には、ヴァンパイアの子供も数人いた。

 カマルは、一番先にマーサの元へ飛んだ。

 マーサは、隠れ家にほど近い地下空間で子供たちと一緒に暮らしていた。その空間へ入るためには、マーサとの血の繋がりが確認される。子供たちを安全に育てるためだ。

 カマルは、その入り口のドアの前に立つと人差し指を噛み一滴の血を、入口にある受け皿にポタリと滴らせた。すると、ドアは半透明になった。そこをカマルは躊躇する事無く通り抜けた。

 中は、相変わらず子供たちの元気な声が響いていた。子供たちがカマルの姿を見つけると、我先にと走り寄って来た。

「お兄ちゃん、久しぶりだね」

「なぜ、ちっとも来てくれなかったの?」

「早く、一緒に遊ぼう!」

 子供たちは、カマルをグイグイと奥へと引っ張りだした。

「ごめんね。ちょっと急いでいるんだ。遊ぶのは、また今度ね」

「どうしてだよ」

「せっかく、来たのに」

「ごめん、ごめん。それより、母さんは居るかな?」

「居るよ。今日はルーナが熱出して寝ているから、一番奥の部屋にいるよ」

「そう、ありがとう」

 カマルは、子供たちに纏わりつかれながらも、一番奥の部屋へと足を運んだ。

「母さん」

 子供用のベッド傍に座っているマーサに声を掛けると、マーサはとても穏やかな顔でカマルを見上げた。

「どうしたの? ルナディクト様が大変な時に、あなたは呑気に母親の顔を見に来たの?」

 マーサは、閉鎖された空間にいても、国内で起こっている事を全て把握している。

「とぼけたこと言っていないで、協力してよ」

「フフフフ……、分かっていますよ。お前が探している子は、ここに居ます。名前はラディ。お前が連れて行けるようなら、連れて行きなさい。でも、ちょっと難しいかもしれないわ」

「どうして?」

「それは、会ってからのお楽しみ」

 マーサは、意味深な笑みを浮かべた。

 カマルは、マーサに案内されてラディの元を訪れた。ラディは、部屋の隅で一人で絵を描いていた。その絵は、地下空間で暮らしている子供が見た事がないはずの景色が鮮明に描かれていた。

カマルは、ラディの隣に座ると話しかけた

「ラディ、この絵は僕が小さい頃に見た景色とそっくりだ。君も見たことがあるの?」

「……」

「この絵の中にある、大きなお屋敷は、この国の王様のお家だよ。その左手前にあるこのお屋敷は、僕が小さい頃遊んだ事のある人が住んでいたんだ。彼はね、ある人の従者だったんだ。主思いの人だったんだよ」 

 カマルは、ポイニーブラッド家の次に、メランブラッド家を指さした。ラディは顔を上げ無表情のままカマルをじっと見詰めた。

「僕も、ある人の従者でね、主に仕える前は、同じ学校に通っていたんだ。ほら、この絵の右端にある建物、これがその学校。他にも数人の友達が通っていたんだよ」

 ラディは、カマルから目線を逸らすことなくじっと見詰め続け、話に耳を傾けていた。

「その学校ではね、みんな仲良しだったんだよ。学校を卒業すると、従者として主に仕える生活が始まったんだ。だから、それ以来彼とはあまり合わなくなっちゃったんだ。でもね、僕は彼の事を今でも友達だと思っているよ」

 カマルの言葉に、ラディの表情が柔らかくなった。

「ラディ、君の中の眠っている記憶にも楽しかった思い出があるのかな?」

 前世の正確な記憶をもって生まれ変わる人物は、とても少ないだろう。しかし、ラディは絵を描いている。もしかしたら、他にも記憶があるのかもしれない。カマルは、ほんの少しの期待を込めて尋ねた。

 ラディは驚いたような表情を浮かべたが、にっこりと微笑んだ。

「君の遠い記憶の中には、誰が居るの?」

 カマルの質問に、ラディは少し考えるように小首をかしげると、傍にあった小さなスケッチブックに、絵を描きはじめた。ラディは、迷うことなくペンを走らせた。

 ラディは、絵を描き終わるとカマルに見せた。そこに描かれていたのは、ラゴスとその両親だった。描かれた三人は、微笑みを浮かべている。

「他には? 例えば、このお屋敷に住んでいた人はどうかな?」

 カマルはメランブラッド家を指さして質問した。ラディは少し考えてから首を横に振った。

 ラディの魂は、ラディ自信を守る為に、前世の記憶の一部を消去してしまっているのかもしれない。それでも、今はこの子が必要だ。

「ラディ、今、とても困っている人が居るんだ。その人を救う手伝いを僕と一緒にしてくれないかな?」

 ラディは、ポカンとカマルを見詰め返した。

「ラディ、お願いだ!」

 カマルはラディの前で頭を下げた。すると、ラディは、カマルの額に右手で触れた。

『どうして、僕なの?』

 カマルの頭の中に、声が響いた。

『僕は、なんにも出来ないよ』

「そんな事は、ないんだよ。この絵を描いているじゃないか。この絵も、そのとても困っている人に見せてあげたいんだ」

『じゃあ、この絵をあげるよ』

「君も一緒に来てほしい。その人の前で、たくさんの絵を描いてほしいんだ」

『でも、僕はここを出たくない』

「どうして?」

『怖い。僕が僕でなくなっちゃうような気がする。だから、嫌!』

 マーサの決壊が張られているこの空間が、以前ラゴスだった魂に安心を与えているのだろう。そして、そこから出る事で、再び自分を乗っ取る人物に出会う事を、心の奥底で心配し不安に思っているのかもしれない。それでも……。

「ラディ、僕と君は同じなんだよ。主の傍でなければ生きていけない。君は、まだ主と契約を交わしていない。だから、離れていても生きていけるけれど、僕はそうではない。でもね、主の傍は僕にとって一番安心できる場所なんだよ。君も、ここに居るよりも主の傍にいる方が、ずっと安心できるんだよ」

『でも、僕はそんな人知らない』

 やはり、五歳児に主従の話をしても無理のようだ。ラディは、カマルを気にすることなく、再び絵を描きはじめた。

 ラディを、無理矢理連れて行くのは簡単だ。しかし、連れて行ったとしても、協力してくれなければ仕方がない。どうしたものかと、カマルは考え込んでしまった。

 そんなカマルの後ろで様子を見ていたマーサが、ラディに話し掛けた。

「ラディ、アイリスが泣いているみたいなの、助けてもらえないかしら?」

 ラディは、顔を上げるとにっこりと微笑み大きく頷いた。

 えっ! 

 カマルは、言葉が出ないほど呆気にとられてしまった。

「あなたは、相変わらず堅物ね。ラディは、男の子よ。女の子が困っていたら助けたいって思うでしょ。全く、これだから、いくつになっても伴侶が見つからないのよ。誰に似ちゃったのかしら……。さあ、ラディ、出かける準備をしましょう」

 マーサは、ラディが広げていた物を一緒に片付け、小さなリュックにお菓子と飲み物を詰めはじめた。ラディも、行く気満々で身支度を始めた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ